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EP9 ていうか、リッツァー大尉のスキル学。 2

「お、おほん! 次に私以外の姿の≪立体幻影≫(ドッペルゲンガー)について解説します」


 あらあら、顔を赤くしたまんまで……か〜わいい♪ 思わずお尻をペロンと……。


「ひぃあああ! な、何をするのよ!」


 あら、腰を抜かしちゃった。


「サーチ! 駄目ですよ!」


「はいはい、ごめんなさいごめんなさい……いよっと」

 きゅっ きゅっ

「はああああああん!」


 あら?


「リ、リッツァー大尉?」

「は、はふ……」


 し、しまった。ちょっと刺激が強すぎたかしら。


「……サーチィ……」


「は、はい!? エ、エイミア? 何か怒ってない?」


「…………この件は、ヴィーにしっっかりと報告しておきますから!」


 あ、待って、止めて、マジで。



 私の悪ノリで腰砕けになっちゃったリッツァー大尉は、椅子に座って仕切り直し。ただし私は、半径3m以内には接近禁止となった。


「え〜っと、それで私以外を≪立体幻影≫(ドッペルゲンガー)できるのか、という質問でしたけど……結論としては、できます」


「できるってことは……戦艦でも?」


「勿論。慣れ親しんでいたモノほど、忠実に再現できるわ」


 せ、戦艦に慣れ親しんでって…………あ、もしかして。


「……キュリスって元軍人だったり?」


「その可能性はありますね」


 キュリス、という名前を聞いたとたん、何やら考え込むリッツァー大尉。


「……キュリス? キュリス二世号の事か?」


「へ?」「二世号?」


「あ、いやね、私が第二十一コロニー軍に入隊した頃なんだけど、ちょうどある戦艦が行方不明になる事故があったのよ」


「戦艦が?」


「ええ、忽然とレーダーから消えたって。その船の名前がキュリス二世号なの」


 ……行方不明になった戦艦と、下着ドロボーが同じ名前、ねえ……。


「……リッツァー大尉、そのキュリス二世号って見たことはあります?」


「え? が、画像のデータくらいなら」


 なら……テレフォンを起動する。


「ニーナさん、私達を襲撃してきた戦艦の画像データ、今すぐ私の端末に送ってくれない?」


『わかりました』


 通話が切れて数秒も経たないうちに、新着メールのアイコンがついた。早いな。


「リッツァー大尉、この船じゃない?」


 自分の空中端末の画面を目一杯引き伸ばす。


「……うん、そうだと思う。外装も『キュリス』って書いてあるし」


 なら間違いない。


「下着ドロボーのキュリスってのは、元キュリス二世号の乗組員ね」


「なら行方不明になった当時の乗組員を調べれば、犯人の本名がわかるかも?」


「……大分絞り込めるとは思うけど……乗組員って一つの船に数百から数千人単位で乗り込んでるわよ」


 多いと数千人っすか。そりゃ特定するのは手間だわ。


「サーチ、その中に≪立体幻影≫(ドッペルゲンガー)の使い手が居ないか調べれば……」


 あ、そうか。≪立体幻影≫(ドッペルゲンガー)って希少スキルだったっけ。再びニーナさんを呼び出す。


『……はい、何でしょうか』


「ニーナさん、キュリス二世号っていう事故で行方不明になった船の乗組員について調べてほしいの」


『わかりました』


「その中に≪立体幻影≫(ドッペルゲンガー)の使い手がいたら、すぐに知らせて」


『わかりました。居ましたら直ぐにお知らせします』


 テレフォンを切る。よし、これで犯人の本名が判明するだろう。


「あとは戦艦をどこまで再現できるか、かな」


「あ、そうですね。リッツァー大尉さん、私達は戦艦一隻を撃沈したんですけど、それが≪立体幻影≫(ドッペルゲンガー)だとしたら、当然本人にダメージが?」


「あ、それはないよ」


「「……は?」」


「肉体的ダメージが本体に記憶として伝わるのは、あくまで幻影が自分と近いモノのみに限定される。同じ人間なら痛みも同じでしょ?」


「そ、そりゃあまあ……」


「逆に戦艦くらいかけ離れていると、痛みなんてわかるはずがないじゃない。だから痛くも痒くもないね」


「あ、そうなんだ……ていうか、だったら自分自身の幻影じゃなく、ロボットとかの幻影を作れば、やられてもダメージはないんじゃ」


「そんな簡単な話じゃない。戦艦やロボットが人間からかけ離れている分、どうしても幻影に綻びが出てしまう」


「……綻びが出ると、どうなるの?」


「ちょっとしたことで幻影が崩れる。つまり、長くは持続しないの」


「……戦ったりなんかは?」


「無理々々々々。砲弾の一つも撃てないよ」


 …………。


『サーチ、その話は前回の戦闘での展開に一致します』


 ニーナさん?


『最初に海賊船に遭遇した際、私の放った一撃で爆散しましたが……今から考えたら、脆かった気がします』


「え、でもエンジンに直撃したんでしょ。それなら……」


『船にとってエンジンが最大の弱点なのは常識です。故に防御面に関しては特に重厚な作りとなっています。今から考えてみたら、あの程度の砲撃で爆散するような船は不良品以下です』


 な、なるほど。


「……つまり、最初にニーナさんが撃沈した海賊船は幻影。私達が倒した海賊も幻影。船に突っ込んできた強制揚陸艦も……」


「私が見た強制よーりく艦ですか? 何故か中はがらんどうでしたけど、船は船でしたよ?」


「……リッツァー大尉、船の中は再現できます?」


「その部分だけ強化して幻影を作れば。でも長くは持続できないね」


 ……一応可能ってことか……。


「ていうかニーナさん、何かわかったの?」


『はい、軍のコンピュータにハッキングして調べた結果』


 ちょっとちょっと! 現役の軍人がいるんだから、そんなこと堂々と言わないでよ!


『一名該当しました』


「いたの!?」


『はい。名はビル・ウィリー・ウィリアムズ』


「………………めっちゃ偽名っぽいわね」


 ビルもウィリーもウィリアムズの略称だし。


『彼の≪立体幻影≫(ドッペルゲンガー)は歴代一と言われ、その気になれば空母すら再現出来たそうです』


「そ、それって外見だけ?」


『いえ、全てです。中は勿論、搭載機や対空装備、果てには乗組員の大多数までも』


「スゲえな! そこまで再現できれば戦争できるじゃん!」


「〝闇撫〟、人間以外の幻影は脆いと言っただろう? おそらくその幻影も」


『ええ。一分ほど飛行した後に消滅したそうです。しかもビル・ウィリー・ウィリアムズはその後一週間程寝込んだとか』


 意味ねえな!


「つまり……使うには時と場所を選ぶ、ということですね」


「でも可能だってことはわかったわ。ちなみにだけどリッツァー大尉、あなたは船と複数の人員と精巧な強制揚陸艦を幻影で同時に作れます?」


「ぜっったい無理!」


「……というわけで、ビル・ウィリー・ウィリアムズを下着ドロボーと仮定して動くわよ」

犯人断定?

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