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第十五話 ていうか、人魚の哀しい未来。

 忘れていたことがやってきた。


「なんか……あっしの知らない間にあっしの身体がご迷惑をおかけしたようで……申し訳ありやせんでした……あ、これはつまらないものですが」


 そう言って女王人魚の本物の(・・・)オシャチさんが菓子折りを差し出した。


「いえいえお気遣いなく……」


 私もつい日本人的対応をしてしまう。

 後ろで「なんで人魚の礼儀作法を知ってるの?」という顔をしたリルとエイミアが私と同じように返礼した。どうやら人魚の文化と日本人の文化は共通しているらしい。


「気がついた時には治療までしてもらっちまって……マーシャンさんでしたか? ありがとうございやした」


「ははは……」


 あなたの意識がないうちに、あなたの純潔を奪った責任とらせただけです。


「あっしも人魚族の将来(・・・・・・)について悩んでたもんで……その隙を突かれやした」


 人魚族の将来? 何かあったのかな?


「どうかしたんですか? 私達で協力できるようなことでしたら……」


 オシャチは力無く首を振った。


「お気持ちはありがたいんでやすが……こればっかりはどうにも」


「まあ話してみなさいよ」


「はあ……実は人魚族はここ二十年ほど男児が産まれてない(・・・・・・・・・)です」


 男の子が?


「ええ……今では跡目を女が継ぐのもよくある事で」


「あの……連れ去られてた男の人魚ってみんな戻ったんじゃ?」


「……男が戻ったとしても……そこまで男児の出生率が下がっておると……危険じゃのう……」


「危険?」


「ええ……人魚は他の種族と交配しても子供はできやせんので……」


「……それじゃあ……」


 ……絶滅は……時間の問題……。


「………………」


 この時。

 マーシャンの顔色が蒼白になっていることには誰も気づかなかった。



 重苦しくなった空気を変えるために違う話題を振る。


「それにしても……人魚って地上でも呼吸できるんですね」


 着物(元オシャチ)はなぜ呼吸できなかったのやら……目の前に人魚姿で平然としているオシャチを見ると変な気分だ。


「へ? ……ああ、そういうことですかい。普通の人魚は呼吸できやせん」


 え?


「女王人魚だからでやすよ……それが普通の人魚との一番の違いっす」


 女王人魚には肺があるらしい……つまり着物(元オシャチ)は知らなくて演技してたわけだ。

 マヌケ……。


「しかし……あっしが意識を失ってる間に獄炎谷(フレイムキャニオン)が陥落するとは……実際に見てみたかったすねえ」


 あんたはまさに中心人物だったんですけどね。


「あなたを操ってた着物に会ってみたい?」


「会いたいか……というよりは」


 背後から匕首を取り出してギラリと光らせて。


「落とし前つけさせやす」


 ……こわいよ。



 まあ……おもしろそうなので連れてくことにした。


「おい! いいのか?」


「大丈夫よ」


 いざとなったらブッ飛ばすから。


「ふ……ふふふ。ふふふふ……」


「さ、サーチぃ……オシャチさん怖いんですけど……」


 ……匕首を太陽に掲げながら笑うのはやめてね。


「………………」


 そういえばマーシャンが元気ないわね……。


「マーシャンどうしたの? 悩むことがあること自体驚きなんだけど」


「……前々から言っておるがワシをなんだと思っておる……」


 私達はお互いを見合ってから。


「変態」

「変態ですね」

「変態だ」


 ……マーシャンは泣き始めた。



「いらっしゃいま……ひえっ」


 全身にドス黒い闘気を纏わせながら震脚を響かせるオシャチを見て、着物(元オシャチ)は腰を抜かした。


「てめえかああ! 舐めた真似してくれたのは!」


 そして匕首を取り出し。


「ケジメだ! タマとっったるわああああ!」


 言ってることは極道だけど、尾びれでピョンピョンしながらなのでイマイチ迫力に欠ける。

 そんなゆっくりゆったり迫ってくるオシャチを避けようとしない着物(元オシャチ)


