EP7 ていうか、ご近所トラブル?
スキル≪立体幻影≫については、ネットに詳しい情報が出ていた。
「……自分そっくりな幻影を二〜五体作り出し、自由に操ることができる、か……」
当然だけどスキルには個人差があり、自分の幻影を作り出すのにもおぼつかない者もいれば、自分以外の幻影まで作り出せる者もいる、と。
「あの情報屋の話だと、この辺りで一番の≪立体幻影≫使いと言われてるリッツァー大尉は、その気になれば戦艦の幻影まで作り出せるらしい……か」
相当に個人差のあるスキルらしい。
「でも戦艦の幻影まで作り出せるとなると、あの犯行はリッツァー大尉クラスのスキルの使い手じゃないと無理ですよ」
エイミアの言うことはもっともだ。人が乗り込んでも幻影だとは気がつかないほどの戦艦の幻影だし。
「とりあえず≪立体幻影≫でどれだけのことができるのか、実際に見てみた方がいいわね」
「それはそうですけど……どうやって見るんですか?」
「そこはほら、当人に協力してもらって」
「当人って…………まさか」
「そう、そのまさか。リッツァー大尉に聞いてみましょ」
というわけで、決めたからには即断即決。
ピンポーン♪
「い、いきなり本人の家を訪ねるんですか……」
「まずは会って話をしてみないことには、どうにもならないでしょうよ」
「そ、それはそうなんですけど……」
………………ていうか、誰もでてこないわね。
「……留守かな?」
「……反応無いですね。一旦出直します?」
「そうねえ」
踵を返そうとした、そのとき。
「いい加減にしなさいよおおおおおっ!!」
スゴい怒声がリッツァー大尉の隣の家から響いてきた。
「な、何かしら?」
「……どうやら押し問答してるみたいですね」
押し問答? 気になって声が聞こえた場所に行ってみると。
「私だって境界は越えないように枝を切ってるじゃない! なのに何でそこまで言われなきゃいけないのよ!」
片方はボーボーに草が生えた庭らしき場所で、頭上の木の枝を指差して怒鳴る若い女性。
「だーかーらー、管理できないんだったらー、木を全部伐ってしまえってー、何度も言ってるでしょー」
片方はいかにも「私は神経質っ」といった顔をした、痩せぎすな初老の男性。
「サ、サーチ、あの女性……!」
うん、間違いない。軍のデータとも合致する。
「……これはチャンスかも…………あの〜、すいません。リッツァー大尉でいらっしゃいますか?」
「んあ!?」
なかなか迫力のあるガン飛ばし。だけどそれで怯んでいられない。
「すいません、私達はキュアガーディアンズのパーティ始まりの団なんですが」
「キュアガーディアンズ? もしかして軍の関係で?」
「はあ、まあ……」
違うけど。
「そうですか……ならすいませんが、話し合いは一旦止めさせてもらいますね」
若い女性――リッツァー大尉が初老の男にそう告げて背を向ける。
が。
「話し合いも何もー、お宅が木を全部伐ってくれればー、それで済む話ですよー」
「っ! ……だから!」
あーあー、せっかく話が終わりかけたのにぃ!
間に入って取りなすこと一時間。どうにか食い下がるリッツァー大尉を引き剥がし、私達はようやく会話ができる状態まで持ち込んだ。
「はあ、はあ、く、くそお! あのクソジジィ!」
ガマンガマン。確かに粘着質なオッサンだったけど。
「あの、それでお話がありまして」
「聞いてよあのジジィ! 事ある毎にウチの庭の木にケチつけてくるのよ!」
「は、はあ……」
「確かに木が伸び放題になってるのは事実だけどさ、私だって時間を見つけては手入れしてるのよ!?」
「そ、そうですか」
「それをグチグチグチグチと…………何なのよ、あのクソジジィ! 撃ち殺してやろうか」
まあまあ。
「サ、サーチ、話をし辛いような……」
……いや、これは逆に。
「チャンスよ」
「は?」
「あ、リッツァー大尉さん。私はこのようなトラブル解決にも長年携わってまして」
「へ? そうなの?」
「サーチ、私達はそんな仕事は一度もおぐふぉ!?」
鳩尾を肘打ちされて撃沈したエイミアは放置。
「あ、あの……?」
「あ、何でもありません。それで私が見事に解決しましたら、リッツァー大尉のスキルを拝見させていただきたいのですが……」
「私のスキル? いいよいいよ、それで解決するなら安いもんよ」
いよっしゃあ!
ピンポーン♪
「はいはいはーい」
『はいは一回』
「は?」
『あ、何でもありませーん。隣のリッツァー大尉に頼まれて参りました、キュアガーディアンズですが』
「隣の……何用でー?」
『今お宅がお隣と揉めている件に関しまして、仲介をすることになりまして』
「仲介……ねー。わかりましたー、お入り下さいー」
ガチャ
「失礼しまーす♪ ……あら、お家の方は……」
「私は独り身ですー」
「あ、それは失礼しました。それでなのですが、まずはお互いの主張をお聞きしたいと思いまして」
「成程ー、要は第三者の立場で判定してくださるのですねー。ならば私からの主張は一つだけー、あの娘さんにこの場所から出て行ってほしいだけですー」
「へ? 出てってくれと?」
「はいー。私は大の軍人嫌いでしてー」
は?
「オマケにあの娘ー、自分の家の管理もろくにできないようでー……おかげで私の家の庭に枯れ葉が舞い込んでくる始末ー」
……枯れ葉が舞い込んでくる以外は、完全に言い掛かりじゃん。
「それにあの娘の家にはミカンの木がありましてなー」
「え? あ、はい」
「そのミカンの木に蜂が集まってくるのですよー」
は、蜂。
「その蜂が私を刺したらと思うとー……早く対処してほしいのですー」
………………その辺りのタンポポにも普通にいるぞ、蜂くらい。
「ですからー、出て行ってほしいですー」
……あかんわ。話し合いにもなりゃしない。
「なるほどなるほど。でしたら……」
サクッ
「んあー? …………ぐっ!?」
「あんたがこの世界から出て逝きなさい」
「へ? 死体で発見された?」
お隣さんに止まるパトカーを見ながら、リッツァー大尉は唖然としている。
「ええ。たぶん心臓麻痺じゃないかと」
話してもムダだとわかったので、毒を含ませた針を首筋に打ち込んだのだ。毒は自然に分解されるヤツだし、動かなくなった時点で針を抜いて傷は塞いだから、バレることは100%ない。
「…………」
「で、解決しましたよね。約束は守ってもらえます?」
「…………ま、まさか……あんた……」
「……約束、守ってもらえますよね?」
ここでニコリとスマイル。
「は、はい……」
リッツァー大尉の視線には怯えの色が見えた。
サーチらしい解決法。




