EP14 ていうか、エイミアは寝てから使え。
『では口をライラにお返ししますね。では』
必死に『返して』アピールをしていたライラちゃんの口が返還され。
『ふはぁ……!? な、何サラすんじゃ、クソボケがぁぁぁ!!』
「ライラちゃん、地が出てる」
『ふぇ!? し、失礼致しました…………ニーナ様、金輪際御免被りますわよ!』
口が動く代わりに、手が動いて合掌する。
『だ・か・ら! 人の身体を勝手に乗っ取るんじゃねえええええ!!』
怒り狂うライラちゃんを見て、どこかでニーナさんが笑っている気がした。
「……一度手を出した船には近づくこともしない、か。徹底してるわね」
「ちゃんと下調べもしてるっぽいね。こりゃ完全にプロの領域だよ」
「くぅ〜……くぅ〜……」
それから一日かけてネットでウィリーに関する情報を集めた。ライラちゃんが必要な情報を集め、私とナタとで整理と分析をする。
エイミア? 開始から五分くらいで寝ちゃったわよ。
「……ねえ、サーチ。いいの?」
「ん? 何が?」
「エイミア。完全に寝ちゃったよ?」
「あーいいのいいの。放っておけば」
「えー……」
ナタが不満そうだ。
「……何よ」
「だって、ボク達はこうやって一生懸命情報収集に勤しんでるのに、エイミアだけぐーすかぴーと……」
「いいのいいの。そのうちわかるから」
私の言葉を聞いて引き下がるナタ。でもやっぱり不満そうだ。
「ま、あと一時間もすればわかるわよ」
私は再び端末の画面に集中した。
やがて一時間。
「…………ふー」
「ナタ、大丈夫?」
「あ、うん。ちょっと肩こりがねー」
すると寝ていたエイミアがモソリと動いた。
ビリビリッ
「はわわ」
「ん? どした?」
「か、肩が急にシビれて…………あ、あれ? 楽になった。痛くなくなってる!」
「ならまだ頑張れるわね」
「まって。腰も少し」
ビリビリッ
「はふあ!? ま、またシビれて…………な、治ってる!?」
「だから言ったでしょ、エイミアは寝させておけって」
私の言葉に反応して、ナタがエイミアに注目する。その周りには静電気のような弱い電流がパリパリと流れていた。
「こ、これって……エイミアが?」
「そ。エイミアは睡眠が深くなると、無意識のうちに身体の治療を行う微弱な電気の結界を発生させるの。本来は自分の身体を治療するためのモノらしいんだけど、≪蓄電池≫が強くなるのと同時に治療結界の範囲も広がっててね」
「……今じゃ周りの人間にも影響を及ぼすほどになったと?」
「そういうこと。ケガをしたときもエイミアと寝れば、一晩くらいでだいたいは治っちゃうわよ」
幸せそうに眠るエイミアを見て、ナタは苦笑する。
「なるほど、サーチの言う通りだ。エイミアを寝かせておくと、ボク達の能率が上がるわけだね」
「ま、それだけじゃないんだけどね。ほらほら、もうちょい頑張るわよ」
「え、あ、はい」
再びネットサーフィンを始める。
……再び一時間経過。
「……はふぅ。流石に疲れたよ」
パリパリッ
「疲れは取れるけど……喉の渇きはどうにもならないね」
「でもないわよ。エイミア、自販機で冷たい紅茶買ってきて。500mlのね」
「え?」
私の言葉に反応してナタが振り向くと、立ち上がったエイミアがドアに向かっているところだった。
「エ、エイミア起きてたの?」
「まだ寝てるわよ」
「は!?」
ガチャ バタン
するとエイミアが戻ってきた。手には紅茶のペットボトルが握られている。
ただし。
「め、目を閉じたまま!?」
「だからまだ寝てるって」
「ね、寝てるって……立って歩いてるじゃん!」
「エイミアはね、眠りが浅くなると無意識に動き出すのよ」
「…………」
「で、この状態のときは大体は言うことを聞いてくれるわ。だから……エイミア、脱いで」
そういうとエイミアは、着ているモノを脱ぎ出した。
「サササササーチ!?」
「やっぱ服着て…………ね? 普段のエイミアなら絶対にやらないでしょ?」
「た、確かに……ならエイミア、何か一発ギャグを」
ナタの言葉にしばらく悩んでいたエイミアは、突然手を交差させてバッテンを作り。
ばしゃあああん!
「ひゃあああ! な、何で天井から水が!?」
た、確かに一発ギャグとも言えなくはない。
それからさらに一時間。いろんな情報が集まっている。
「ふわああ……喉が渇いた。エイミア、水ちょうだい」
ナタのヤツもエイミアを使い始めたか。けど。
「エイミア、ペットボトルに500mlでいいからねー…………間に合ったかな?」
「……? サーチ、いちいちそんなこと言わないとダメなの?」
「寝ぼけた状態のエイミアは基本的に言うことに忠実よ。ていうか、忠実すぎるの」
「忠実すぎるってどういう……おごっ!?」
戻ってきたエイミアはナタの口に漏斗を差し込む。そして持っていたポリタンクを持ち上げて、勢いよく。
ドッポドッポドッポドッポ
「がぼっ!? ごぼがぼべほ! ぶふぇぇぇ!!」
「……正確に数量を言わないと、とんでもない量を持ってくるのよ」
やっぱペットボトルの下り、聞こえてなかったか。
「ひ、ヒドい目にあった……」
「要はどう使うか、よ。慣れればエイミアも有効な後衛になるわ」
「ていうより、起こして使った方がいいよ……エイミア起きて」
あ、バカッ!
「……ふぁ……ふへ?」
あーあ、起きちゃった。
「ふぁぁぁ……すいません、寝ちゃったんですね」
「別にいいよ。それよりエイミア、端末を使っての検索手伝ってよ」
「へ!? わ、私がですか!? い、いいんですか?」
エイミアが私をチラチラ見てくるけど……知〜らない。私は自分のアカウントを閉じた。
「ほら、早く」
「ははははい! ま、まずは自分の端末を……」
エイミアが自分の空中端末を開く。
「え、えーっと、ろぐいんして……これ押して……あれ押して……」
ヴィーッ ヴィーッ
「え!? ナニコレ!?」
やっぱり。
「エイミア何をしたの……って、ウイルスにマルウェアに……! 何でセキュリティソフト入ってないの!?」
「な、何ですかそれ?」
「うわー! ボクのアカウントにまでウイルスが……! サーチ助けてよ!」
イヤよ。私だって一からアカウント作り直すのコリゴリなんだから。
「ライラちゃん、ナタのアカウントを閉鎖して。私達に被害が及ばないように」
『畏まりました』
端末を終了させた私の隣で。
「えっと、このボタンを押せば……」
ヴィーッ ヴィーッ
「あ、あれ? また警報が……」
「うわあああ!? ウイルスが倍に増えたああああ!!」
ナタのアカウントは着実に崩壊していった。
ナタ、大被害。




