EP17 ていうか、常勝の誘惑。
「せ、先鋒!? 軍の精鋭じゃなくて、私達が!?」
「当然だが、それに見合った報酬は用意する」
「……誰が?」
「無論、私だが」
「……今月の生活費がヤバい人が、私達が満足できるような報酬支払えるの?」
「ぐっ!?」
……忘れてたな、私につぎ込んだ酒代を。
「か、金以外で支払える!」
へえ、金以外ねぇ……。
「……例えば?」
「う……うむ……そうだな、私にしか準備できないようなモノでよければ」
「へえ〜……東マージニア軍の最高司令官にしか用意できない報酬。一体何かしら」
「うむむむむむ…………宇宙戦艦観覧ツアー?」
「いらん!」「興味ないです」「却下と思われ」「はい、次は?」
「うむむむむむ…………宇宙軍精鋭部隊、特殊訓練?」
「いらん!」「興味ないです」「却下と思われ」「はい、次」
「ダイエット効果抜群だが」
「いらん!」「きょ、興味……あるかも」「さ、採用……と思われ」「はい、決定」
……って、おい!
「ちょっと、冷静になりなさい。何十キロもある荷物背負って森を走破するのよ? ダイエットどころかマッスルするわよ?」
「やっぱり興味ないです!」「却下却下却下と思われ!」「はい次々々々々!」
「……ちっ。引っ掛からなかったか」
「あのねえ、そんなバレバレの罠に私が引っかかると思った?」
「……バストアップも期待できるが」
「採用」
「サーチ!?」「サーチ姉!?」「ちょ、止めて止めて!」
特殊訓練は結局却下された。ちっ。
「冷静になってください、サーチ。そんなに簡単にバストアップできるはずないじゃないですか」
…………イラッ。
キュッ
「はああああああん!? い、いきなり何するんですか!」
「うるさい! あんただけには言われたくない!」
胸を押さえてしゃがみ込むエイミアに怒鳴る。
「サーチ姉、エイミア姉の言う通り。大体、サーチ姉はそれなりに大きい」
イライラッ。
キュッキュッ
「はああああああん! サーチ姉、それは駄目ぇ!」
「うるさい! 私より大きいヤツが偉そうに言うな!」
「サーチ、落ち着いて。サーチこそ筋肉ムッキムキになりたいの? 間違いなく今よりサイズが落ちるよ?」
「うぐっ!? そ、それは確かに言える……」
「言っちゃ悪いけど、筋肉ムッキムキのサーチがビキニアーマー着たら、単なるボディビルだよ」
「うぐぐぐ…………わ、わかったわ。ナバナさん、特殊訓練は無しで」
「……バストアップにはインナーマッスルが不可欠だ。その強化に特化した特殊訓練を」
「採用で」
「サーチ!?」
結局エイミア達の妨害……もとい説得によって、特殊訓練は完全にお流れとなった。ちぃぃっ。
「はい、他の報酬考えて」
「うむむむむむ…………軍務省見学ツアー」
「却下ね」「却下ですね」「却下と思われ」「はい、次行ってみよう」
「な、ならば! 軍務省見学ツアー、バストアップ特典付」
「採用で」
「だ・か・ら・サーチ! そんなの信用できないに決まってるでしょう!」
キュッ
「はあああああああああん!」
「だからあんたには言われたくない!」
「……サーチ姉、マッスルマッスルしたい?」
「うぐっ…………つ、次行ってみよう」
ダ、ダメだ。バストアップっという言葉に負けてしまう。
「な、ならば…………軍で採用されている自動小銃と小型バズーカを人数分」
「興味ありません」「却下と思われ」
……ちょい待ち。
「その話、マジで?」
「無論だ」
「それって20式5.56mmじゃないわよね?」
「まさか。勿論最新式を用意しよう」
……ってことは、2051式!?
「……うーむ。なら有りかも」
「サーチ!?」
「サーチ姉!?」
「そうだね、有りっちゃー有りだね」
「ナタまで!?」
「冷静になろう、と思われ!」
「あのねえ、軍に正式採用される銃よ。しかも最新式の」
「他の国の軍関係者が高値で買い取ってくれるだろうね」
「あ、そうなんですか」
「なら採用と思われ」
「というわけでナバナさん。自動小銃と小型バズーカで手を打ちます」
「却下だっ!」
「え、何で」
「他国への情報漏洩を許すはずがないだろうがっ!」
あ、そういえばそうね。ていうか、情報漏洩に繋がるようなモノを、報酬として提示するのもいかがなモノかと。
それからもアレコレと提示されたけど、全て却下した。
「うぐぐぐ……な、ならば何ならば良いのだ!」
「バストアップ」
「……美味しいモノかな」
「呪われアイテム」
「無限の銃製」
無限の銃製って……どっかで聞いたような。
「そんなに独特で個人的要望、軍からの報酬で叶えられるはずがないだろ…………ん? 美味しいモノ?」
ナバナさんが「美味しいモノ」に反応して考え込んでいる。何だろ。
「…………ふむ、そこの牛女」
「う、牛……!? エイミアです!」
「エイミアか。お前の報酬、良ければ我が軍秘蔵のレシピでどうだろうか?」
「軍秘蔵って……保存食の作り方に興味はありません」
「いや、海軍カレーだ」
……どっかで聞いたことあるような……。
「海軍カレー!? 宇宙B級グルメで有名な!? 私はそれがいいです!」
「わかった。ならばエイミアの報酬は海軍カレーのレシピだな」
ちょい待ち。それって作るの私ってことよね?
「それと……鉄女」
「……もしかしてボクのことかな? ナタだよ」
「ナタか。無限の銃製とやら、要は銃に興味があるのだろう?」
「もちろん」
「ならば我が軍が使用している火器を全て見せる、という事でどうだろう?」
「見せる……だけ? 試射は?」
「許可しよう。ミサイル等は流石に無理だが」
「繊細データは?」
「他言しなければ」
「……うん、わかった。ボクはそれでいいよ」
ナタも陥落!
「よし、次は……赤い女」
「……?」
「狐女」
「リジー」
「リジーか。お前は呪われた品が欲しいのか?」
「うい」
「なんとまあ、面妖な…………良かろう、我が軍にも曰く付きの武器は多数ある。ちょうど処分に困っていたから、まとめて進呈しよう」
「うい。なら私も受諾」
リジーもか!
「最後に……〝闇撫〟」
「わ、私は……」
「大丈夫だ、お前の嗜好は全て把握している」
「ふ、ふん。もうバストアップって言葉には騙されないわよ!」
「無論だ。だが、お前が拘るモノはバストサイズだけではないだろう?」
ま、まさか。
「……温泉」
うぐ。
「……秘湯」
うぐぐ。
「……露天風呂」
うぐぐぐ。
「全てセットで泊まり放題。勿論飲食に関しては最高級」
がしっ
「引き受けた」
「あ、ああ……驚く程に情報通りだな」
全員陥落。




