EP22 ていうか、リファリス登場。
「…………〝闇撫〟、何故その女を連れている?」
エリザを伴って戻ってきた私を見て、ナバナさんは殺気を込めた視線を送ってくる。そりゃそうか。
「とりあえず話は聞いてもらえます? 私をどうこうするのもそれからで」
「ほう? ではその女は口を割ると?」
「そう思ってもらって大丈夫です」
「…………娘、どういう風の吹き回しだ?」
問われたエリザは、優雅に会釈してみせる。
「初めまして、〝常勝〟閣下。私は西マージニア国軍で中将の地位にあるリファリス・リフターの副官兼メイド長を務めております、エリザと申します。以後お見知り置きをぐおふぅっ!」
「ほおう、〝腐敗〟の懐刀であったか…………それよりお前達、何故私を放って抱き合っている」
「エリザ、久しぶりですね!」
「無事で良かったと思われ」
エリザの語尾の「ぐおふぅっ!」は、エイミアとリジーの抱きつきが同時に決まった瞬間である。おもいっきり空気吐き出してたけど、大丈夫だったかな。
「エリザも私達と同じパーティだったんです。で、詳しいことを聞いてみたら、とんでもないボタンの掛け違いがあることがわかって」
「ボタンの掛け違いだと?」
「ええ。まずは戦の発端だけど……エリザ」
「ごふぐふっ……あ、は、はい」
エリザは自分の空中端末を起動させ、ウィンドウを目一杯広げて見せる。
「〝常勝〟閣下、この人物は御存知ですね?」
「……知らないはずがなかろう。西マージニア国現総統だろう」
「その通りです。この現総統こそが今回の戦いの発端であります」
「何?」
「これも御存知とは思いますが、我が国の総統は異常な支持率によって政権を維持しております」
「……そのようだな」
「しかしそれは偽造されたデータに過ぎません。実際の支持率は既に危険水域に達しています」
「だろうな! 現政権の発足以来100%を維持してる時点でおかしいとは思ってたよ!」
「はい。実を言いますと、現総統は打ち出す政策は全て的外れ、しかも全て失敗という有り様で……」
「……よく市民は我慢しているな」
「はあ……愚かな総統ではありますが、それでも一つくらいは利点があるモノでして。それが演説なのです」
「…………そういえば総統になる前は口先将軍と揶揄されていたな」
「はい。ですが我が主ですらも想像しえない程の才能を秘めていたらしく、まさに口先だけで総統まで上り詰めたのです」
ははあ、読めてきたぞ。
「つまりリファリスは戦闘を望んでいないのね?」
「そうです。元々我が主は『無駄な戦闘は国の負担になるだけ』と言って反対していました」
「何?」
リファリスが戦争に反対だ、と聞いて眉をピクリと動かすナバナさん。
「ですが現総統の権力には逆らう事はできず、渋々戦闘に参加しておりました。ですが、今回の戦争のもう一つの要因に、誤解が生じている事が発覚しまして」
「誤解だと?」
「はい。今回の戦争の要因、その一つはサーシャ・マーシャでございますね?」
「そうだ! 貴様達が陛下を捕らえた事が、そもそもの発端なのだぞ! 何故このような愚かな事をしたのだ!?」
「実は其れこそが誤解でございまして」
「はあ!? 誤解で陛下を捕らえたと言うのか!」
「ナバナさんナバナさん、ちょーっとこれを見て」
事前にプリントアウトしておいた書類の束を渡す。
「む……これは?」
「私がマーシャン……陛下に頼まれて用立てたお金です」
「む…………は、はああああっ!? な、何だ、このとんでもない金額は!?」
「で、この資料をご覧ください」
「それは?」
「エリザが保管していました、マーシャンの借用書です」
「……は?」
「陛下が我が主から借りたお金の借用書です。見てもらえばわかりますが、返済期間はとっくに過ぎております」
マジマジと借用書を眺めていたナバナさんは。
「……この借用書の真贋を調べよ」
部屋の端末に指示を出す。すると壁からスコープが伸びてきて、借用書を詳しく調べる。そして。
『……100%サーシャ・マーシャトヒッセキガイッチシマシタ』
「……そうか。つまりは、借金の取り立ての為に、陛下の身柄を押さえているのだな?」
「そうです。払わないばかりか、逃げて逃げて逃げて逃げて逃げまくっていましたので」
「それでか。何故貴様が我が国に侵入したのか気になっていたのだが」
「サーシャ・マーシャの身柄を本国に送った後、不覚にも捕まってしまいました」
事情を把握したナバナさんは、書類を机に投げ出して大きくため息を吐いた。
「ならば最初から言ってくれればいいモノを」
「サーシャ・マーシャの知名度や人望を考えれば、借金踏み倒して逃げてるなんて誰も信用しません」
「確かに……な。私でもこれだけの証拠が無ければ、とても信用できなかっただろう」
ムダに人望あるな、マーシャン。
「そういう事ならば無駄に戦争をする必要はないな。〝腐敗〟の懐刀よ、お前達が戦争を望まぬならば、態度によって示してみよ」
「……つまり、私達の手で戦争の主たる要因を排除せよ、と?」
「そうだ。貴様の主も、現状をよく思ってはいまい」
エリザはしばらく考えてから。
「……とりあえず主と連絡を取りたいのですが」
「よかろう。但し、監視はさせてもらうぞ」
『…………エリザ!? エリザなのね!?』
「はい、リファリス様。この度はご心配をおかけしました」
エリザのテレフォンに、リファリスはすぐに反応した。
『ああ、良かった……! 〝常傷〟に捕まったと聞いた時は、どうなるモノかと……!』
「あ、あの、リファリス様。実は会わせたい人物が……」
『ん? 会わせたい人物?』
背後で殺気を燻らせるナバナさんは放置して、テレフォンを代わる。
「もっしもーし。はろはろ〜♪」
『!? さ、さーちゃん?』
「お久〜♪ 元気だった?」
『あ、あんた今まで何処に…………おほん! ひ、久し振りですね、〝闇撫〟』
「ええ。ホントにお久しぶり」
リファリスが地を出しそうになるなんて珍しい。
『……って、何でエリザのテレフォンに〝闇撫〟が?』
「実は私、今は東マージニアのナバナさんに雇われてるの」
『ナバナって…………〝常傷〟に!?』
それ言っちゃダメだよ。ほら、背後でメラメラしてる。
「で、ちょうどエリザと会ってさ、マーシャンの借金の話を聞いて、誤解が生じてるってわかってうごふぉ!?」
突然背後からブッ飛ばされ、地面を転がる。い、一体何が……?
「誰がクソチビじゃ、ゴラアアアア!」
ナ、ナバナさんか…………がくっ。
さーちゃん、KO。




