EP15 ていうか、ツチノコ。
「……みんなが集めてくれた情報の分析の結果、ウィリーのアジトは廃棄された第五コロニーではないか……という説がかなり有力だとわかりました!」
「…………わーい」
「ぐー」
『お疲れ様でした』
ローテンションのエイミアに完全に寝ちゃったナタ、そして普段と変わらないライラちゃん。
「うん、ヨシヨシしてあげよう」
『ふえ? あ、有り難う御座います』
反応が乏しかった二人は、今日の夕ご飯を一品抜いてやるのだ。
「ライラちゃんはよく頑張ってくれたから、ご褒美として夕ご飯に好きなモノを作ってあげよう」
『え!? そ、そんな、私ごときに勿体無いご配慮ですわ!』
余談だけど、アンドロイドは普通にご飯を食べられる場合が多い。全てエネルギーに変換されるエコな設計だそうで。
「そんなこと言わずに、遠慮しないで。ね?」
『そ、そうですか? では……私はスペースツチノコが好きなのですが』
「……は?」
「ふわぁ。凄い人ですね」
リゾートホテルを出た私達は、寝ちゃったナタをおんぶしたライラちゃんと別れ、スペースツチノコを探すために市場にやってきた。
「そうね。卸売りだけじゃなく小売り店もあるみたいだから、一般のお客さんも多いからね」
市場から直接持ってこれるから、鮮度は段違いだ。それを求めて来るお母さんがほとんどだろう。
「何より、安い」
「……でもスペースツチノコって聞いた事が無いんですけど、市場に出回るんですか?」
「知らない。とりあえず聞き込み聞き込み」
……ていうか、市場に出てたとして、売れるのかしらね?
「ねえなぁ」
「無いですね」
「ないよ」
『無いですな』
案の定、どこにもない。
「ていうか、かなり珍しいの?」
「そうだなぁ……俺もここに勤めて長いが、今までに三回しか見たことないな」
はあ!? 三回!?
「……ていうことは、まずまず出てこない?」
「だな。諦めた方がいいぜ」
…………そうしよっか。ライラちゃんには第二候補の鶏からで我慢してもらおう。
「ん? 今、スペースツチノコって言ってなかった?」
帰ろうとした私達の背中に、若い女の子の声がかかる。
「へ?」
「私達ですか?」
「そうよ、あんた達よ。スペースツチノコ欲しいなんて変わり種、あんた達くらいでしょ」
確かに。
「ていうかあんた、スペースツチノコ持ってるの?」
「あるよ」
え!?
どよっ
若い女の子の口から飛び出した「スペースツチノコ」という言葉に、辺りがざわめく。
「おい、またかよ。先月のスペースツチノコもだったよな」
「流石はレアモンスター専門業者だ」
レアモンスター専門業者?
「そ。私がレアモンスターハンターとして名高い、リモートってもんだ」
レアモンスターハンター・リモートって……まんまアレじゃん!
「……ていうか、セーラー服で眉毛が太いわけじゃないわね」
「はあ? 何でそんな動きにくい服装で狩りしなくちゃなんないのよ!」
ごもっとも。
「で、いくらで買ってくれるんだい?」
へ? あ、スペースツチノコか。とりあえず空中端末で平均取引額を調べてっと。
「……えーっと……八万エニーかな?」
「ん? 八万かあ……うーん……」
悩んでる悩んでる。けど数分後に、リモートが一度頷いて口を開こうとしたとたんに。
「十万だ!」
は?
「いや、十一万!」
へ?
「さあさあ、十一万が出た。他ないか他ないか?」
だ、誰か知らないけど仕切り始めたぞ?
「十二万!」
「十五万!」
「ええい、二十万だ!」
二十万まではね上がると、元気だった声が半分くらい減る。
「さあさあ、二十万、二十万だよ! もういないか!?」
仕方ないか。
「二十五万!」
私の一声でさらに少なくなるが。
「二十五万二千!」
まだ粘るヤツがいる。
「なら二十五万五千」
「二十五万五千五百!」
「二十六万」
「く……! な、ならば二十七万五千! これでどうだ!」
「二十七万五千一」
「い、一!? く………………ま、まさか一エニーで負けるとは……!」
ま、まさか一エニーで勝つとは……。
「ほいよ、スペースツチノコ一匹ね」
どすぅん!
デカいな! リモートのアイテムポケットから飛び出したのは、全長5mはあろうかという巨大なツチノコだった。
「スゲえ……あれだけの大物、なかなか市場に出回らねえぞ……」
ていうか、ここまでデカいのは流石に……。
「ねえ、もっと小さいヤツはないの?」
「!? ……どれくらいのサイズだ?」
「えっと……」
一人前だから……。
「……50㎝くらい?」
「な……!? ふ、ふふ、ふふふ……あはははははははは!」
はい?
「あんたわかってるねえ! そうだよ、そうなんだよ!」
はあ?
「わかった! 気に入ったよ! 50㎝のヤツ、さっきの額で売ってやるよ!」
へ? 50㎝をさっきの値段!?
「そ、それはちょっとさすがに……「いいんだよ! 今回はあんたのグルメっぷりが気に入ったんだ! 気にするな!」 ……は、はあ……」
……まあいいか。そこまで痛い出費ってわけじゃないし。
『で、では本当にスペースツチノコを!?』
ライラちゃんは珍しく心底驚いたようだ。
「ええ。だけど私達全員食べるわけじゃないし、あまりにもスペースツチノコが大きかったから……」
私はちっちゃいツチノコの頭を掴み、ライラちゃんに差し出す。
「こんなくらいでもいいかな!?」
ライラちゃん一人食べるんだから、問題ないでしょ。
『な………………』
な?
『何と恐れ多い! 私のような者にここまでの御心尽くし……!』
はい?
「ちょっと待って。小さいのよ? 逆に『少ない』って怒られるかと思ってたのに?」
『そんな! スペースツチノコの稀少種をわざわざ調達して下さいましたのに、怒る等とんでもない!』
…………へ? 稀少種?
「な、何それ?」
『え? ご存知ではなかったのですか?』
知らない知らない。首を横にブンブン振る。
『……スペースツチノコは大変美味なのですが、見た目と遭遇率の低さから珍味扱いされています』
それは知ってる。ネットで見た。
『その中に、異常に小さい個体が生まれる事があります。これが非常に少なく、稀少種として知られているスペースツチノコです』
ははあ……スペースツチノコってのは、普通はもっとデカいのね。
『その稀少種は身体が小さい分旨味が凝縮され、この世のモノとは思えない程の美味なのです』
そういう事か。
「だから高かったのか」
『ええ。お幾らだったのですか?』
「えっと……二十七万五千一エニーかな」
『……………………………………はい?』
「ね、高いでしょ?」
『…………これだけの上物なら……一千万は下りませんよ?』
「……………………………………はい?」
リモートさん……太っ腹すぎだよ……。
桁違いの太っ腹。




