EP19 ていうか、〝不敗〟「〝腐敗〟だ」……対策
「……一体何をすれば〝腐敗〟っていう異名がつくのよ……」
口臭いとか? 汗臭いとか? はたまたリアルにゾンビとか?
「い、いやあ……〝腐敗〟という異名は東マージニア内限定でな。一般的には〝不敗〟と呼ばれている」
は?
「む、向こうが私の事を〝常傷〟と呼んで揶揄していたのを知って、つい……」
子供のケンカかよ!
「……しょっちゅう怪我をしてるんですか?」
「このナバナ・ディルナールを愚弄するか、牛女」
「だから牛女じゃありません! あなただって私の悪口言ってるじゃないですか!」
「牛女は牛女だ! 無駄にデカいモノぶら下げやがって、ブツブツ……」
単なる八つ当たりじゃん! 確かに小さいけれども!
……そういえばナバナ・ディルナール司令官閣下の容姿を説明してなかったわね。一言で言っちゃえば、合法ロリってヤツだ。ぶっちゃけパーティで常に最チビだった私よりも背が低い。
「ほらほら、ナバナちゃんはお昼寝しましょうね〜」
「うがああああっ! 私はお前達より年上だああ! 子供扱いするなあああっ!」
たぶん小人族の血が混じってるんだろうな。
「大将閣下も単なる金ぴかチビ……と思われ」
ぴきぃぃぃぃん
あ。空気が凍りついた。
「……今、何と言った?」
「へ?」
「今…………何と言った、と聞いている」
「金ぴかチビと言った、と思われ」
「……ほおう……金ぴかチビ、とな……」
金ぴかチビって…………ちょっと捻れば金髪の……。
「…………射殺を許可する」
か、壁から銃口が!?
ズギュウン! ドギュウン!
「「「「ぎゃあああああああっ!」」」」
ちゅいん! ちゅいーん!
跳弾が! 跳弾があああああ!
「むむ。当たらなかったか。ならばマシンガンで……」
止めて! 跳弾ハンパないから!
「リジー、謝って!」
「す、すまそ」
「ちゃんと謝れ!」
「大変申し訳ありませんでした」
「…………良かろう、今回は許そう。だが二度はないぞ」
「は、ははあああ!」
……金髪はともかく、孺子は気にしてたのね。
「それより、相手の〝不敗〟が企んでることはわかってるの?」
「〝不敗〟ではない。〝腐敗〟だ」
どうでもいいよ!
「兎に角、あの者の企みについては私が対処する。だから私の指示に従ってくれればいい」
……ま、いっか。
「わかったわ。こちらは雇われた側なんだから、命令に従う。ただし」
「む、何だ?」
「仲間の命に危険が及ぶと判断した場合は、どんな命令であっても従うつもりはありませんから」
「……そう言われてしまうと、何も命令できないが?」
「別にリスクを完全に無くせ、とは言いません。ただ現場の判断で作戦内容を変更することもあり得る、と言いたいんです」
「それが仲間の命に関わる場合、だと?」
「はい」
「ふむ……その辺りは事後承諾、としか言えないな。ケースバイケースで責任を問われる可能性もあり得るぞ?」
「それは…………弁護よろしく♪ ということで」
「…………わかった。留意しておく」
ま、一応の保険にはなるか。留意、なんて言い回しだから、言質を取ったとは言えないけど。
「さて、では詳しい契約内容を決めようか。個人の報酬以外に金銭的な報酬も考えておかねばな」
「え、いいの!?」
「この辺りは出来高だがな」
よっしゃあ、サクッと小隊殺っちゃいますか♪
具体的な成功報酬も詰め、私達とナバナさんとの間で契約が成立した。
「さて……これで私達は仲間と呼べる状態になったな」
「そうですね」
「であるからには、お前達にも現状を把握してもらう必要があるな」
現状?
「火星の地図を」
ナバナさんの指示によって、壁一面に地図が浮かび上がる。いわゆるメルカトル図法ってヤツだ。
「東マージニアと西マージニアの領土を」
その地図に赤い表示が……って東マージニア広いな!
「我が東マージニアは汚染された大地の浄化を国策とし、長い年月をかけて徐々に領土を広げてきた。その結果として居住可能な土地も増えていき、人口も増えた。今では農業や畜産も盛んになり、我が国は食料の自給率は99%だ」
スゲえな。
「一方の西マージニアは国土を広げる事には執着せず、科学技術や工業の発展を国策とした。我が国や火星外から優秀な人材を集め、莫大な予算を注ぎ込んだのだ」
「ははあ……だから西マージニア海の湖畔に都市を?」
「そうだ。工業には水は必要不可欠だからな。だがそれ以上に西マージニア海ではレアメタルが大量に採れたのだ」
あ、そっか。製造過程で水は必須だけど、材料が一番いるか。
「その努力が実を結び、西マージニア国の工業力は我が国を遥かに上回り、科学技術に関しては地球にも引けをとらない域に達している」
「なーるほどね。兵器の性能に関しては西マージニア国に分があり、兵糧と人員は東マージニア共和国が勝ってるわけだ」
「やはり人員を確保できる点は我が国に圧倒的に有利だ。兵器や兵糧は他国から購入できるからな」
「そうね。いくら優れた兵器があっても、操作する人がいないとね」
「その点を補う為に無人兵器を投入するらしいが、今のところ思わしくないようだ」
「そうなの?」
「仮に納得がいくデータを得ているなら、とっくに実戦配備されている」
そりゃそうか。敵に向かっていかずに自分達に向かってきたらシャレにならないしね。
「なら東マージニア共和国の楽勝じゃないの」
「そうだ。だから何故西マージニアがこのような無謀な戦を仕掛けてきたのか。それが一番不気味なのだ」
「……単なる政権の暴走じゃないの?」
昔からよくあるでしょ。
「そうだ。だが西マージニアには〝腐敗〟がいる。だから不気味なのだ」
「……あのさあ、確かに〝不敗〟は恐ろしいんだろうけどさ」
「待て。〝腐敗〟だ」
「……はいはい。だから〝腐敗〟は恐ろしいんだろうけどさ、結局は個人でしょ? 一人の力で火星を統一できる、てもんでもないでしょ」
「そうだな。普通なら」
「普通ならって…………普通じゃないってこと?」
「うむ。我が国と西マージニアが戦を交えたのは、今回が初めてではない。過去に六度ぶつかっている」
「六回も? 六回も戦ってるのに、いまだにこんな小さな国を攻略できてないの?」
「ああ。その要因が〝腐敗〟なのだ」
「何で? その〝腐敗〟の策謀が恐ろしいの?」
「それもあるが、真に恐ろしいのはヤツが率いる部隊だ」
「部隊?」
「ああ。〝腐敗〟の手足のように動く、恐ろしいまでの統率力を誇る直属の組織」
…………。
「故に奴等は〝腐敗家族〟と呼ばれて恐れられている」
家族!? 何で家族………………あ。
○ンファミリーか。




