EXTRA サーチと、サーシャ・マーシャと 5
マーシャンとの会談内容は、戻ってからみんなにも伝えた。ヴィー達にも聞いてもらうように、テレフォンを用いてのテレビ会議で。
「…………ていう感じ。私としては協力してあげたいって思うんだけど、どうかしら?」
「協力します」
一番最初に私に賛同したのは、意外にもエイミアだった。
『エ、エイミア? いいのかよ?』
「確かに私はマーシャンの策略によって、美少女戦士グレートエイミアにされました」
ああ、グレートエイミア。私だったら即刻首を吊りかねない、最悪な黒歴史。
「ですが私がグレートエイミアになることで、七冠の魔狼戦の勝利に幾ばくかは協力できたと思います」
そ、そりゃあ……まあ。
「もしもあの時、私がグレートエイミアになっていなかったら、私は負けていたかもしれません。それは下手したら、私達も負けていたかもしれないんです」
『……ま、結果論だけどな。つまりはエイミアは、あの状態になったことを後悔してないんだな?』
エイミアは十秒ほど考えてから、控えめに頷いた。あ、やっぱ後悔してないってわけじゃないんだ。
「じゃあマーシャンを恨んでないのね?」
「そうですね。何もかもうまくいって見事な大団円になったら、マーシャンを本気で殴ります」
結局は恨んでるんかいっ!
『……サーチ、私も賛同します』
ヴィー。
「……殴ること?」
『違います! それは当然しますけど!』
結局ヴィーも殴る気満々かいっ!
『私でも立場が同じなら、同じ道を歩んだと思いますから』
『……その意見には賛成ですわ。ワタクシもヴィーさんと同じですもの』
ナイア。
『わ、私もです。もしもエイミア様に何かあったら、私だって……』
エカテル。
『…………ま、結局そうなるな。私だってダーリンがいるしな』
リル…………って、ちょっと待て。
「ダーリン!?」
『あ、ああ。何か問題あるかよ!?』
「も、もしかしてダンナさんからは『ハニー』とか呼ばれてる?」
『呼ばれてねえよっ!』
必死に否定するリルの後ろから、ひょっこりとミニリルが顔を出した。ターニャちゃんだっけ?
「とーしゃんはだーりん、かーしゃんはりるりるだニャ」
「「「「……え?」」」」
『『『……は?』』』
「バ、バカ、言うなぁ!」
リ、リルリルぅ!?
「く…………べ、別にいいんじゃない、リルリル?」
「そ、そうですよ、リルリル……っっ」
「クスッ……そ、それもプライベートな事と思われ」
「あはははははははっ! リ、リルリルって……! ボ、ボクもうダメ! お腹が……ぶわははははははははっ!」
『わ、笑うなぁ! せめてサーチやエイミアみたいに笑うのこらえろよ!』
い、いやいや、笑うなっていうほうがムリ。
『落ち着いてください、リルリル…………プッ』
『別に気にする必要性はありませんわよ…………プッ』
『その通りですよ…………プッ』
『『『あははははははははははははははっ!』』』
『お、お前らあああああああっ!』
≪獣化≫を発動させて迫るリルから、ヴィー達は笑いながら逃げていく。何だかんだ言ってもうまくやっているようだ。
「そ、それじゃ全会一致でマーシャンに協力するってことでいい?」
「「「異議無し!」」」
『い、異議ありません!』
『異議ありませんわ!』
『異議無いです……きゃあああっ!』
『アニャアアアアアアアアアアッ!』
あーあ、エカテルが捕まっちゃった。
「リルリルー、あんたは?」
『フギャアアアアアア!!』
あかん。聞こえてないわ。
『はーい、しゃんしぇー』
すると画面の下から、可愛い手が伸びてきた。ターニャちゃんだな。
「ターニャちゃんの賛成をリルリルの代理意見とみなし、全会一致で可決します」
『リルリル言うニャアアアアアアア!!』
この件がきっかけで、しばらくリルは「リルリル」と呼ばれることになる。
その日のうちにナバナさんにあいさつに行った。
「……そうか。行くのか」
「はい。マーシャンを捕まえましたし、リファリスも納得したみたいですから、私達もここにいる理由はなくなりましたし」
明日には私達は火星を発つ。とりあえずキュアガーディアンズの母艦に戻り、ソレイユを交えて今後のことを協議することになっている。
「そうか……寂しくなるな」
「いろいろとありがとうございました」
「なあに、お前達のおかげで長かった火星の動乱も終わったのだ。礼を言うのはこっちだよ」
そう言うとナバナさんは、私の前にナイフを投げ出した。
「持っていけ。餞別だ」
餞別って……ナイフが?
「何時から我が家にあるのかわからぬが、代々伝わっているモノだ」
手に取ってみるとズシリとくる。意外と重いな。
「抜いても?」
「構わんよ」
断りを入れてからナイフを抜く。いわゆるサバイバルナイフってヤツで、刀身は真っ黒だ。
「我が家の文献によると、それは〝英雄の短刀〟というナイフらしい」
英雄?
「……覇王じゃなくて?」
「うむ、英雄だ」
ふーん……たまたまそういう名前のナイフなだけかな。
「わかりました。ありがたく頂戴いたします」
「うむ。我が家で死蔵するよりは、使ってもらった方がよかろう」
ま、ガンブレードもあるから必要ないとは思うけど……。
翌朝。空港に向かうために会館を出た私の前に、これまた意外な人物が現れた。
『御無沙汰しておりました』
あれ、ライラちゃん?
「どうしたの? リファリスと一緒にヘラスに帰ったんじゃ?」
『我が主様とエリザお姉様から、伝言を預かって参りました』
伝言? ライラちゃんが空中端末を操作すると、立体ホログラムのエリザが浮かび上がった。
『やほー、サーチん元気かー?』
相変わらずのエセ関西弁に苦笑い。
『このホログラムを見てるっちゅー事は、ライラと会ったんやな』
当たり前だろ。
『やからライラが居る前提で話すで。ライラを連れてってほしいんや』
はあ?
『リファリス様曰く、サーチんと旅した後のウチは随分と成長してたらしいで』
さいですか。
『やからライラに経験積ませたってや。頼むわ……ほな』
「ほな、じゃないわよ! ちょっと…………ったくも〜!」
『あの……不味かったでしょうか?』
「別に構わないけど……あんたはいいの?」
『? 何がですの?』
「だって、かなりの期間リファリスやエリザと離れるわよ?」
『リファリス様やエリザお姉様が言う事ですもの、間違いはありませんわ』
……ま、本人がいいっていうならいいか。




