EP13 ていうか、ライラちゃん!?
綿密に打ち合わせを行い、必要な物資を調達し。
「さあ来ました、本番当日!」
ついに火星内戦での最大の局面となるであろう、総統暗殺の日です。
「あわわわわ、はーふーはーふー、あわわわわ、はーふーはーふー」
「ちょっとちょっと、何で実行役じゃないエイミアがそこまで緊張してるのよ?」
「え、だって、私も一緒に行くんですよね!?」
そりゃそうよ。
「私にとって探知機は必要不可欠なんだから」
「…………普通なら嬉しいはずの言動なのに、何故かムカムカするんですけど?」
気のせい気のせい妖怪のせい。
『ご心配なく。私も同行致しますので』
別にサポート役がエイミアだけじゃ不安なわけじゃないんだけど、ライラちゃんも付いてきてくれることになっている。
「ま、あくまで忍び込むのは私なんだし、二人はちゃんとテレフォンでフォローしてくれればオッケーよ」
エイミアは≪電糸網≫で敵の有無を調べ、ライラちゃんがその他でのサポート。
「だから緊張する必要はまったくないわ。気楽にいけばいいのよ、気楽に」
「…………そうですね。わかりました!」
よしよし、特にエイミアが慌てるとヤバいからね。緊張を程よく解してやらないと。
リファリス宅をコッソリと抜け出し、裏道をひた走る。私の背後には足取りが危ういエイミアと無言で飛行するライラちゃんが続いていた。
「あ、あとどれくらいですかあ!?」
胸をばいんばいんと揺らしながら走るエイミアを、ライラちゃんが羨ましそうに見つめている。ライラちゃんは完全なる鉄板だもんね。
「もう少しだけど…………エイミア、そんなに走るのにジャマなのなら、削ぎ落としてしまえ」
「削ぎ!? む、無理無理無理! ダメです!」
『サーチ様、一応刃物は内蔵しておりますが?』
「ひええええっ!? サーチ助けてえええ!!」
「………………あのね、冗談に決まってるじゃない。冗談よ」
『………………そうですわ、エイミア様』
「何ですか、その応えるまでの間は!? ライラちゃんなんか凄く残念そうな顔してますよ!」
『何を仰っていらっしゃるのですか、エイミア様。私はアンドロイドで御座います故、表情など表せませんよ』
「雰囲気で丸わかりだからね、ライラちゃん!」
そうね。そんなデッカい鎌を持って言われれば、誰だって警戒するからね、ライラちゃん。
「何て言ってるうちに到着〜。あれが総統宅よ」
遠目にもわかる巨大な石像。あの下にある横長な建造物が、あのタヌキ総統の家であり、西マージニア国の中枢なのだ。
「……ていうか、あの石像って総統よね?」
『一応そうなっています……到底信じられませんが』
実物と比べても痩せすぎ、背が高すぎ、顔の造形変わりすぎ、何より頭が小さすぎ。つまり、ほぼ別人だ。
「…………あれを実物と同じだと思ってる人、メガネにするか度を調整した方がいいよね」
「私は何より、自分自身をデカデカと石像にする神経が信じられません」
それは大いに同意します。
「…………もしサーチが自分の石像を作ったら、胸を必要以上に強調しそうんぎゃひぃん!?」
「余計なこと言ってんじゃないわよ! さっさと準備始めるわよ!」
股間を押さえてのたうち回るエイミアを放っておいて、手早く準備を始めた。
まだ半泣きのエイミアが総統宅内に≪電糸網≫を広げる。
「びぇぇ……し、侵入予定の窓付近には敵は居ません」
よしよし。なら即断即決。
スタタタッ
初速から最高スピードで駆け出して塀を飛び越え、窓の下に忍び寄る。
ガダタッ
当たり前だけどカギは閉まっている。なので。
キキィン
手甲剣で丸く斬ってカギを開ける。侵入してから、斬ったガラスを元に戻しておく。
『その廊下を右へ真っ直ぐですわ』
「りょ〜かい♪」
一応内部の構造は頭に叩き込んでいるけど、ライラちゃんの案内でよりスムーズに進める。
『サーチ、二つ先の部屋に三人居ます!』
電波に反応したらしく、エイミアから注意がとぶ。
「わかってる」
私も気配を感じていたので、近くの部屋に潜り込む。やがて。
ガチャッ
『じゃなあ、お疲れ』
『はい、お疲れ様です』
……どうやら交代らしい。ドアから出てきたヤツはそのまま私が来た方向――――出口へ向かっていく。
「あ、マズいかも。よーく見れば窓が破られてるって気づくわ」
『気絶させましょうか?』
エイミアなら≪電糸網≫の応用で敵を気絶させることはできる。
「……私が何とかする。気絶して倒れてる方がよっぽど目立つし」
『あ、そうですね』
エイミアを止めて、帰っていった男を追う。
が、一歩遅かった。
「ガ、ガラスが割られて……!? し、侵入者だー!! ブザーを鳴らせー!」
ちいいっ! ドジった!
ビシュッ ザスッ!
「ぐはっ!? し、侵……にゅ…………ぅ」
ドサッ
最後の最後まで任務に忠実ってか。見上げた忠誠心だわね。
「ていうか、その忠誠心を違う方向に向けてほしかったわね……」
ヴィィィィ! ヴィィィィ!
『侵入者だ! 出口を固めろ!』
『閣下の命を狙う不届き者だ! 生かして帰すなー!』
生かして帰してください。総統はぶっ殺すけどね。
「エイミア、ライラちゃん、やっぱ見つかったわ。こっち来て一暴れしてくんない?」
『わかりました!』
『畏まりました!』
エイミアはいつも通りだけど、ライラちゃんはいつもと違うような……?
……ダダダダ!
あ、もう敵が来やがった! エイミア達は来てないけど、仕方ない、先に片づけ……。
どがああああああん!
「とっと。ハデな登場ね。エイミアかしら………………は?」
エイミアだった。エイミアには違いない。だけどエイミアはライラちゃんが片腕で持っていた。
『お初に御目にかかります。リファリス親衛隊副隊長にして副メイド長を務めております、ライラと申します。以後お見知り置きを』
「ライラちゃ〜〜〜ん……離して〜……解放して〜……びええええ」
ピンと姿勢正しく持たれながらも、エイミアはボロボロと泣いている。
『エイミア様、今暫くのご辛抱を。雷々流人器術には最適な御身体で御座いますので』
ら、雷々流人器術ぅ!? 人の身を武器と化すって聞いてたけど、人そのモノを武器化してる!?
『では参ります。雷々流人器術一の奥義、人間武器化・棍棒』
「いやあああああああああああっ!!」
発光するほど電気を纏ったこん棒は、残像を残しながら振り回され。
ずどがあああん! ぐっしゃああああん!
あちこち木っ端微塵にしていった。
『サーチ様、ここは私に任せてくださいまし!』
「え、あ、はい。よろしく」
「いやあああああああああああっ! 助けてええええっ!!」
さらにスピードを増すエイミア。リファリスが「ライラは役に立つ」って言ってたの、こういうことだったのね……。
雷々流人器術。




