EXTRA ライラちゃんと、雷々と
結局火星に着いてから離れるまでに、パーティのメンバーは私を除いて全員入れ替わることになった。リルのパーティに移籍したヴィーとナイア、そのトレードで加入したエイミア。リファリス軍に出向したリジーと、その交代要員で加わったライラちゃん。全くの新規のナタ。
「これだけ入れ替わったのは、暗黒大陸に旅立つとき以来かな〜……」
大幅にフォーメーションをいじらないと。前衛のリジーが抜けた穴はデカい。
「ねえ、ライラちゃん。普段、戦うときの得意な武器は何?」
『雷々流人器術ですわ』
「それって……エイミアを武器代わりに振り回してた、あれ?」
『そうですわ』
「……それ以外で何かない?」
『雷々流人器術の奥義には、人器総喚というモノがありますわ。ですから大丈夫ですわ』
…………?
「な、何? どゆこと?」
『人器総喚は雷々流人器術の免許皆伝に等しい奥義ですわ。周りに武器となり得る人材が居ない場合、手元にあるモノに念を通し、武器として使う事が出来ますの』
「な、何でも大丈夫なの?」
『そうですわ。普段から使っているモノですと念を通し易いですわ』
「な、なら通し易いモノを出して」
『そうですわね……』
ライラちゃんはエプロンのポケットをゴソゴソと探る。
『…………ライラのフライ返し〜!!』
なぜか聞き覚えのある効果音が鳴り響く中、ライラちゃんは使い込まれたフライ返しを天に掲げた。
「フ、フライ返し?」
『そうですわ。このフライ返しは私がリファリス様に使え始めた頃に、エリザお姉様がくださいましたの』
何でフライ返しを?
『エリザお姉様が「取っ手が緩んだから代える」と言って、私に投げてきましたの』
それって「捨てといて」って意味だと思うよ!?
『それから私はこのフライ返しをオリハルタイト加工してもらい、大事に大事に大事に大事に使って参りましたの』
オ、オリハルタイト!? フライ返しをオリハルタイトにしちゃったの!? ていうか、そこまで大事なフライ返しを武器に使っていいのか!?
『それから料理に、戦闘に、お掃除に、虫の駆除にと活躍し続けました』
ちょっと待て。百歩譲って戦闘はわかるけど、お掃除と虫の駆除って?
『そういう訳でして、このフライ返しが最も扱い易いですわ』
「……一応聞くけど、大事なモノなのよね?」
『はい、勿論ですわ』
「それを掃除や虫の駆除に使っていいわけ?」
『大事なモノは常に使い込んでこその大事なモノですわ!』
……ま、いるよね。大事にしてるモノを特によく使う人って。
「……まあいいや。ライラちゃんは完全に前衛?」
『はい。リファリス様の元では何時も先鋒を担っておりました』
お、リジーの後釜決定ね。
「なら腕を見てみたいから、ちょっと手合わせしてもらえる?」
『サーチ様とですか!? 光栄で御座います!』
そう言ってライラちゃんは、近くを通り掛かったナタを。
『雷々流人器術一の奥義、人間武器化・万能砲』
「えええ!? ちょっとちょっと! か、身体が動かないぃ!?」
武器にした。
『性能を試しますので少しお待ちを……機関銃モード』
「え、ちょっと待っ」ダダダダダダダダダダッ!
スゲえ。ナタ、口から正体不明の弾をぶっ放した。
『動作に問題無し。次、狙撃モード』
「ボ、ボクに断りなく何を」ズギュウウウン!
『動作に問題無し。次、大砲モード』
大砲!?
「ちょっと待ってちょっと待ってあがががが」すどぉぉぉぉん!!
『問題無し。ナタ様の武器化仕様は大変優秀であると推測致します』
……動作には問題なくても、口から煙吐いて白目剥いてるナタには問題ありまくりじゃね?
「ナタ、大丈夫ー?」
「…………」
「へんじがない、たたのしかばねのようだ」
「…………」
これはマズいかも。
「ちょっと、エイミア! ナタをお願いできない?」
私の声を聞きつけたエイミアが来るが……武器化されたナタを見てたじろいだ。
「わ、私はもう嫌ですからね!」
「違う違う。武器になってほしいんじゃなくて、気絶したナタを介抱してやってほしいのよ」
「あ、そういう事でしたら『少し擽ったいですわよ』……へ!? ちょちょちょちょっと!?」
いつの間にかエイミアの背後に回っていたライラちゃんは、エイミアに触れ。
『雷々流人器術一の奥義、人間武器化・魔杖』
「ええええ!? またですかぁぁぁ!?」
今回はこん棒じゃなくて杖?
『魔杖秘術・電撃起床』
バリリッ!
「はひゃあ!?」
なるほど、電気ショックでナタを起こしたのか。ていうか、普通に起こせよ。
「イ、イヤだあああ! 武器化されるのもうイヤだあああ!」
「わ、私も嫌ですぅぅぅ!」
介抱じゃなく解放された二人は、脱兎の勢いで逃げていった。そりゃそうでしょうよ。
『困りましたわね、武器が無くなってしまいました』
「……ライラちゃん、フライ返しで構わないから」
『そうですか。ではフライ返しでお相手させて頂きますわ』
ギィン!
「はあああっ!」
『むぅ!』
ギィン! ガギン!
へえ……かなりの使い手ね。
「ライラちゃん、もしかして剣を習ってた?」
『剣の取り扱いが雷々流人器術の基礎ですわ』
なるほどねぇ。
ギギィン!
これは……ホントに即戦力のゴールデンルーキーだわ。
「よし、ここまで」
ガンブレードの特訓相手にもよさそう。
『どうでしたか?』
「文句なし。あとはパーティでフォーメーションの訓練を重ねれば、十分やっていけるわよ」
『そうですか。それは重畳で御座います』
重畳って……また難しい言葉を使うわね。
「ライラちゃん、もっと肩の力を抜いてもいいのよ?」
『肩の力を……ですの?』
「そう。今まではリファリスのメイドだったろうけど、今は私達の仲間なんだから。もっとフランクに話していいのよ?」
『フランクに……ですか』
「ええ。エリザだって普段はエセ関西弁でしょ? あんな感じで地を出していいわよ」
『私の……地は……少し……その……』
「ん? 何かマズいの?」
『……そうですわね。一度見て頂ければ』
そう言ってライラはエプロンを脱ぎ、真っ白い上着を取り出して羽織った。すると。
『ちゃーっす、サーチさん!』
は?
『アタイは理怖ぁ利巣団の特攻隊長をはってる雷々って言うんで、夜露死苦!!』
はああ!?
『こんなんだから普段はおしとやかにしてるんで、夜露死苦!』
う、うわあ。よく見ると白い上着の裏っ側、金の刺繍で文字がビッシリ。背中も当然……お察しください。
『で、アタイは普段からこんなんでいいッスかぁ!?』
「メイドフォルムでお願いします」
『やっぱそうっすかぁ!?』
そう言ってからエプロンに着替えると、ライラちゃんは元に戻った。
『そういう訳ですので、このままで夜露死苦ですの』
ちょっと混ざってるわよ。
ていうか、リファリスの配下は二重人格化するのか?
明日から新章です。




