第十三話 ていうか、解き明かされるダンジョンのくっだらない謎。
「も、もうゆるじで……」
はあはあはあ。
「サーチお前……完全に手加減忘れてただろ?」
「……忘れてはないわよ」
するつもりがなかっただけで。何となく察したらしいリルが盛大にため息を吐いた。
「で? なんだったんだよ……あの『真実はいつも一つ!』ってヤツ。かなりスベってたぜ……サーチ? あれ、サーチは?」
「サーチなら隅で落ち込んでますけど……?」
スベってないもん。スベってなんかないもん。
しまった……サーチにはダメージがデカすぎたか?
「……しゃーねえ、サーチが拗ねちまったから私が聞くか……おい、オシャチ」
「……ふん」
ちっ、人をナメやがって。
……よし、ここはサーチのやり方を実践するか。
「おい」
「ふん……いったああああい!」
オシャチの爪を一枚深爪する。
「ななな何すんのさ!」
「ん? 口のきき方がなってないな?」
今度は爪と皮膚の境目にブスリッと。
「いたいいたいいたいごめんなさいごめんなさいすいませんでしただから深爪やめてええええええ!」
「わかればいいんだよ……聞かれたことには全部答えろ」
「……わかった」
「あ?」
「いえわかりましたなんでも仰ってください〜」
オシャチは完全に陥落した。恐るべし、深爪。
「まず私達をおびき寄せた目的は?」
「…………ダンジョンの維持に必要な魔力が……欲しかったからだ」
ダンジョンの維持?
何を寝ぼけたこと言ってやがるんだ?
「あのなあ……嘘を言うにしても、もう少しまともな嘘つけよ。ダンジョンコアがあるのに、魔力が必要なわけねえだろ?」
「ダンジョンコアは……すでに破壊されたのだ」
…………はあ?
「ダンジョンコアが破壊されたってことは……この獄炎谷は……“八つの絶望”の一つがすでに攻略されてたってこと!?」
びっくりした! いきなり復活するなよサーチ!
「ああ……今から四十年ほど前にな」
すげえな……一体誰が……。
「ちょっと聞きたいんだけど……ダンジョンを守ってる守護神は生きててダンジョンコアは破壊された……どういうことかしら?」
そう言えばそうだな。
「それは仕方ないだろう! 私はちょうど隣のダンジョンに視察に行っていたからぐべっ」
「お前が原因だろうが!」
サーチの言うとおりだと思う……。
「さあて……それじゃあ本題といきましょうか。あんたの本体はどこ?」
本体!?
「サーチ、どういうこどだよ?」
「たぶんオシャチ自体は身体を乗っ取られてるだけよ。じゃないと水属性の人魚が炎系の総本山みたいなダンジョンの守護神なんてできるわけないし」
「でもコイツは今は水属性じゃないんだろ? 確かアンデッドだって……」
「ん〜……たぶんだけど……乗っ取られてる間は属性も変化しちゃう……とか? ねえマーシャン、その辺りはどうなるの?」
「そうじゃな、稀なケースじゃから断言はできんが……乗っ取った側の属性がより強く出ると思うがの」
「……というわけよ」
……なるほど。
「な、なな何の事かわからんな……こここれがわわ私の本体そのものだ!」
メチャクチャ動揺してんじゃねえか!
「深爪一本、深爪二本……」
「わああああ! すいませんでした! ごめんなさい! 申し訳ありませんでしたー!」
「なら吐きな。早くしねえと……」
「わかりました! わかりました! この着物が私の本体です!」
「よし、マーシャン許す! 剥いちゃえ!」
「任せるのじゃ!」
「え……あーれー」
くるくるくる……バサッ
……スッポンポンに剥かれたオシャチはそのまま倒れた。
「エイミア、頼む」
「はい……」
エイミアがオシャチを介抱してくれてる間に私が棒っ切れで着物をつまみ上げる。
『ああ! 私の珠の肌に傷がつくではないか! もっと丁重に扱え!』
こいつ……マジで深爪してやろうか。
……あ。手がない。どうしてやろうか……。
「あんまりつべこべ言うと油ギッシュな中年デブ男に着てもらうわよ」
『ぎあああああ! やめて! やめて! やめて!』
……サーチの弱点攻めは相変わらずえげつねえな……。
「結局あんたは何なの? 呪いの防具か何か?」
『私は元々は100年ほど前に活躍した死霊魔術士だ。死ぬ直前に死霊魔術の応用でこの着物に魂を移し変えた』
なるほどなー。死霊魔術って便利だな。
「どうやら着物を着た相手しか乗っ取れないのよね。どうやってこのダンジョンの守護神におさまったの?」
『たまたま着物の下を通ったスライムを乗っ取った』
こいつバカだ。
『そのスライムを倒した冒険者が着物を気に入って着たのでな、乗っ取った』
こいつ行き当たりばったりだな。
『その冒険者がこのダンジョンで死亡したのでな。アンデッドになるのを待ってもう一度乗っ取り……このダンジョンの守護神となった』
ホント行き当たりばったりだな。
『しばらくするとこのダンジョンの周りから突然火が噴き上がってな……アンデッドの私は外に出られなくなり……』
「……それで現在に至る……とか言わないわよね?」
『いや…………その通りだ』
……マジでバカだ。
『どうにかダンジョンから出ようと四苦八苦するうちに……≪遠隔魔術≫が使えるようになり……死霊魔術を使って』
「人魚の巣を作ってあちこち行ってたわけね……」
こいつスゴいのかバカなのかわからん。
『……まだダンジョンコアが健在だった頃は魔力は使い放題だったのでな……≪魅了≫を使いまくって男の人魚を侍らせて逆ハーレムを楽しんでいた』
……死霊魔術士としては天才でも人間としてはクズだな。
『しかしダンジョンが攻略されてからは! ひたすら魔力の節約をし! 細々と逆ハーレムを維持しておった!』
違うところに魔力使えよ。
『しかし枯渇するのは時間の問題! だから人魚の親玉であったオシャチの身体を乗っ取って冒険者を誘い込み、魔力を吸いとろうと……いやあああああ!』
……サーチが無言でハサミを手に近づいていったのを私は止める気にならなかった……。
「ねえ……どうしようか、それ」
私はリルがイヤそうに枝で摘まむ着物を指差す。
するとリルは何かを考えているみたいで……突然、ニヤリと笑った。
「どうしたの、リル?」
「ん、なあに。サーチならどうするだろうな……と考えていたら悪知恵が浮かんだ」
どういう意味よっ。
「なあ、コイツは私に任せてもらえねーか?」
……まあいいけどさ。
あと、これは余談。
「そういえば……この谷を水没させた大量の水、着物の仕業?」
『………………違う』
「じゃあ誰が?」
『最近は魔力が枯渇気味でな……ついに逆ハーレムの≪魅了≫が解けてしまい……反逆されて……』
ああ……なるほど。
その大量の水に乗って逃げていったのね、人魚達は……。
あと二三話で新章です。