EP18 ていうか、常勝と不敗?
何だかよくわからないまま、ナバナさんからの依頼を引き受けた。何か上手く乗せられたような気もするけど、引き受けたからにはベストを尽くすのみ。
「とはいえ、何か漠然としてるんですけど?」
「そうだな。ちゃんと説明はしなくてはならないか」
そういうと立ち上がり、私達に付いてくるように促す。私達は頷いて、ナバナさんを追った。
カッカッカッ
バタバタバタバタ
長い廊下に響く、ナバナさんの軍靴の音。
カッカッカッ
バタバタバタバタ
「…………」
「ん? どうかしたの、リジー」
「…………」
カッカッカッスッチャカチャッチャカッカッスッチャカチャッチャカッスッチャカチャッチャスッチャカばきいっ!
「いたあああああい!」
「うるさい! ナバナさんの靴の音に合わせてタップダンスするな!」
「……サーチよ」
「は、はい!」
「なかなか愉快な仲間だな」
た、大変申し訳ありませんでした……。
そのまま地下へと案内され、入口の扉を閉められる。すると案内された小部屋が振動し、動き始める。
「エ、エレベーター? こんな地下に?」
「火星は大陸プレートの移動が無い。故に地震は少なく、あったとしても火山性の地震だ」
「…………つまり、予測しやすいと?」
「そうだ。だから地球と違い、大規模な地下空間を建設する事も容易いのだ」
大規模な地下空間って、まさか……!
「軍の秘密基地が?」
「そうだ」
「お……おおおおおおおおおおっ!」
「……? どうした?」
「秘密基地よね! 秘密基地なのよね!」
「あ、ああ」
「ていうことは、地下には軍が秘密裏に開発している、汎用人型決戦兵器が……」
「無い」
「え!? な、なら、地球の命運をかけて遥かなる旅路を征く宇宙戦艦が!?」
「宇宙戦艦はあるが、別に地球の命運を背負ってはないし、遥かなる旅路を移動してもない」
「あ、そうなの? なら何で地下に大規模な基地を?」
「別に深い理由はない。首都ダエダリアの地下に過去の噴火によって出来た巨大な空間が発見され、其処に手を加えて有効活用しているだけの事だ」
なあんだ、つまんない。
「この会館が地下の基地への出入口なのですか?」
「そうだ、牛女」
「エイミアです!」
「ああ、済まぬ。どうも人の名を覚えるのが苦手でな」
よくそんなんで出世できたな!
「ていうか、何で私の名前はすぐに覚えられたわけ?」
「それは何と言っても調査だからな」
あ、なるほど。言い慣れてる言葉だからか。
「……だからって牛女や赤い女は無いんじゃない? さすがに鉄女とか言われたら、ボクだって傷つくよ」
「済まん済まん。気を付けるよ……………………孫の手女」
「ナタだよっ! サイボーグの腕見て孫の手って発想はおかしいよ!」
ごっつい孫の手。たまに銃にもなるし。
「済まん済まん……さあ、この部屋だ」
ギイッ
ナバナさんによって案内された部屋は、ちょっとした会議室だった。ていうか、何でこんな場所にわざわざ私達を?
パチンッ フィーーーン……
ナバナさんがスイッチを入れると、何かが部屋全体を包んだような気がした。
「……これでいい。ここなら誰にも聞かれる心配は無い」
「……あ、まさか盗聴対策の?」
「そうだ。この部屋は我が軍の最高技術を注ぎ込んだ会議室だからな、盗聴はほぼ不可能だ」
…………ちょっと待って。
「軍の最高技術を結集したのは対盗聴技術じゃなく、部屋自体になの?」
「そうだ。だから……お茶を頼む」
ウィーッ
うわ!? 壁からロボットアームが!?
「このように自動でお茶を淹れてくれるのだ」
「軍の最高技術の使い方、少しおかしいと思われ」
「そうか? なかなか便利だぞ」
「……ていうか、何を頼んでもいいの?」
「飲みたいモノか? 好きに頼むがよい」
な、なら試しに……。
「伝統本玉露を」
ウィーッ
出てきた!? 何の躊躇いもなく!?
「……あまり高いモノは遠慮してもらえるか?」
「ま、まさか出てくるとは思わなかったのよ……」
「一応最高級紅茶にも対応している。但し頼む場合は自腹を覚悟してくれ」
……そんだけ予算がカツカツなのなら、こんな贅沢部屋作るなよ……。
「わ、私はスムージーを」
「烏龍茶」
「ボクは……ヤムチャとか?」
ウィーッ ウィウィウィーッ
「うわ、何だかいっぱい出てきた!?」
「当たり前よ! 飲茶だなんて言えば、コース料理並みに出てくるに決まってるじゃない!」
「うわわわ……」
「……サーチ」
「は、はい」
「孫の手女に請求しておくからな」
「は、はい……」
最高級紅茶の方がよっぽど安かったわね……。
中華な匂いを漂わせながら、ようやくナバナさんの説明が始まった。
「お前達に先鋒を頼みたい理由は、ズバリ先鋒に配属予定の部隊を壊滅してほしいからだ」
…………はい?
「今回お前達に処分してほしい部隊は、西マージニア軍に内通している事がわかっている」
「……つまり裏切り者を最前線送りにして、効率的に処断するってわけ?」
「その通りだ」
「ていうか、それに私達を付き合わせると? 誰がそんな依頼を引き受けるってのよ」
「既に引き受けたではないか?」
「さすがに『命を捨てろ』なんて依頼、断ったってキュアガーディアンズから処罰されることはないわ」
「いや、命を捨てろとは言わない。私がお前達に依頼したいのは、あくまでその部隊を壊滅させる事だ」
……そういうことか。
「つまり、戦いに紛れて全員殺せっての? 戦死に見せかけて?」
「その通りだ。理解が早くて助かる」
つまりは暗殺か。
「〝闇撫〟との異名を持つお前ならば、こういう事はお手のモノだろう?」
「そ、そりゃできるけど。その部隊って何人いるのよ」
「小隊だからな。五十人もいない」
「五十人って……暗殺するには結構な人数ね」
「……まあ、できなくはないんじゃない?」
ま、そうだけど……。
「そんなくらいなら、その小隊を乗せた車が謎の爆発……とかの方が手っ取り早いわよ?」
「いや、今回は前線でなければ意味が無いのだ」
「前線で?」
「うむ。どうやら西マージニア軍のペテン師めが、その部隊を使って何やら企んでいるらしくてな」
「ペテン師?」
「うむ。西マージニア軍の中では一番厄介や輩だ」
ペテン師ねえ……。
「西マージニア国内では〝魔術師〟と持て囃され、英雄扱いだそうだ」
うん? 魔術師にペテン師? まさか……。
「その男は〝腐敗〟という異名で知られている」
不敗じゃないのかよ!
不敗じゃなかった。




