EP3 ていうか、実戦投入。
「〝闇撫〟よ、一つ仕事を頼まれてもらえぬか?」
初戦からしばらくは散発的な戦闘ばかりで、私達は待機の状態がずっと続いていたのだが……。
「はいはいはい♪ 何でもいたしますよ♪」
新しい武器を試しに使う、絶好のチャーンス♪
「そ、そうか。やる気に満ち溢れているならちょうど良い。お前にはうってつけの仕事だぞ?」
「私に? パーティでじゃなくて?」
「そうだ。今回頼みたいのは、お前が最も得意としているであろう分野」
「暗殺♪」
「……違う。潜入しての破壊工作だ」
…………潜入。潜入っすか。つまり。
「極力戦闘は避けろってことっすよね?」
「? 当たり前だろう」
そうっすか、戦闘は避けろと。新武器使うチャンスは避けろと。
「……どうかしたのか?」
「どうもしません。大丈夫っす」
何ともやる気の無さそうな態度に、私同様にナバナさんに呼び出されていたお偉いさん達が眉を潜める。
「……閣下。このような何処の馬の骨ともわからぬ輩に、そのような重要な任務を与えるのは、如何なモノかと」
「そうです。我が配下には、この小娘以上の使い手がおります。その役目、ぜひとも我が隊に」
「いや、我等こそが適任」
「いやいや、是非とも我が隊に!」
ありゃりゃ、急に騒がしくなっちゃったな。まあいいや、馬の骨はさっさと引き下がりますか。
「誰が小娘じゃゴラアアアアア!?」
どんがらがっしゃああああん!
…………へ!? 振り返って見てみると、デカい会議用テーブルを一蹴りでひっくり返しているナバナさんの姿があった。
「誰じゃゴラ!? 小娘抜かした口はどいつしゃゴラ!?」
小娘って……どう考えても私のことを言ったんだと思うけど。
「お前かゴラ!?」
「わ、私は違います。私は『馬の骨』と発言致しました」
「じゃあお前かゴラ!?」
「え、わ、私は、その」
「「「こいつです」」」
「な!? お、お主ら……」
「お前かあああ!」
「ぶべっ!? ちょ、ちょっとお待ちくださぐぎゃああああああああ!」
……あーあ。男として再起できないレベルの一撃だわね……。
「サアアアアアアアアアアチィィ!」
「はは、はい!」
「お前ぇぇぇ、まあさあかあ、やる気無いなんて事はぬぁいよな?」
「めめめ滅相もない! 喜んでやらせていただきます、ハイ!」
「よおし、これが詳しい資料だ、目ェ通しとけよ。お前等も文句ねぇな?」
「「「いいですとも!」」」
「よおおおし。なら解散だ。かいさああああん!」
速攻で逃げてきた私は、素早く準備を済ませて旅立った。移動しながら資料を読む。
「……この先の谷で、西マージニアの砲撃部隊が独断専行中。〝腐敗〟とは敵対する勢力に属しているため、あえて命令を無視しているモノと思われる……か」
要はリファリスの手柄にしたくなくて独断専行してるのか。あわよくば自分達で手柄を独占できないかとも考えて。
「……たく。面倒なことしてくれるわね」
情報収集しようにも部隊が小さいから紛れ込めないし、いっそのこと殲滅しちゃった方が……。
「……ん? 殲滅、しちゃう、か……」
部隊そのモノが全滅しちゃえば、東マージニアにとっても脅威じゃなくなるし、リファリスにとっても敵が減るし……。
「いいことずくめじゃん♪ よーし、殲滅しちゃお♪」
やる気が出てきた私は、軽い足取りで谷へと急いだ。
「……発見」
谷の手前に灯りを発見した私は、望遠鏡で様子見する。
「旗は西マージニア軍のモノ。装備も重火器が中心……間違いないわね」
とりあえず暗くなるのを待って行動しますか。早めの夕ご飯を軽く済ませ、戦いに備えた。
そして、一時間後。
「……よーし、そろそろね」
いい具合に暗くなってきたけど、念のために≪気配遮断≫と≪早足≫を使いながら敵陣に近づいていく。
「……この辺り、かな」
魔法の袋から炸裂弾を取り出して分解し、中の火薬をところどころに撒いて歩く。
「……よし」
要所要所に撒き終えると、陣の中心辺りに最後の炸裂弾を投げた。
どぐゎぁぁぁん!
「うわあああ! 何だ何だ!?」
「敵襲! 敵襲……うぐあああ! 火の回りが早い!」
「熱い! 熱い! 助けてくれえええ!」
よーし、いい具合に混乱してるわね。いよいよ新武器・サイキック展開式リングブレードの登場なり♪
ブゥン
「うりゃああ!」
ザンッ! ドシュ!
「がああああっ!?」
「フムフム、斬れ味は文句なしね」
ザンッ! ズス!
「うがあああっ!!」
「うーん、やっぱ突くのには向いてないか。普通の刃物じゃないから斬れるかと思ってたけど……その辺りは従来通りね…………うひゃい!?」
背後に殺気を感じ、すぐに飛び退く。そのすぐあとに、私のいた場所を槍が通過していった。
「な、何で私の居場所が!? ちぇい!」
ドシュ!
いつもならしないけど、槍の男の首を斬り飛ばす。ああ、ムダな斬撃をしてしまったぁ。
「オーバーキルもいいとこだわ。頸動脈切断するだけで十分なのに!」
血を吹き出す男の身体を蹴り飛ばし、再び闇に紛れる。
が。
「おりゃあ!」
「うわっと!」
再び攻撃される。どうして!?
「ええい、仕方ない。スマートさには欠けるけど、無差別攻撃ぃ!」
リングブレードを仕舞って小型銃を二丁取り出し、魔力を込める。
ダダダダダダダダダダダダダッ!!
リボルバーがマシンガン化するというあり得ない状態で、魔力弾が四方八方に飛ぶ。
「ぐあ!」「がは!」「ごぶ!」
次々に被弾して倒れていく。近づいてくる敵には手甲剣で応戦する。
「ぐはっ!」「うげぇ!」
「そらそらそらそらっ! 一人も逃がさないわよぉぉぉぉぉぉ!」
……火星の荒野に光の弾丸と鮮血が飛び散り続けた。
「はあ、はあ、はあ……」
一時間ほどで敵部隊を壊滅させたけど、イラ立ちは隠せなかった。
「っくそ! 何て無様な戦いなの!?」
本来なら死角に回って敵の急所を的確に突くのが私の戦法なのに、今日の私は……! 首を斬り飛ばすなんてムダなオーバーキルまでしちゃったし。あーもー、サイテー。
「何でだろう? リングブレードを使いだしてからよね?」
銃を仕舞って再びリングブレードを取り出す。何がいけなかったのだろう? 再び刃を構成する………………あ。
「これだ」
魔力をそのままブレードにしてるから、おもいっきり光り輝いている。これじゃあ丸見えだわ。
「……この明るさだと、蛍光灯持って戦ってるようなもんよね……」
翌日、リングブレードは返品となった。
返品可能だった。




