EP18 ていうか、刃先の企み。
「なら痛くないように斬れば分裂する?」
「痛くないようにって……止めろよ! さっきの心臓刺されたヤツも、死ぬほど痛かったんだぞ!」
実際に死んでたわけだし。
「いやね、麻酔をかけてから、サクサクッと……」
「サーチ、そんなことしたら下着ドロボーが倍増しますよ」
やっぱ止めとく。
「さて、あんたが下着ドロボーだってことは認めるわね?」
「下着ドロボー? 何のことだ?」
「しらばっくれたってムダよ。ほら」
空中端末の画面を広げ、さっきのウィリーの痴態を流してやる。
「ほーら、下着の山に飛び込んで、あーんなことやこーんなことを」
「べ、別にいいだろ! それにこれが下着ドロボーをやったっていう証拠になるのかよ!」
「確かに。これは状況証拠に過ぎないわね」
「だろ!? 俺はただ目の前に下着の山があったから、性的興奮が抑えられなくなって飛び込んだだけだ!」
「つまりー、下着に興味があってー、性的興奮を覚えたのはー、認めるわけねー」
「お、おう」
…………はい、録画完了。今の告白を画面に映して見せてやる。
『俺はただ目の前に下着の山があったから、性的興奮が抑えられなくなって飛び込んだだけだ!』
「な、何だよ」
「いえね、今の告白を添えて、あんたの痴態をネットに公開してやったら……どうなるかしらね?」
私の言葉を聞き終えたウィリーは、みるみる顔色を青白くしていった。
「大人しく白状するのと、しらばっくれ続けて社会的に抹殺されるのと……どっちがいい?」
「あ、え、う」
「ライラちゃーーん。大々的にネット中継を」
『畏まりました』
「うわあああああああああああ! 悪かった! 俺が悪かったああああ! 下着ドロボーです! 俺が下着ドロボーですぅぅぅぅ!」
まったく、最初から素直に言えばいいのよ。
「で、下着ドロボーの件はわかったんだけど、あんたの不可解な≪立体幻影≫について教えてもらえる?」
「あ、ああ……あれは〝覇王の指輪〟っていう魔道具の影響だ」
「具体的には?」
「あの指輪は装備した者のスキルを数倍にアップする効果がある……らしい」
「らしい?」
「俺もよくわからないんだよ。〝刃先〟にもらっただけだからな」
「もらったって……そんな強力な魔道具を気軽にくれたわけ?」
「アイツは『お前が実験台になる覚悟があるならば、この指輪を授けよう』って言ってたな」
怪しさ大爆発じゃん!
「俺も警察に追われてたからな、背に腹は代えられなかったのさ」
「で、一か八かで装備してみたら……」
「信じられないくらいに≪立体幻影≫がパワーアップしてな。多重の幻影やリアルな船まで作れた」
「……その力を使って私達を出し抜いてくれたわけね……」
「つーか、そのビキニアーマー様は!?」
「そうよ、私のよ! ていうか、何よ『様』ってのは!?」
「そ、それこそが俺が望んでいた理想像! まさに全て遠き理想像なんだよ!」
止めれ。
「おおお、ビキニアーマー様、今日もご機嫌麗しゅう……」
「ちょっと止めてよ! マジでキモいんだけど!」
「ああ、ここに神が舞い降りた。俺はここにビキニアーマー神教の設立を宣言するおがぶぅ!?」
「変な宗教作るな!」
するとナタが私の肩に手を置き。
「……良かったね、教祖様うぐぶぉふ!?」
うるさいっ!
ウィリーを徹底的に縛り上げて連行する。
「警察には突き出すからね」
「クソ……せっかく事故から生還したのに……」
事故?
「それって……軍に所属してて、部隊ごと行方不明になったってヤツ?」
「ああ。海賊船を発見した際の交戦で、エンジンに直撃くらってな。俺は強制揚陸艦で海賊船に突っ込んでたから命拾いしたが」
「じゃああんただけじゃなく、他にも助かった人達がいるんじゃないの?」
「ああ。海賊船の制圧の際に何人かは殺られたが、俺を含めて八人は生き残ったよ」
「その生き残りはどうなったの?」
「知らねえ」
は?
「海賊船で基地に戻る途中にブラッディーロアに捕縛されてよ。その時に散り散りになって、それっきりさ」
「……じゃあ、あんたはそのときに……」
「ああ。指輪を渡されて、海賊船も貰えたんだ」
……ホントに実験台に使ったみたいね。
「……もしかしたら、生き残ったあんたの同僚も……」
「可能性はあるな。俺と同じように実験台にされてるかも」
…………。
「……っよし、今だ! ≪立体幻影≫!」
!? しまった、逃げるつもりか!
「さあ、どれが本物かわかるまい!」
……?
「あーっはっはっは! そのビキニアーマー様、必ず取り戻してやるぜ! じゃあな!」
………………?
「あーっはっはっはっはあいた!?」
先回りした私の足に引っ掛かって、コケるウィリー。
「な、何故だ! 何故俺の居場所が!?」
「……ていうか、あんたさ。今何をしてたの?」
「はあ!? そりゃ≪立体幻影≫を使って、たくさんの俺の幻影を……」
「どこ? あんたの幻影どこ?」
「な、何ぃ!?」
「私からは、何かほざきながら走り出してったようにしか見えなかったんだけど?」
「そ、そんなバカな! ≪立体幻影≫! ≪立体幻影≫!!」
「……何も出てこないんですけど?」
「そ、そんな……そんなバカなあああああ!!」
『……スキル自体が消失しています』
放心状態になったウィリーのステータスを、端末で強制的に開いたライラちゃんからの報告。
「スキルが消失?」
『はい。スキル欄が完全に空っぽです』
空っぽなんてあり得ないじゃない。
「こいつ一応元軍人だから、銃火器のスキルなんてありそうだけど」
『スキル欄が何故か不自然に空っぽになっています』
……てことは……。
「どう考えても〝覇王の指輪〟が絡んでるとしか思えないわね」
「そうですね。その指輪を使う副作用が、装着者のスキルを奪う……という可能性が高いですね」
そうか、そういうことか!
「〝刃先〟の狙いはこれだったんだ! 〝覇王〟シリーズを有力なスキルを持っているヤツに装備させて、スキルを奪うことが目的なんだわ!」
「スキルを奪う!?」
「全てのスキルの根元と言われる≪万有法則≫に関わるモノだからね。それぐらいできても不思議じゃないわ」
その後、ウィリーがスキルを使えることは二度となかった。




