EP9 ていうか、急展開でヘラス。
西マージニア国の首都、ヘラス。その一画にある安ホテルの食堂には、政府の臨時ニュースがテレビ速報で流れていた。
『総統閣下は今回の敗戦を聞き、大変に兵士への被害を憂慮されており』
ウソつけ。
『これ以上の犠牲者を出してはならぬ、と仰られ、ついに〝不敗〟リフター卿へ出陣の指示を出されました』
とっくに出陣してるじゃん。
『この出陣によって勝利は決まったも同然です。さあ、今こそ我々西マージニア国々民は結束し、勝利に向かって突き進もうではありませんか!』
いやいや、リファリスが見切りをつけてる以上、勝てることはありませんから。
『西マージニア国バンザーイ! 総統閣下に栄光あれー!』
『『『……西マージニア国ばんざーい、総統閣下に栄光あれー……』』』
うーん、唱和はしてるけど、やる気は無さそうね。言わされてる感ありあり。
「おい、そこの女!」
どこの女よ。
「お前だ! 黒髪の、黒いジャケットを着た!」
同じような格好の人が約四人おりますが。
「白いデニムパンツで……メッシュで……お前だ! そこの露出女!」
「誰が露出女よ!」
「お前以外に誰がいる!? ちょっとこっちへ来い!」
ったく、何なのよ。西マージニア軍の兵士らしい男に呼び出され、廊下の奥に連れていかれる。
「……お前、よかったなぁ。俺達のメガネにかなったおぐふぉ!?」
「いきなり人の胸に手を伸ばすな!」
……って、しまった。情報を引き出すチャンスだったわ。
「もしもし、生きてますかー?」
ありゃ、けいれんしてる。口から血も吐いてるな。
「……しまった、内臓が破裂しちゃったか……」
これはマズい。とりあえず服を調べ、財布と札と小銭は全部いただく。
「身分証明書は……あ、免許証発見。これももらっとこ」
一分も経たないうちに身体検査終了。いただけるモノはいただいておく。
「あとは……ここの掃除道具入れでいいか」
狭い部屋にムリヤリ兵士を押し込め、床に付いた血を拭う。
「……よし、証拠隠滅完了…………ズラかるか」
いやはや、密入国して二時間後に犯罪者になっちゃうとはね〜……ま、不可抗力だけど。
「…………それは強盗というんですよ、サーチ」
「ま、世間一般的にはそうなるのかしらね」
ホテルに戻ってきた私の話を聞いて、頭を抱えるエイミア。何を常識人ぶってるんだか。
「あれだけ目立つ事は避けるようにって、ナバナさんに釘を刺されたじゃないですか!」
「あらあら、あんたがそれを言うかしら? ジュースを買いに駅に降りて、乗り遅れそうになって電車をムリヤリ止めたり、切符がなくなったとか言って大騒ぎして、結局あんたのカバンのポケットから出てきて恥ずかしい思いしたり」
「あ、いや、その、えと」
「……私がどんだけ苦労してもみ消したか、わかってるのかしら?」
「あぅぅ……ごめんなさい」
……たく。再び西マージニアに来ることになろうとは……。
「貴様は何をしてくれたんだあっ!」
それは一週間くらい前のこと。例の砲撃部隊の件で、私が敵を殲滅したことがバレてしまい、ナバナさんに呼び出されたときのことだった。
「ま、まさか、あの中にナバナさんの部下が紛れ込んでたなんて」
「だから妨害工作のみに限定したのだ! それを貴様は……!」
部隊が全滅したってことは、その部下も……チーン。
「何か言う事はあるのか、ゴラア!?」
ヤ、ヤベ。本気で怒りだしてる。
「え、えっと、ご」
「ご?」
「ご、ご、御愁傷様です」
あ、しまった。これは火に油を注ぐヤツだ。
「………………ぶちぃ」
「あ、口でぶちぃって言った」
「…………この……大馬鹿者がああああああああああああっ!!」
……というようなこともあって、懲罰的な意味合いも込めて、私に新たな指令が下った。
「あ、暗殺!? しかも総統の!?」
「そうだ。昨日の晩に、正式に〝腐敗〟から依頼があった。お前ならば難なく出来るはずだ、とな」
依頼って……ギルドじゃないんだから。
「……ま、その辺りは報酬次第って感じかな」
「何を言っている。報酬ならすでに支払っただろうが」
……はい?
「お前が装備しているガンブレード、誰から貰ったモノだ?」
あ!
「まさかそういう意味でこれを!?」
「そういう意味じゃなければ、貴重な一点モノのガンブレードをホイホイと譲る訳が無かろうが」
そ、そうかもしれないけど!
「……不満か?」
「……不満を抱かないように思えます?」
「そうか。そうだな…………そう言えば西マージニア海には、総統御用達の秘湯があるそうだ」
なぬ!? 総統御用達の秘湯!?
「別に興味が無いのなら、総統が秘湯に居る時に集中爆撃で木っ端微塵に」
「ちょちょちょちょっと!? 秘湯まで吹っ飛ばすつもりなの!?」
「そうなるな。ま、私としては総統を亡き者に出来るならば、秘湯の一つや二つ吹っ飛ばしたところで、痛くも痒くもない」
「な……! じ、人類の貴重な財産を……!」
「その貴重な財産を守るか守らないかは、お前が暗殺出来るか否かにかかっている」
「うぐぐ……! さ、三週間! 三週間時間をちょうだい!」
「……二週間だな」
「はあ!? 二週間って……三週間でもかなりキツキツなのよ! ムチャ言わないで!」
「別に構わん。こちらとしては二週間後に秘湯を爆撃するスケジュールに変更はない」
「っな!? な、なら二週間以内に暗殺しちゃえば、爆撃は止めてくれるのね!?」
「……そうだな。そうなるだろうな」
その言葉を聞いた私は、縮地並みのスピードで部屋を飛び出した。
「あ、サーチ。どうかしましたか?」
自分達のテントに戻ると、そこには日向ぼっこをしているエイミアがいた。
「ナタは!? リジーは!?」
「ナタはリジーと一緒に軍の演習を見に行きましたよ」
ぐあ、そうだった! 銃と呪われ武器も出るからって、二人そろって出掛けてるんだった!
「っ……ならエイミア! あんた付いてきなさい!」
「は、はい? 何処へですか?」
「ヘラスよ」
「ヘラスって…………に、西マージニア国の首都じゃないですか!」
「そうよ! 二週間以内に総統を暗殺しないと……人類の貴重な財産が失われるのよ!」
「……はい?」
「何でもいいから早くしなさい! テント片づけて! 早く早く!」
「サ、サーチ!?」
……そのまま電車や車を乗り継いで一週間、ようやく首都に潜り込んだのだ。
「ここでヘマすれば全てが水の泡、行動は慎重にしないと……って言っていたのはサーチですよね!?」
「だからあんたには言われたくない!」
「大体、秘湯が大事だからって私を巻き込みますか!?」
「あんたしかいなかったんだから仕方ないじゃない!」
「だから、そういう事を言うから」
ドンドンドンッ!
『ちょっと、うるさいんだけど! いい加減に静かにしてよ!』
「「す、すいません」」
……隣の部屋からの壁ドンで、一気に静かになった。
「……気を付けましょう」
「そうね。普通にしてても目立つもんね、私達……」
「自覚あったんですか!?」
どういう意味よっ。
結論、二人ともうるさい。




