EP3 ていうか、ま、まさか……!
宇宙海賊が出てきたりすることもなく、平和な時間が過ぎていく。
『サーチ、お風呂の番ですよ』
きたあああああっ!
「お風呂だ♪ お風呂だ♪」
変化のない退屈な日々。そんな中での楽しみと言えば、ご飯とお風呂に決まっている。
「サーチ、お先に〜」
頭を濡らしたまま歩くナタを見送って、着替え片手にスキップスキップターン♪
「……サーチは相変わらずお風呂大好きですねぇ」
「まーね♪ あんたも一緒に入る?」
「嬉しいお誘いですけど遠慮します。少し狭いですからね」
ちょっと残念なのは一人で入るのがやっとなくらい狭いこと。だからエイミアが言うことは当然なことなのだ。
「ですから早く出てくださいね。昨日みたいに二時間待ちなんて嫌ですし」
「に、二時間も入ってたっけ?」
『正確には二時間十一分ですわ、サーチ様』
ライラちゃんのにこやかなつっこみを流して、私はお風呂へ滑り込んだ。
「ららら〜らら♪ ららららら〜ら〜♪」
ビキニアーマーを脱いで、脱衣カゴに入れていく。
『サーチ、そのアーマーも洗っておきましょうか?』
「へ、洗えるの?」
『はい。大体のモノは洗える機能が付いています』
ニーナさんもほぼ船の機能を把握したようで、あれやこれやと世話を焼いてくれる。家事から解放された私は嬉しい限りだ。
「じゃあお願いね。やほ〜♪」
下着も突っ込み、念願のお風呂へと突入していった。
「らん♪ らんらららんらんらん♪ らん♪ らんらららん♪」
お風呂には似つかわしくないメロディを口ずさみながら、洗った髪にタオルを巻きつける。そのまま湯船に浸かって至福の時間を……♪
ヴィーーッ ヴィーーッ
「な、何事!? ていうか私のお風呂を妨害するのは誰よ!」
『エマージェンシー! 海賊船が私に近付いてきます。迎撃しますか?』
「さっさと撃ち落としちゃって」
『了解。主砲充填開始、発射まで三秒』
短いな!
『三、二、一、ファイア』
ずどぉん!
…………ちゅどおおおん…………
『海賊船のエンジンに命中。そのまま爆散しました』
よおおおし、今度こそゆっくり……♪
ずがああん!
ヴィーーッ ヴィーーッ
「またあ!? 今度は何よ!」
『強制揚陸艦に接触! 船内に侵入者が』
「ちぃ……ニーナさん、艦内の防犯システムで捕まえられない?」
『現在進行形です。侵入した十二名のうち、九名は射殺しました』
「残りは?」
『一人は……ナタが射殺。もう一人はエイミアが取り押さえています』
残り一人!
『もう一人がすばしっこくて……ああ! お風呂の近くまで!』
ああ、もう! 湯船から出てガンブレードのみを装着し、お風呂から出た。
「……へえ……アサシンなんだ」
私に声をかけられて動揺し、私の格好を見てさらに動揺する侵入者。
「その割には隙だらけだけどね」
ザクンッ
「ぐはあっ!?」
ガンブレードが侵入者の首を捉え、頸動脈を切断する。そのまま大量の血を流し、侵入者は倒れて痙攣する。
「片づいたわ。それじゃ、あとはお願い」
ふーやれやれ、これでゆっくりお風呂に浸かれる。
ヴィーーッ ヴィーーッ
またあ!? いい加減にしてよ!
『さらに侵入者です!』
「強制揚陸艦から?」
『はい。まだ残党がいたようです』
……なら……。
「エイミアとナタで強制揚陸艦を制圧して! ライラちゃんは私と一緒に新たな侵入者の迎撃を!」
『『『了解!』』』
パーティ専用回線で指示を出すと、素っ裸のままで走り出した。これが後々までの後悔に繋がるとも知らずに。
『侵入者は四名。どうやら全員手練れのようで、防犯システムでは対応出来ません』
侵入者の正確な位置は掴んでるので、私とライラちゃんとで追い詰めていく。
『サーチ、強制よーりく艦は制圧しました!』
『敵は全員片づけたよ』
揚陸ね。
「そこぉ!」
ずぎゅうん!
「ぐはぁ!?」
よし、一人始末した。
『サーチ様、こちらも一人始末致しました』
「よっしゃあ、あと二人ね……ニーナさん、一人ずつ分断して追い詰めて」
『わかりました。ライラちゃん、その先の船室に居ますので始末をお願いしますね』
『畏まりました』
フライ返しを片手に走っていくライラちゃんの姿が浮かぶ。うん、血に濡れたフライ返しはやっぱり似合わない。
「ニーナさん、こっちは?」
『……真っ直ぐに風呂場に向かっていますね』
風呂場?
「何でお風呂に……って、入ってるヤツを人質にするつもりかな?」
『おそらく』
入ってるヤツは私で、しかももう飛び出してきてるから、残りの一人も詰みだ。
「さあて……私達の船に忍び込んだ報い、受けてもらうわよ」
ガンブレードがギラリと煌めいた。
念のために≪気配遮断≫を発動してお風呂に近づく。何やらゴソゴソしてるみたいだけど……?
「……何をやってるのかしら? 人質にするならお風呂に乗り込むはずなのに……」
脱衣場で何を……? 気になって中の様子を見てみると。
「すーはー、すーはー」
……深呼吸?
なわけあるか!
「まさかと思うけど……うりゃ!」
どがしゃあん!
ドアを蹴破って中に突入すると。
「すーはー……あ」
「あ」
わ、わ、私の下着を……!
「あ、あんた……何をやってんのよおおおおおおおおおおおおっ!!」
無意識のうちにガンブレードをマシンガンモードでぶっ放した。
ダダダダダダダダダダダダダダダダッ!!
「木っ端微塵にしてやるぅぅぅっ!!」
手甲剣を突き刺して魔力の糸で動きを封じる。そのまま魔力を爆発させる!
どがああああああああああああん!!
「……はあ、はあ、はあ……」
…………き、気色悪い! まさか宇宙空間で下着ドロボーに忍び込まれるなんて……!
「サ、サーチ、何事ですか!?」
音を聞きつけたナタが駆け込んできた。
「し、下着ドロボーよ! みんなも被害に遭ってないか確かめてみて!」
「し、下着ドロボー!?」
……結果として。
「……ありません」
「……ボクも」
『わ、私もです』
わ、私のも……! ぜ、全部やられた……!
『数年前から≪立体幻影≫の使い手が、宇宙船ばかりを狙って下着ドロボーをしていると聞いてましたが……』
「「「『知ってたんなら教えてよ!』」」」
『私は下着を持ち合わせておりませんので』
そうねそうね! ニーナさんには必要ないもんね!
『しかし……逃げられましたね』
自分の船すらも幻影だったらしく、いつの間にか霧散していた。相当リアルな宇宙船の幻影だったみたい。
「それよりサーチ、いい加減に服を着たらどうですか?」
「あ、そうね。忘れてた………………あれ?」
ビキニアーマーが……ない?
サーチ、やられた。




