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EXTRA サーチと、サーシャ・マーシャと 4

「あ、そうなの?」


「じゃから、もう少し。もう少しなのじゃ」


「……ていうかさ。≪万有法則≫(コトノハ)だけじゃどうにもならないの?」


「む?」


「だって、あのエセ神は≪万有法則≫(コトノハ)だけで世界の改変をやってのけたじゃない。それができるんだから、人を生き返らせることも……」


「そういう事か。まあ結論から言えば可能じゃ。じゃがそれには膨大な知識と魔力を必要とする」


「膨大な知識と魔力を?」


「そうじゃ。まずじゃが、神命の宝玉(コトノハ・オーブ)≪万有法則≫(コトノハ)。この二つの大きな違いは何じゃ?」


 大きな違いって……。


「スキルか、スキルじゃないか?」


「そうじゃ。何でも可能じゃと錯覚し易いが、≪万有法則≫(コトノハ)は所詮スキルの枠を出ぬ。ちなみにじゃが、世界の改変を行った後、〝知識の創成〟(アカデミア)はどうなったと思う?」


「……この世界に転生してるんじゃないの?」


「そうじゃよ……このように」


 マーシャンは何かしらの魔術を発動し、空中に映像を映し出す。そこには。


『……まだその仕事終わらないのかね!』


『すいません、もう少しで…………OKです! 入力完了しました』


『よし。昼から本社に出向くから、君もついてきたまえ』


『わかりました。幾つか資料も準備しておきます』


 ア、〝知識の創成〟(アカデミア)!? 雰囲気はガラリと変わっちゃってる……?


「一応優秀なようじゃが、あくまで人間の域じゃな。改変を行った代償で九割以上の魔力を失い、今まで蓄えてきた知識の大半も消えたようじゃ」


「魔力だけじゃなく知識まで!? スキルを使うのに代償があるの!?」


「スキルには代償がないと思われがちじゃが、それは違う。魔力を消費して天変地異を起こす魔術というスキルがあるじゃろが」


 あ、そうだった。魔術って元々はスキルだったんだっけ。


「それに二つの世界を融合させて、新たな世界に改変する……そんな事をデメリット無しで出来るスキルがあるなら、妾とて苦労は無いわい」


 確かに。


「ちなみにだけどさ、スキルの枠内でサーシャさんを生き返らせようとしたら……どうなるの?」


「そうじゃな。死霊魔術(ネクロマンシー)によってゾンビにするのが精一杯じゃな。今回の場合はサーシャが蘇生を拒否している以上、外見がサーシャっぽい(・・・)ゾンビが出来るだけじゃ」


「え…………≪万有法則≫(コトノハ)でも、そこまでしか出来ないの?」


「過去には死者の霊を説得して納得させた上で、ゾンビ化させた記録はあった。じゃが説得する事も出来ぬ現状では、やはり強制的に蘇生せざるを得ぬ」


 うーん……向こうが交渉のチャンネルを開いていないんじゃ、強制的にならざるを得ないわね。


「……たぶん私が考えつくようなことは全て試したのよね、マーシャンは?」


「うむ。美徳や大罪の宝玉、そして≪万有法則≫(コトノハ)の断片を使用して試みたが、全て失敗じゃったよ」


 ……なるほど。だからオリジナルの神命の宝玉(コトノハ・オーブ)を使うっていう、最終兵器を持ち出すに至ったのか。


「……わかった。わかったんだけど……結局覇王の話ってどうなったの?」


「………………む。忘れておった」


 おい。


「と言うより、正直どうでも良いな。美徳装備と同様に、覇王装備をコンプリートした者が覇王となるのじゃ」


「全部集めたヤツが覇王になって、強大な力を得ると?」


「じゃが己の意思とは関係無く、自称正義のヒーローになって暴れ回るの」


 美徳装備と大差ないじゃん! あれは美少女戦士だったけど。


「しかも一度侵食されると、なかなか抜け出せぬらしい。エイミアもしばらくは暴走気味じゃったろ?」


 確かに。私に対する執着は異常だったわね。


「そういう訳で美徳装備と同様に、覇王装備もコンプリートしたら直ぐにでも宝玉にした方が無難じゃな」


 確かに。百害あって一利なしだわね。



 長い長いマーシャンの解説が終わり、私はため息をついた。


「ねえ、ぶっちゃけ聞くけどさ、マーシャンもマーシャンじゃないわよね?」


「む?」


「これだけ詳しいことを知ってるんだもん、第三者だなんてことはあり得ない」


「……そうじゃな。別に話してもいいじゃろ……妾の元々の名はマーシャ・マクドガル。サーチ、其方が転生前に過ごしていた世界と類似する世界から来た、遺伝子操作を専門とする科学者じゃよ」


 やっぱり。


「それじゃあ、マーシャンが魔神?」


「いや、魔神と呼称されていたのは夫じゃ」


「つまり……サーシャさんってことね?」


「そうじゃ。妾は遺伝学の権威と呼ばれた夫・サーシャ・マクドガルの助手じゃったのじゃ」


「なるほど。だから全てを知っていたわけか……」


 マーシャンは……マーシャ・マクドガルは、潤んだ瞳を窓に向けた。


「……もはやマーシャ・マクドガルの身体も存在せぬ。サーシャを取り戻す為に長い時間の必要性を感じた妾は、今の身体を創り出して魂を入れ替えた。それから幾星霜の年を重ねたか……もはや覚えてもおらぬ」


「……ちなみにだけど、元勇者だったっていうハイエルフの旦那さんは?」


「ん? ああ、あれは一度蘇生に成功したサーシャじゃよ」


 成功したぁ!?


「な、なら同じ方法で生き返らせれば…………って、ダメだったのね」


「さっきも言うたじゃろ? 本人の意思である以上、拒否されれば蘇生は叶わぬのじゃ」


 ……ていうか、その当時のサーシャさんって、三冠の魔狼(ケルベロス)になって七冠の魔狼(ディアボロス)を封印してたはず…………って、そういうことか!


「……マーシャンが神命の宝玉(コトノハ・オーブ)に手を出すことがわかっていたから、七冠の魔狼(ディアボロス)を封印してたのか……!」


「む、何じゃ?」


「あ、しまった。つい口に……!」


「何じゃ? 何を知っておるのじゃ?」


 ……ていうか、もう今さらか。


「サーシャさんが人柱になって七冠の魔狼(ディアボロス)を封印してたじゃない?」


「うむ」


「あれって、マーシャンに大罪の宝玉を渡さないためだったのか……と思って」


「うむ。今から考えてみれば、当然そうじゃろうな」


「ていうか、そこまで拒否られても生き返らせたいの、マーシャンは?」


「生き返らせたい。そして、拒否する理由を聞きたい。妾の生きる糧は、今はそれだけなのじゃ」


「……マーシャン……」


「これは単なる妾の我儘じゃ。故にサーチ達を巻き込むつもりは無い」


「……あのね、ここまで巻き込んでおいて、今さらそれを言う?」


「む、そうじゃな」


「それに……」


「それに?」


「…………何でもない」


 それに……サーシャさんをN○Rしちゃった、てへ☆ ……なんて死んでも言えないし。

最後の話については、絶望の獣編をご参照ください。何気に外道なサーチ。

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