EP8 ていうか、実戦投入。
やたらと特殊な武器だとわかったけど、爆破コンボが決まれば強力なことには間違いない。タイミングさえ掴めれば、複数の相手に致命的なダメージを与えられるだろう。
「爆破までの最短の時間は……と」
あれから一人でいろいろと試している。ナタは純粋な眠気に勝てずに自分のテントに戻っていった。
キュイイ…………イインッ!
「魔力が満タンになるまでには約二秒……この時間をどうやって稼ぐか、かな」
試してみてわかったんだけど、爆破モードにするにはどうしても魔力を満タンに溜める必要性があるらしい。だから二秒という戦いの中では短くない時間をどうやって作るか、それがこの武器を使いこなす最大のポイントだろう。
「ま、無難なのはジャンプして時間稼ぎかな。一対一なら相手を蹴り飛ばせば十分だし…………ん? あれは?」
そんなことを考えていると、ここから100mほど離れた場所に、コソコソと移動する集団を見つけた。
「……? こんな時間に集団で何を……って、盗賊に決まってるじゃない!」
普通なら自分達よりも数十倍の規模である軍に手を出そうとするバカはいない。だけどそれが補給部隊なら話は違ってくる。
「運良くアイテムポケットの管理者を見つけられれば、莫大なお金を稼げるからね。多少の危険を冒す価値はあるか」
補給部隊の責任者がだいたい軍用のアイテムポケットを管理している。つまりその管理者を捕まえてしまえば、軍の膨大な物資を丸ごと強奪できるのと同じ価値があるのだ。荷物を引き出すための生体ロックなんか、本人の身体さえあれば何とでもなる。
「ま、ナバナさんから何らかの対策はしてるだろうけど……ちょうどいいから実戦で直接実験させてもらいますか♪」
ガンブレードを爆破モードから普通の状態に戻し、足音も発てずに走り出した。
人数は……四十人くらい。よくもまあ、これだけの少人数で軍を襲おうと考えたモノだ。
「ふあ〜あ……げふっ!?」
盗賊は気配を殺して巡回中の兵士に近づき、一人ずつ確実に殺していく。
「……慣れてるわね。かなりの手練れか」
予想外な手際の良さに感心しつつも、背後から近づき。
「……!? っっっ!! …………っ」
男の口を塞ぐと、手甲剣で首筋を斬る。しばらくして動かなくなると、音を発てないように男を横にする。
盗賊が巡回中の兵士を殺していく間近で、盗賊自身も一人ずつ削られていく。が、それが十人にも達すれば気がつかないはずもなく。
「な、何だ、貴様は!?」
「あらら、バレちゃった。ていうか、そのセリフはこっちのなんですけど。私達の軍に何の用かしら?」
「く……! け、消せ!」
リーダーらしい男の指示で私に三人斬りかかってくる。動きはアサシンっぽくてムダがないけど、所詮はアサシンっぽいだけ。
「モノマネが本職に勝てると思う?」
ザシュザシュザシュ!
「「「ぐああっ!?」」」
私に触れることもできず、三人は首から血を吹き出して倒れた。
「な、何事だ!?」
「賊だ! 賊だぞー!」
この騒ぎで軍も盗賊の存在に気づき、動き始める。
「チィィッ! 撤退! 撤退ー!」
リーダーは不利を悟り、撤退の命令を下す。うん、いい判断だね。
実際にリーダーの判断は正しかったようで、軍が逆撃態勢を整えたころには、盗賊はすでに逃げ去ったあとだった。
「クソ! あそこまで上手くいっていたのに!」
「完全に成功したと思ってたけどなあ……」
「あの女だ! あの女さえ居なければ、こんな失態は……!」
「あら、そうかしら?」
男しかいないはずの盗賊団。その中に響き渡る女の声は……。
「!? な、お、お前は!?」
「はろはろ〜♪」
当然、私だ。
「い、いつの間に追い付きやがった!?」
「いやいや、追いついたんじゃなくて、ずっと付いてきてたんですけど」
「な……!」
「ていうか、いつまで経っても気づいてくれないからさ〜……ついつい私から出てきちゃったよ」
「な、何者だテメエ!」
「私? サーチよ。あんた達には〝闇撫〟って言ったほうがわかりやすいかしら?」
「〝闇撫〟だとお!? マ、マズい! 逃げるぞ!」
「逃げるって……相手は一人ですぜ?」
「それに比べてこっちは三十人。全然こっちが有利でさあ」
「バカ野郎、オレの言う事を聞け! マジで殺されるぞ!」
「……リーダー……あんた何時から、そこまで腰抜けになったんだ?」
「そうだ、見損なったぜ」
いやいや、あんた達のリーダーは優秀だよ。ちゃんと自分達の戦力を把握して、勝てるか勝てないか判断できてるもん。
「あ、相手は異名持ちだ! これだけの人数で勝てるわけが……!」
「あーはいはい、勝手に言ってろ! もうあんたの指示には従わねえ!」
「冷静沈着って言ったって、要は単なる腰抜けだったってことだな!」
いやいや、とっても冷静沈着だよ?
「よっしゃああ、この女を血祭りにあげてやろうぜえええっ!」
「「「おおおおおおっ!」」」
「く……! 勝手にしろ!」
部下達の反逆に打つ手なしと見たのか、リーダーは引き下がった。
「おらああああっ!」
私に向かって短剣を突き出してきた男の懐に潜り。
ドスッ!
「あがっ!?」
胸の中心に手甲剣を刺す。そのタイミングで砲身から魔力の糸を発生させる。
「あぐ!? がががががが!?」
身体が動かなくなった男に魔力の波が襲い。
ドパアアアアアアン!!
赤い花火となって上半身を散らした。
「うっわ、思った以上に破壊力抜群ね。明らかにオーバーキルじゃない」
「な、何だ!? 何が起きぐぎゃあ!」
「普通に斬ったり撃ったりでいいか」
砲身から魔力弾を放ち、男の眉間を貫く。
バン! バババン!
「ぎゃ!」「うが!」「おぐ!」
次々と自分達が私に射殺されていることを把握し、残った男達も動揺を隠せなくなる。
「バ、バケモンだ! リーダーの言う通りだ!」
「逃げろ! 逃げるんだあああ!」
ようやく力の差を把握したようだけど……遅い! 男達の頭上に飛び上がり、魔力爆発を空中で炸裂させる。
バアアアアアアアアン!!
「「「ぐああああっ!?」」」
爆発の振動で三半規管を激しく揺さぶられた男達は、全員歩くことも立ち行かなくなり。
「はーい、チェックメイト♪」
ダダダダダダダダダダ!
サイ・ガンの掃射によって全滅することとなった。
「うーん、対人には手甲剣とサイ・ガンで十分ね。あとは今みたいな爆発の衝撃波を使うか、かな」
近接爆破モードはオーバーキルすぎて私が汚れるわ。全身についた血にはウンザリする。
「……ていうか、あのリーダー、逃げたわね」
盗賊団のリーダーはいつの間にか姿を消していた。
「……まあいいか。今度は逃がさないから」
次があれば、だけど。




