EP8 ていうか、リッツァー大尉のスキル学。
「お、お前……」
まだ警察がワラワラといる中、リッツァー大尉は汗を流しながら私との距離を保つ。
「ま、まさか……」
完全に警戒されている。しまった、マズったか。
「わ、私の……」
「待って、あんたのスキルを悪用しようとは」
「身体目当てか!?」
ちげえよ。
「軍のミスコンで優勝した私の身体が目当てなんだな!? そうなんだな!?」
ミスコンって、ずいぶんと軽い軍だな!
「あ、あのねぇ……私はあんたの身体になんか、これっぽっちも興味ないから」
「で、でも私のCカップの美乳には興味あるんでしょ!?」
「それは…………あるかも」
「サーチ!?」
「やっぱりぃぃぃぃ!!」
「油に火を注いでどうするんですか!」
「ごめんごめん。ていうか、火に油を、だからね。火は注げないからね」
胸を隠して後退するリッツァー大尉。こりゃどうしようもないわね。
「驚かせてすいませんでした。私はキュアガーディアンズパーティ始まりの団リーダーのサーチと申します」
「…………始まりの団のリーダーで、サーチって言ったら……ま、まさか〝闇撫〟!?」
「はいそうですそうです」
もうこの恥ずかしい異名は諦めるしかないな……。
「ひぇ!? こ、殺さないでください! 出来心。出来心だったんですぅぅぅ!!」
「出来心って……一体何をやらかしたの?」
軍の不正にでも関わってるんならめんどくさいわね。
「一週間前に拾った百エニー、自販機で使っちゃいました!」
「そんな程度で命狙うほど暇じゃないわあああっ!!」
「ひぇ! ご、ごめんなさああい!」
さらに後退するリッツァー大尉。ていうか、軍に所属してる割に腰抜けね。
「……はぁ、サーチ、ここは私が何とかします」
エイミアが?
「はいはいはい、どーどーどー」
そう言いながらエイミアは正面から近づき、リッツァー大尉の頭を撫でた。
「ちょっ、逆に怒られるって! ねえ!」
「大丈夫大丈夫。よーしよしよしよし」
ムツ○ロウさんかよっ!
「は、はふぅ……」
って、あれ? リッツァー大尉がトロンとしてる?
「はいはい、怖くない怖くない、どーどーどー。よーしよしよしよし」
「は、はひゃあ……」
「……では私達の話を聞いてくれますか?」
「は、はひぃ……」
リッツァー大尉が陥落した!?
「ふう……これで大丈夫ですよ、サーチ」
「………………な、何であんな方法が有効なのよ?」
「え、だって、ほら」
エイミアはリッツァー大尉のお尻を指差す。
「あの尻尾、どうみても馬じゃないですか」
馬獣人か!
「それじゃリッツァー大尉、よろしくお願いします」
「はははい! ブルルル」
口元を震わせるリッツァー大尉。どうやら興奮すると馬の習性が出るらしい。
「話はわかりました。あなた達が追っている下着ドロボーが使う≪立体幻影≫に対抗する為、私からヒントを貰いたい、という事ですね?」
「はい、簡単に言えば」
「……≪立体幻影≫は個人差が大きいスキルですので、私のモノと同一とは言えませんが……」
そう呟くとリッツァー大尉は目を閉じて集中し。
「……≪立体幻影≫、十人陣形!」
言葉が形を成し、何もない空間に新たなリッツァー大尉が現れていく。
「う、うわあ……す、凄い……」
スキルの効果は凄まじい。見た目はもちろん、仕草から気配までソックリなリッツァー大尉が十人、私の前に立っていた。
「こ、これって……ま、まさか全員がリッツァー大尉そのモノ?」
「そうです。普通の幻影と≪立体幻影≫の最大の違いは、幻影の一つ一つが個々の意思を持っている事です」
「だから私達の存在は夢幻ではありません」
「それぞれに考え」
「それぞれに行動します」
ってことは、純粋に戦闘力が十倍!?
「……ていうか、もしそうならリッツァー大尉は大尉のままのはずがない。何か重大な弱点があるんじゃないの?」
「「「「「「「「「「……その通りです」」」」」」」」」」
ちょ、ちょっと。一人だけしゃべってくんないかな。
「私達は仮初めの身体とはいえ、本体のリッツァー大尉の同位体」
「もし私達が傷付けば、その記憶は残ったままとなり」
「スキルが解除されれば、最終的に本体に引き継がれる事になります」
「そ、それって……もしも幻影が殺されたりすれば、その幻影が体験した痛みや恐怖はそのまま……」
「はい。私の記憶に刻まれます。私は今まで十六回殺された記憶があり、その体験の度に心身に大きなダメージを受けてきたのです」
そ、そうなんだ。なら……。
むにっ
「ひゃん!? な、何をするんですか!」
幻影の一体の胸をさわる。
「これも記憶に?」
「刻まれますから! 止めてくださいね!」
なら……。
「へ? い、一体何をするつもりんぐふぉう!」
「この痛みも?」
「な、何てことするんですか!? 元に戻りにくくなるじゃないですかあああ!」
股間を蹴られて泡を吹く幻影を見ながら、本体は半泣きした。
「つまり、一度幻影が大ダメージを食らえば、あんた自身も大ダメージを負うってことね?」
「は、はい。肉体的ダメージは受け継ぎませんが、記憶は……」
股間を押さえて真っ青になってるリッツァー大尉が呟く。痛いわけじゃないんだろうけど、強烈な体験を脳内に叩き込まれ、半分放心状態だ。
「成程。これじゃ直接戦うのは不可能ですね」
「ええ。だから私は普段は後方支援が主な役割でした」
あ、そっか。事務や端末操作だったら十人に分割して行っても本人に支障はないか。
「……あ、待てよ。疲労の記憶も引き継がれるの?」
「…………はい」
……十人分の疲労を一気に体験……それもやりたくないわ。
「つまり反動が大きすぎて、あまり大々的に使えるスキルじゃないわけね?」
「そうです。今は非常時以外はスキルを使わないようにしてます」
……でもそれって……。
「逆も然り、よね?」
「はい?」
「だからさ、≪立体幻影≫で十人にわかれて、全員がマッサージをしてもらって、元に戻れば……」
「ああ、成程。マッサージの効果も記憶的には十倍の効果ですね」
「あ、そ、そうだわ。そうですね」
「それに幻影が何か食べた場合、それは本体に引き継がれる?」
「い、いえいえ。引き継がれようがありません」
「だったらさ、普段は手を出しにくい超コッテリ高カロリー料理を幻影に堪能してもらって、元に戻れば……」
「う、羨ましい! 太る心配なく、好きなモノを食べまくり!」
「な、何で気が付かなかったんだろう……!」
感動のリッツァー大尉に極めつけの一撃。
「さらにさらに。十人にわかれるじゃない」
「は、はい!」
「それぞれが男を引っかけてさ」
「は、はい?」
「それぞれが【ぴー】して【いやん】や【ばかん】すれば、快楽も十倍で体験できたり」
「きぃあああああああああああ!」
あら、リッツァー大尉が真っ赤になって撃沈。
「サ、サーチ、何て事を提案するんですか!」
エイミアにはコッテリ叱られました。
リッツァー大尉は実践するのか?




