EXTRA サーチと、サーシャ・マーシャと 3
「……わざわざ違う世界に来てまで生物の改造を行ってるってことは」
「おそらく科学者が元々居た世界では、遺伝子操作や生物の改造が禁忌とされていたのじゃろ。何処でもよくある話じゃが、タガの外れた科学者の知識欲は止まる事は無いからの」
いわゆるマッドサイエンティストってヤツね。
「そりゃ知識欲か何か知らないけど、タガでも外れないと作れないでしょうよ、モンスターなんて」
この世界のモンスターって、異様に人型のモンスターが多い。たぶん人間の遺伝子をベースに他の動物を組み合わせたりして、モンスターを作り出したのだろう。
「さて、これで魔神についてはわかったじゃろ。これで全てではないが、先を語るには今度は覇王の話をせねばなるまい」
今度は……覇王か。
「科学者……魔神によって生物は増えていき、何も居なかった世界は活気に溢れていった。じゃがその中で人間は絶滅の危機に陥っていたのじゃ」
「な、何でいきなり絶滅の危機?」
「簡単な事じゃ。頭脳は同じでも身体能力に差があれば、勝敗は明らかじゃろ?」
あ、そうか。人間と獣人なら、どう考えても身体能力は獣人に分がある。
「……あ、でも、人間には魔術が」
「その辺りは暗黒大陸で古人族の話を聞いておるじゃろ。つまり、古人族こそが原初の人間。つまり魔神によって作られた最初の人間なのじゃよ」
「え? じゃ、じゃあ、今の人間って?」
「その話は先じゃ。順を追って話そうぞ」
あ、はいはい。
「魔神は力の弱い人間の為に、空中に無尽蔵に漂っていた魔素を力に変える術……つまり魔術を開発し、人間にだけ使えるようにした。これによって人間は勢力を盛り返し、世界に均衡が生まれたのじゃ」
「それが……暗黒大陸での神話? ゴールドサンの書物に書かれていた」
「ほう、あれを読んでいたか。ならば話は早いの」
多少の違いはあるけど、マーシャンの話とは一致してるわね。
「……ていうか、覇王は?」
「じゃから〜……順を追って話すと言うておるっ」
あ、はいはい、ごめんなさい。
「たく……せっかちじゃのう……さて、後に古人族と呼ばれるようになった人間の中には、獣人との戦いを嫌って暗黒大陸を出る者達も居った」
「……新大陸ね」
「そうじゃ。同じように人間との戦いに嫌気がさした獣人達も新大陸に渡り、新しい国を作った」
「……古人族と獣人がうまく共存してたのも、暗黒大陸での血深泥の戦いを知っていたから、てことか」
「うむ。お互いにぶつかる事が無いよう、ある程度の距離感を保っておったのじゃな……じゃが」
マーシャンは深い深いため息を吐いた。
「それら全てを揺るがす、魔神ですらも想像し得なかった事態が起こるのじゃ」
「…………〝知識の創成〟?」
「そうじゃ。よくわかったのう」
今までの話を聞いてれば、〝知識の創成〟の存在って異質すぎるし。
「……あの似非神の元となったのは、古人族の少年じゃった。どちらかと言えば落ちこぼれでの、周りからは酷く苛められておったようじゃ」
「お、落ちこぼれが神様にまで上り詰めちゃうわけ?」
「そんな少年じゃったが、一つだけ幸運な事があった。それが……魔神に目をかけられるようになった事じゃ」
魔神自らっすか。どえらい幸運ね。
「魔神自身も元の世界で苛められていたようでな、苛められっ子を放っておけなかったようじゃ」
さいですか。
「じゃが、その少年は普通の苛められっ子では無かった。苛めてきた者達に異常なまでの憎悪を抱き、復讐する事だけを目標に生きておったのじゃ」
「…………」
「そして少年は力を得る絶好の機会を与えられる。魔神のお気に入りとなった少年は、神命の宝玉に触れる事すら許されるようになった」
「あかんやん」
「その通りじゃな。魔神は絶対に触れさせてはならぬ者に触れさせてしまった。その結果として魔神は消え、〝知識の創成〟が誕生した」
「あ〜あ」
「じゃが魔神も黙って消されたわけでは無かった。己の最後の力を振り絞り、神命の宝玉に叫んだのじゃ。この者に宝玉を使わせてはならぬ、と」
「…………」
「それを阻止しようとする〝知識の創成〟とのぶつかり合いによって、神命の宝玉は四つに分かれた。それが後に美徳、大罪、魔神、覇王の宝玉と呼ばれる事になる」
「美徳と大罪はさらに変化してなかった?」
「うむ。経緯はわからぬが、美徳は七つの武器防具に、大罪は七冠の魔狼に変化したの」
「なら覇王と魔神の宝玉は?」
「覇王はわかるじゃろ。美徳と同様に武器防具として分割しておったよ」
ああ、そういえば新大陸や暗黒大陸に、覇王の何チャラっていう防具があったっけ。
「そうだ。暗黒大陸でいくつか覇王装備を手に入れて、魔法の袋に突っ込んだまんまだったわ」
「何? ちょっと見せてみよ」
「あ、あとでね。いろいろ入れすぎて大変なことになってるから」
「む、そうか。必ずじゃぞ」
ヤベヤベ。ホントにどこに何があるかわかんないからね。
「じゃ、じゃあ魔神の宝玉は?」
「魔神の宝玉よな……それが一番厄介なのじゃ」
「厄介って。細かくバラバラになってるとか?」
「その方がまだマシじゃ。何せ、形すら無いのじゃからの」
「形すら……ない?」
「うむ。魔神は最後の瞬間、己の宝玉が形に残らない事を願った。それを聞き入れた神命の宝玉は、魔神の宝玉をスキルとして残したのじゃ」
スキルとしてって……まさか!?
「スキルの≪万有法則≫自体が魔神の宝玉なのじゃよ」
うわあ……。
「そ、それって…………どうしようもなくね?」
「何がじゃ?」
「か、形がないモノを集めることはできないでしょ!?」
「何を言っておる。形が無いのじゃから、どのようにも出来ようが。美徳、大罪、覇王の宝玉を集めてから≪万有法則≫で神命の宝玉の再生を願えばいい話じゃろ」
「そ、それで何とかなるの?」
「何とかするのじゃ。ほぼ全てのスキルを再現出来るのじゃから、何かしら手は有ろう」
い、行き当たりばったりっていうんじゃね、それ。
「ていうか、覇王装備はまだ全部集まってないのよね?」
「うむ、そうじゃな」
「それに完全版≪万有法則≫もまだなのよね?」
「うむ」
「…………なら完成するのはまだまだ先の話なんじゃない?」
「そうでもないぞ。妾も覇王装備はそれなりに集めておるし、サーチも持っておるのじゃろ?」
え、ええ、まあ。
「それに完全版≪万有法則≫の行方も判明したしの」
説明回、続く。