 ぶすりっ


 一分ほどしてようやくオシャチの刃が着物(元オシャチ)の腹に突き刺さった。

 着物(元オシャチ)は片膝をつく。


「……これでケジメをつけたぜ」


 そう言うとオシャチは振り向いた。


「……それじゃあ……これで……恨みっこ無しで……?」


 着物(元オシャチ)は腹を抑えながらオシャチに聞く。


「ああ……極道に二言は無い。はやく治療してもらいな。急所は外したよ」


「あ、大丈夫です。私すでに死んでますから(・・・・・・・・・・)


 着物(元オシャチ)はけろっとした顔で立ち上がった……そう言えばアンデッドだったわね……。


「……な……なんだそれ! そんなのありかよ!?」


「でもあんた『ケジメはつけた』発言したわよ」

「でもって『恨みっこ無し』了承してましたね」

「止めに『極道に二言は無い』って言ってたな」

「……お主の負けじゃな」


 私達から総攻撃を受けて口をパクパクさせるオシャチ。お腹に刃物が刺さったままの着物(元オシャチ)は頭をポリポリ掻いていた。

 言い忘れてたけど今の着物(元オシャチ)は、自分が創った自分好みの(・・・・・)美少女アンデッドに自らを着させて操ってる感じ。

 エイミアの「自分のアンデッドは乗っ取れないんですか?」の一言をもらうまで、全く気づかなかったらしい。やっぱりバカだ。

 で、見た目からはアンデッドだとはわからない美少女のお腹に「ぶすりっ」となったのだ。


「……きゃーー! 人殺しよー!」


「うわあ! 大変だ! 警備隊呼べーー!」


「動ける冒険者は集まれ! 犯人(オシャチ)を取り押さえるぞ!」


 ……大騒ぎになることは間違いなく。


「ま、待ってくだせえ! 待ってくだせえ! あ、あいつは人間じゃねえんだ! 違うんだーー!!」


 ……オシャチは殺人未遂の現行犯でお縄となった。



 ……気の毒なオシャチはというと。

 一応、私達も弁護し。

 着物(元オシャチ)の証言と腹黒ギルマスの擁護もあった。

 でも「ぶすりっ」しちゃったのは事実なわけで。

 ……結局一年くらいの懲役となった。



 ……そんな感じの騒ぎもあってさらに半月後。ようやく面倒事から解放され、次の目的地へいく準備を始めた。


「……近いとこだと……いい温泉(ところ)ないわねー」


 パンフレットもとい地図を見ながら目的地を相談していた。


「グラツなんてどうよ? 氷河の城壁(アイスキャッスル)も近いぜ」


「でも冬よ。わざわざ寒いとこ行きたくないし……アタシーなんか良くない?」


暴風回廊(ゲイルストーム)ですか!? スカート履いていけないですね……」


 ……などとキャイキャイ騒いでる隣で、マーシャンは窓越しに空を眺めて考え込んでいた。


「…………マーシャン。ちょっと意見を聞きたいんだけど」


「………………」


「……マーシャン?」


「……冬の氷河の城壁(アイスキャッスル)は入ることすら大変じゃ。暴風回廊(ゲイルストーム)の方が良いじゃろな」


 ……?

 まあ……これで決まりでいいか。


「じゃあ次の目的地! アタシーもとい“八つの絶望”ディスペア・オブ・エイトの一つ、風の迷宮暴風回廊(ゲイルストーム)で決定!」


 アタシーと言えば温泉だけじゃない!

 海よ、海!

 最近じゃ少なくなった泳げる海よー!


「それじゃあ各自役割分担して……」


 そこで。

 マーシャンは立ち上がり。


「……サーチ。エイミア。リル」


 ……静かに。


「……申し訳ないのじゃが……」


 ……マーシャンは。


「……パーティから離脱させてもらえぬかのう……」


 ……泣いていた。

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