第十四話 ていうか、ビフォーアフター。
後日。
あれほど恐れられ、攻略不可能とされていた獄炎谷は……。
『それでは……テープカットをお願いします!』
わあああ……
ぱちぱちぱち
……スーパー銭湯に変わっていた。
「いらっしゃいませいらっしゃいませ……ありがとうございます」
……この施設の美人支配人が元守護神だなんて誰も思わないわね……。
「いやあ参った参った……君らは期待以上の成果をあげてくれたよ」
「…………テープカットご苦労様です」
気味が悪いくらいニコニコして腹黒ギルマスがやってきた。
「酷いなあ。僕を見て明らかに半歩退いたよね?」
「当たり前です」
「まあまあ。いい勉強になったと思えば安いものだよ」
あんたが言うな。
「どちらにしても君らが“八つの絶望”の一角を崩したのは事実だ。大手柄だよ」
私達じゃないんだけどな……。
「いいんだよ。君らが達成したことにしとけば。このことは散々話したじゃないか」
まあ……そうなんだけどね。
「近々正式に君らの個人クラスとパーティクラスがアップするよ。それが報酬だと思ってね」
そう言うと手をヒラヒラさせながら離れていった。挨拶周りで忙しそうだわ……大変ねー。
「クラスアップなら、僕としてもギルドとしても、懐は痛まないからね〜」
……前言撤回。大変な目にもっと遭え。
結論として……着物は守護神のままだ。
リルはこのまま現状維持をしたいのなら……という条件の元、ダンジョンの大幅な改装を提案したのだ。
つまり。
冒険者をダンジョンに迷い込ませて、魔力を吸いとる……というのはどう考えても無理があるし、効率が悪すぎる。
ならばどうするか。
簡単な話、来てくれればいいのだ。
ここには炎熱石という無限の火力がある。あとは水さえあれば……温泉の出来上がり。
着物が数日かけて炎熱石の発する熱の流れをコントロールし、アンデッドが土木工事を行い……幾つもの露天風呂を完成させた。
水も何とかなった。
「「「ありがとうございます、またお願いします」」」
着物を取り囲む数人の美男人魚。彼らが水を都合してくれている。
そう、彼らは着物が侍らせていた元逆ハーレムの一員だ。≪魅了≫の効果は切れたはずなのだが……いろいろ思うところがあったのか、何故か戻ってきた。今は着物の部下として献身的に働いている。
……こうして苦心の末に着物達が作り上げた温泉郷。その露天風呂には恐ろしい機能が備わっている。
カポーン……
「……いい湯だよな」
「そうですね……わかってても何も感じません」
「ん〜……魔力容量が多い人間には若干力が抜ける感覚があるやもしれんの」
「まあそれくらいなら問題ないわよ。成功ね」
私達はその機能の人体実験をしているわけだけど……大丈夫そうだ。
人体実験なんて人聞きが悪いけど、大したことじゃない。ちょっぴり魔力が吸いとられるだけだ。
これがリルの考えた悪知恵。
「観光地化して人を集めて、ちょっとずつ魔力をいただこう」作戦。
最初は「ムリじゃないかな……」なんて言ってたんだけど……。
「いや、とても良い考えだよ。すぐやってみよう」
……という腹黒ギルマスの鶴の一声で実現した。細かい部分のすり合わせは全てギルドが根回ししてくれたため、私達は実質何もしてない。あれよあれよという間に計画が進み、ギルド所属魔術士の大量動員と、着物を搾りカスになるまで酷使して創り出したアンデッド工事部隊によって、工期三日という超速度で宿泊施設・食事処・娯楽施設を完備したダンジョンホテルを完成させた。
元々あった老舗旅館は反対するんじゃないか、と思われていた。が……。
「大丈夫だよ。旅館に組合作ってもらって出資してもらってるから。お互いに儲けが出てるから文句なんて言うはずないし」
それどころか、むしろお客さんが増えているとのこと。
結論としてハクボーン全体でウハウハなのだ。
「なあ、サーチ」
「……何?」
「私としてはいい考えだと思ったんだけど……一つ気になってるんだ」
「うん」
「ここのさあ……真竜が怒ったり……しないよな?」
リルの危惧もムリはない。
“八つの絶望”のある場所は真竜が眠る場所でもある。あまり騒ぎすぎて真竜の怒りを買うと大変なことになる。
しかし。
「大丈夫。ちゃんと昨日のうちに挨拶してきたから」
「はあっ!? 挨拶!?」
私はもっと前から気になっていた。だから勇者であるエイミアを伴って炎の真竜の眠る洞窟に行ってきたのだ。
思いの外あっさり見つかった炎の真竜に事情を説明して、理解を求めたのだけど……。
『外で何をしようと儂には関係ない。好きにするが良い』
……とあっさり承諾。
おまけに。
『儂もたまに行ってみても良いかの?』
と言われ、VIP待遇を約束した。意外とノリのいい竜で助かった。
「……だから一切問題ないわよ。安心した?」
「な、な、何で私には一言もなかったんだよ!?」
「言おうとしたけど……ずっと上の空で、人の話まったく聞こうとしなかったじゃない」
リルはうっと呻いた。
「だからこれで……大団円よ」
……何か忘れてる気もするけど……。
「……かわいいですね〜!」
ん? エイミア?
私達以外に誰かいたっけ?
「エイミア、誰がいるの?」
「はい。小人さんが……」
「すいません。おじゃまだったでしょうか? ついきれいなかたばかりがいたので、はいってきちゃいました」
「………………」
「………………」
「えいみあさんはとてもりっぱなものをおもちで……おおきさといいかたちといい……こくほうきゅうですね」
「………………」
「………………」
「さーちさんは……おおきさではえいみあさんにまけるものの、なかなかのびにゅうで……りるさんは……いちぶのしゅみのかたにはうけますね」
「……何で……」
「……てめえが……」
「「女湯にいるんだあああ!!」」
カツラかぶって何変装してるのよ!
「いやあ、僕もいろいろと骨を折ったからね〜……ご褒美だよご褒美」
殺す。マジぶっ殺す。
「でも混浴が君らからの報酬でしょ? じゃなきゃ僕もここまで必死に協力しないよ?」
ん? 報酬?
「……報酬って何のこと?」
「え? 君らの仲間のエルフが僕の協力への見返りにって……」
……マーシャン!
「な、何じゃ? ワシは協力を渋っておったギルドマスターを説得したばかりじゃぞ?」
確かに渋ってたわね……だけど!
「……男だったら混浴しましょ♪うふっなんて言われたらOKするに決まってるでしょうが!」
「待って待つのじゃんぎゃあ!」
水面を走りぬけてのライトニングソーサラーが極る。
「すごい技だねえ。けど流石にはしたないよ、素っ裸で」
「お前は早く出てけーーーーーっ!!」
次の日。
忘れていたことが……大騒ぎの原因となる。