EP23 ていうか、〝常傷〟と〝腐敗〟
…………ん? この枕、いつものと違うな……。
「サーチ、起きてください。サーチ」
ん? ヴィーの膝枕かな?
「あれ? ヴィー、少し肉付きがよくなったかな?」
「……!!」
ごすっ
「あいた!? きゅ、急に何を…………あれ?」
「……おはようございます、サーチ」
ん? 何故かヴィーの膝枕が硬い床に変わった…………て、あ。
「ヴィーはいないんだったわ……で」
「ヴィーより肉付きがいい私がいるわけです」
げっ。
「あ、あははは。おはよう、エイミア」
「……この事は部屋に戻ってからゆっっくりと語り合いましょうね?」
あははは……黒焦げにされること確定。
「それより、あれを何とかしないと……」
あれって? エイミアが指差す先に視線を移動させると……。
『へへへ〜んだ! 悔しかったら、ここまでおいで♪』
「何じゃゴラアアアア! 殴り殺すぞゴラアアアア!」
『あらあら、可愛いガキんちょが仰る台詞じゃなくってよ〜♪』
テレフォン越しに何やってるんだか。
「はいはい、いい加減に子供のケンカは止めなさいおぐぅふぉ!?」
「誰が子供じゃゴラアアアア!!」
し、しまった、失言だった…………がくっ。
「……はっ!?」
「サーチ、大丈夫ですか!?」
こ、この私が二回も鳩尾に直撃食らうとは……!
『バーカバーカ!』
「ゴラアアアア!! グォウルァァァァァァ!!」
まだやってたのか。
「はあ、仕方ないか……ピ○チュウ、十まんボルトだ!」
「……毎回思うんですけど、時々私の事を妙な呼び方しますよね」
そう言いながらもエイミアは≪蓄電池≫を発動してくれた。
バリバリバリバリ! ずどぉぉぉぉん!!
「ぴぎゃああああああああああっ!! …………けふっ」
二十秒ほど電撃でシビれたナバナさんは、口から黒い煙を吐き。
……ばたっ
そのまま崩れ落ちた。
『……あーあ。久々にからかい甲斐があったのに』
「リファリス、一応非常時なんだから」
『ごめんごめん……で、何でさーちゃんがこの件に?』
「ああ、さっきの続きなんだけどね……」
私はエリザに再会するまでの経緯を語った。
『……成程ねぇ。さーちゃん達はサーシャ・マーシャの借金の話は知らなかったわけか』
「知ってたら私が立て替えてたわよ。リファリスにお金を借りたらどうなるか、骨身に染みてわかってるからね」
子供時代に銅貨一枚借りただけなのに、どれだけ追い込まれたことやら。
『それじゃさーちゃんはあたしに味方してくれるの?』
「とーぜん。リファリスと敵対するつもりはさらさらありません」
『うん、とってもありがたいんだけどさ、そこの〝常傷〟が何て言うか』
「誰がおチビちゃんじゃゴラアアアア!!」
「ちょっとリファリス! その言葉は言っちゃダメだって!」
『あはは、ごめんごめん』
……結局もう一回シビれてもらうことになった。
「エイミア、今のうちに縛っといて」
「は、はあ……いいんですか?」
「いちいち暴れられると面倒と思われ」
「……ボクは話の展開についていけないから、リジーを手伝うよ」
あ、ナタはエリザもリファリスも知らなかったわね。
「リジー、詳しい説明をお願い」
「…………うい」
ちょっとめんどくさそうにしながらも、リジーはナタに説明してくれた。その間に私はリファリスと話を詰める。
『成程ね。東マージニアの協力を得たいなら、まずは自分の国の膿を出しきれってか?』
「そういうこと。要はリファリス自身の覚悟を示せってことよ」
『ふうむ……ま、何時かは総統ブッ潰す、って思いがあったのは事実だし……それが早くなるだけか。わかったわ、一週間でケリをつける』
「一週間って……そりゃまたせっかちな話で」
『それなりに準備はしてきてるだけだよ』
ま、それがリファリスらしさだけどね。
『それよりさーちゃん、くれぐれも〝常傷〟には気を付けなさい』
「へ?」
『そう見えてもあたしと知略面でタメを張れるくらいの天才よ』
「そうは見えないけどねぇ……」
『そいつはあたし以上に手段を選ばない。必要だと感じたら、味方すらも道具として利用する』
「……へえ……」
『だから普段以上に仲間には気を配りなさいな……それじゃエリザと代わって♪』
はいはい。
「エリザ、代わってって」
「え……あー、はいはい」
エリザはニコッとウィンクしてから、部屋から出ていった。
「……可愛いな、おい」
「……サーチ?」
「おわあ!? きゅ、急に殺気をぶつけてこないでよ!」
「…………ヴィーに言いつけてやる」
え、ちょっと。それは勘弁して。
「そ、それよりも。ナバナさんは気がついた?」
「あのままです。ほら、そこに」
…………ありゃりゃ。縛れとは言ったけど、天井から逆さ吊りにしろとは言ってないんだが。
「……ま、いっか。ここまでしてあれば動けないだろうし……おい、チビ」
「…………だ、誰がチビだゴラアアアア…………ん? な、何だ、この状況?」
「ナバナさんが暴れて暴れてどうしようもないから、気絶させて縛っといたのよ」
「…………気絶させて縛るのもどうかと思うが、逆さ吊りの意味はもっとわからないぞ?」
「すいません、やったのはエイミアとリジーですから……それよりも、リファリスはナバナさんの条件を飲みましたよ」
「何?」
「一週間でケリをつける、とのことでした」
「一週間だと……かなり周到に準備をしているのか」
「それで今はエリザと会議中です。おそらくですが、エリザをここに残して人質にしろ、と言うと思います」
「そうだろうな。そうでなければ〝腐敗〟を信用する事はできん」
「……で、リファリスはあの通りの性格ですから、いちいち激昂するのは止めてくださいね」
「わかっている」
「それ以上に私の鳩尾狙うのは止めてくださいね!?」
「それは………………済まない」
謝るなよ! まずは「二度としない」って言ってよ!
バンッ
すると空中端末を点けたままエリザが入ってきた。
「〝常勝〟閣下。我が主が話をしたい、と」
「良かろう。だから下ろしてくれ」
あ、そうね。このままじゃ会話もできないか。ヒモをほどいて下ろしてあげないと。
『さーちゃん、そんな事しなくても簡単よ〜……ミジンコチビ』
「誰がミジンコチビだゴラアアアア!!」
ぶちぶちぃ!
うわ、ヒモを千切った!?
「グォウルァァァァァァ!!」
「ちょっ、待っぐぅおぅえ!?」
な、何で私が殴られ…………がくっ。
サーチ、再びKO。




