EP20 ていうか、まさかの再会
「い、いくら何でも〝腐敗家族〟は止めてあげましょうよ」
「そうか?」
「ナバナさんも自分の軍が〝常傷軍〟とか言われたらイヤでしょ?」
「む、それは確かに………………良かろう、今回は〝闇撫〟の進言を採用し、〝腐敗〟の名字を冠してリフター・ファミリーと呼ぶ事にしよう」
「何でファミリーにこだわるのやら…………ん? リフター?」
「そうだ。〝腐敗〟はリフター中将と言う」
リフター? はて、どこかで聞いたような……?
「まあ敵のデータは後で纏めてプリントアウトしておく」
「あ、私の端末に送ってもらえれば。アドレスは」
「いや、プリントアウトして直接渡す」
「え? でも手間でしょ。ボタンをポンポンッて押すだけでいいんだから、私の端末に」
「いや、プリントアウトして直接渡す」
「いやいや、私に送ってもらえれば、経由して全員の端末に」
「いや、プリントアウトして直接渡す」
「……? あの、妙にプリントアウトにこだわるわね?」
「いや、プリントアウトして直接渡す」
「……もしかして、端末の操作が苦手だったり?」
「っ…………プ、プリントアウトして渡した方が、情報漏洩の心配がないだろう!」
そうなのよ。パソコンやスマホが苦手でメールが送れない人は、だいたい情報漏洩ガーって言い出すのよね……。
「わかったわかった。ならプリントアウトしてくださいなー」
「うむ。今すぐにリフター中将とファミリーに関するデータをプリントアウトしてくれ」
結局命令するのよね! だったらメール送れって言えば済む話じゃん!
「……ねえ、ナバナさん。この部屋って私の指示にも従うの?」
「私がそう命じれば大丈夫だ。〝闇撫〟が言う事に一度だけ従え…………これで大丈夫だ」
「そう。なら今のデータ、まとめて私の端末に送って。パスワードは【個人情報だよっ】よ」
ピコーン♪
あ、メールだ。一瞬で来たわね。
「オーケー、受け取ったわ……あれ? 何でナバナさん涙目?」
「お、お前には二度とこの部屋を使わせてやらんからな!」
何でよ。
データを見たらとんでもない量だったので、とりあえずあとから見ることにする。
「そうだ。お前達には別動隊がいるのだったな」
「うぐげほぅ!? な、何で知ってるんですか!」
動揺しすぎだよ、エイミア。それじゃ肯定してるようなもんじゃない。
「ていうか、今さら隠す必要はないわね。私達と元々同じパーティだった人員でもう一つのパーティを作ってて、そっちにサーシャ・マーシャの救出を頼んでる」
「……つまりお前達は別動隊に目を向けられないよう、派手に動く必要があるのだな?」
「そ。だからナバナさんの依頼を受けたって面もあるし」
「そう言えば……お前達の仲間まにはフライヤーが居たな」
「ナイアのこと?」
「うむ、その者についてなのだが、奇妙な報告があがっていてな」
「奇妙な報告?」
「目撃者も多数居るのだが、その者は風系のサイキックを使わずに宙を舞っているとか」
風系? はあ?
「…………あ!」
「どうしたの、ナタ」
「サーチ、ナイアに連絡してないの!?」
「何を…………って、あああ!」
しまった、すっかり連絡し忘れてた! フライヤーは風系サイキック以外使えないから、月魔術は人前で使うとマズいんだった!
「…………何か人に言えない事情があるのだな?」
「そそそそんな事はありありありありませんんげふぅ!?」
「動揺しすぎだっつーの!」
「サ、サーチが暴力的に……」
うるさい!
「ふむ、成程。こちらも機密情報を出したのだから、これでイーブンだな」
「は、はあ……」
つまりは私達が機密情報漏らしたら、ナイアのこともバラすってか。
「……わかったわ。イーブンね」
「そうだ、イーブンだ」
「…………フフフ」
「…………ハハハハ」
「ウフフフフフ」
「アハハハハハハ」
「アーッハッハッハッ!」
「ハハハハハハハハ!」
「な、何なんですか?」
「わ、私に聞かれても……と思われ」
「アレだよ、右手で握手しながらも、左手には銃を持って背後に隠してる……ってヤツだね」
さらに詳しい雇用条件を詰め、正式に契約した。
「それじゃよろしくお願いします……ディルナール大将」
「ナバナ、で構わんよ。公の場でなければ」
「わかったわ。じゃあ私達は表向きはナバナさんの直属ってことでいいのね?」
「ああ。私の元には表沙汰にはしてない秘密の部隊がある……という事になっている」
「……こういうときのためのブラフ?」
「そういう事だ」
つまり暗殺もよく使うカードだってことか。見かけによらず怖いねえ。
「……何だ?」
ていうか、見かけが可愛すぎることとの落差もあるか。
「何だ? 私の顔に何かついているか?」
「いーえー、改めて見てみると可愛いなーと思って」
「ふん、その事か。何を今更。私が可愛いのは当然であろうが」
うわああ、言い切りやがったよ!
「私が絶世の美少女である事は周知の事実だ。故に侮られる事が多いが、そのような輩は所詮は私の敵ではない」
なるほど、自身を見た反応で相手の器量を見極めてるのか。
「要は自分の武器をどう活かすか、ってことか」
「そういう事だ」
コンコン
ん?
「入れ」
「失礼します…………あ、失礼しました。御来客中でしたか」
「構わん、この者は私の配下だ」
「……わかりました。それより閣下、例の捕虜なのですが……」
「口を割ったか?」
「いえ、全く。今では『殺せ』としか言わなくなってしまいまして……」
「ふむ……流石は〝腐敗〟の右腕だな」
右腕?
「もしかして敵の幹部を捕らえてるの?」
「ああ。色々と尋問しているが、一向に口を割らなくてな」
ふむふむ、なるほど。
「ナバナさ……じゃなくて閣下、よければ私が口を割らせましょうか?」
「お前がか? そう……だな。お前ならば、あるいは…………君、この者を捕虜の元へ案内してやってくれ」
「は?」
「私の配下ではあるが、巷では〝闇撫〟と呼ばれている手練れだ」
「〝闇撫〟!? ま、まさか……」
「間違いなく本物だよ……それより案内してくれるのか? しないのか?」
「あ、し、失礼しました! 勿論案内させていただきます!」
慌てて敬礼する。
「うむ。なら頼む」
「はっ! こちらになります、どうぞ」
はいはーい、ご苦労さん。
びしぃっ
「っ」
ばしぃんっ
「っ……」
「はあ、はあ……くそ、いい加減に吐けってんだ」
ガチャ
「どうだ?」
「あ、少尉。ダメですね。もうウンともスンとも言いません」
「そうか。だが安心しろ。閣下がその道のプロを派遣してくださった」
誰がその道のプロよ。
「で、〝不敗〟の右腕ってのは、この娘………………へ?」
「…………ん?」
「え、ええええええ!?」
「あ、ああああああ!?」
「エリザ!?」
「サーチん!?」
そう、リフターとは。




