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EP12 ていうか、ビキ殺名物♪

 第二十一コロニーは、シリンダー型と呼ばれるタイプの宇宙コロニーだ。30㎞を越える巨大な筒型の内部には、百万人以上の人達が暮らしている。この筒が自転することによって重力を作り出し、地球に似た環境を作り出している。


「百万人ですかぁ……そんなに暮らせるんですね」


「宇宙の研究するために大学や研究機関が入ったり、商品開発のために企業が進出してきたり。それに家族が加わってさらに増えて、その人達に必要な食べ物やサービスのためにスーパーや娯楽施設も参入してきて……そうやって増えていったのよ」


『現在の人口は最盛期の1/3にまで落ち込んでいるそうです』


「1/3って……そこまで落ち込んでも、この規模ですか!?」


「落ち込んだと言うより、ブームが去った、という感じだよ。火星の惑星改造(テラ・フォーミング)中は宇宙コロニー群が前線基地だったから、イヤでも人口は集中しただろうし」


 なるほど、火星に移住が進んだ今じゃ、宇宙コロニーに住む理由がなくなってきてるわけだ。


「ただ火星までの中継点っていう意義で必要だったから、各コロニーに残っていた人達を一番大きいコロニーに集約させ、第二十一コロニーともう一つにある程度の人口が保たれた……で、現在ってことか」


『そういう事で合っていると思われます』


 私達はそんなことを話しながら第二十一コロニー内を歩いている。重力は完全に地球と同じで、火星みたいにフワフワした感じはない。


「ていうか、ホントにあるのよね、温泉!?」


『温泉という定義に当てはまるかは疑問ですが、コロニーの機械熱を利用して温めた湯を使い、入浴施設を運営していますわ』


「うん、それも温泉だ♪ 地球のも火星のもマグマによって温まった湯がいわゆる温泉なんだから、似た理屈で第二十一コロニーのも温泉なのだ♪」


「……そうなんですか?」


「ま、理屈では温泉ってことになるんじゃない? 宇宙コロニーを人口物だと思わなければ」


『サーチ様が温泉だと仰られるのですから、温泉で間違いありませんわ』


「……ライラちゃんってホントにサーチ命だよね」


『マスターには絶対服従。メイドとして当然の事です』


「たまには地を出して羽根を伸ばしてもいいんじゃないですか?」


『そうですか? ならパーティ揃って朝日に向かって突っ走るんで夜露死苦ぅ!!』


「「やっぱり普段通りで」」


 ワイワイと話しながら私達が目指している場所……それは。


「まさかあるとは思わなかったわ、温泉リゾート♪」



 第二十一コロニーでの情報収集も手詰まりになり、そろそろ次のコロニーに移動しようか……と言っていた矢先に。


「ウィリー? ああ、元軍人の。なら一年くらい前までスペース21リゾートで働いてたぞ」


 という超有力情報が飛び込んできたのだ。


「それって何?」


「このコロニーでの唯一の温泉施設だよ。東区の駅近くにあるぜ」


「温泉!?」


 ……というわけで、私の個人的趣味には関係なく、ウィリーを追うという重大な理由のため、私達は温泉に向かっているのだ。決して私が温泉に入りたい、という衝動に駆られているわけではない。温泉に入るのはあくまでついでなのだ。


「どっちにしても温泉に行くんでしょ、サーチは」


「もち♪」


 ナタは苦笑いを浮かべ、エイミアに視線を向ける。


「昔っからなの、サーチの温泉好きは?」


「……いえ。最初はそこまででも無かったですよ。どちらかと言えば、私やリルの方が温泉が好きだった気がします」


「そうなの?」


「ええ。私達に付いてきて、逆にサーチが温泉に嵌まったような感じですね」


「へ〜」


「私とリルの場合は、温泉よりも巨乳やビキニアーマーへの拘りの印象が強いですね」


「…………それって、もしかして前世の影響かな?」


「つまり、前世のサーチは貧乳だったと?」


「可能性はありますね。貧乳だとビキニアーマーは厳しいんぎゃひん!」

「だ・れ・が……貧乳だって?」


 崩れ落ちたエイミアの背後には鬼がいた。のちにナタはそう語った。


「ちょ、ちょっと待って。今は貧乳じゃないんだからいいじゃない」


「……また貧乳言った」


「だから、今は貧乳じゃないって言ってるじゃん!」


「また言った!」


『ナタ様、サーチ様はピー乳という言葉そのモノに反応しているかと』


「な!? つまりサーチには貧乳って言葉は禁句だってこと!?」


「また貧乳って言ったあああああ! 許すまじ!」


 手甲剣がギラリと煌めく。


「ちょ、ちょっと待って! 話せばわかる! わかるから!」


「……闇に撫でられ……」


「ちょ!? シャレになんないって!」


「狂い死ねえええええっ!!」

 ずどおおおおんっ!

「うっぎゃああああああああああ!!」



 ……ぴーぽーぴーぽー……


 ……今ごろナタは、救急車の担架の上で苦しんでるんだろうなぁ……。


「いいお湯ですねぇ……ナタも一緒に入れればよかったんですが」


 相変わらずの胸囲的、じゃなくて驚異的な回復力を見せたエイミアは、今は何ごともなかったかのように露天風呂に浸かっている。


「……私の本気の蹴りをくらって十五分でケロッと起きてくるあんたが謎だわ」


≪蓄電池≫(バッテリーチャージ)の応用で回復力を高めるなんてお手のモノです」


 人間の細胞分裂の回数は決まってるって言われてるのに、サクッと無視してるわね。ま、ファンタジーの世界に細胞分裂もクソもないか。


「ていうか、温泉浸かれば死にかかってても治る自信があるわ」


「サーチ、その方が余程非常識ですよ!?」


 うるさい。ファンタジーは何でもありなのだ。


『本当に良いお湯ですわ。パーツの隅々まで染み渡ります』


「…………温泉入ってリラックスするアンドロイドがいるくらいだし」


 周りを見ても、アンドロイドで温泉にいるのはライラちゃんだけだ。


「ていうか、アンドロイドがお風呂入って意味あるの?」


『勿論ですわ。外装の汚れを落としたい衝動は人間と同じです』


 外装……私達でいうところの皮膚か。


『噂をすれば、ほら』


 ガチャン ガチャン ガチャン ガラッ


『ふー、やっと温泉よ温泉』

『長旅だったから腰のベアリングが痛くて』

『いい加減に交換したら? メンテナンスをケチるから痛いのよ』

『だってー、ブランドモノの外装欲しいじゃん』


 ど、どうやらアンドロイドのギャルズらしい。


『あー、枝毛だわ。最悪ー』

『髪の毛を交換してもらわないからよ。ほら、ペンチで切っといたら?』

『新しいワックス試そうかなー』

『再塗装した方が早いわよ』


 な、斜め上の会話すぎる。ていうか、アンドロイドにはこれが日常なのか。


『わかりますわ〜、あの悩み』


 …………さいですか。

アンドロイドの女性も同じ女性。

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