EP16 ていうか、最高司令官!?
今回の戦いの相手は、小さいながらも国家だ。どう対抗しようが、私達だけで勝てる相手ではない。
「だからまずは国家同士の戦いになるのを待つわ」
「ああ、成程! 戦争になって西マージニアが負けるのを待つんですね」
違うよ。私が首を左右に振って否定すると、エイミアが再び。
「え、なら…………ああ、あれですね!」
エイミアが手を叩いて立ち上がる。その際に揺れた胸を恨めしく睨んでから、何を言うか注目する。
「ヴィー達がマーシャンを救出するのを待つんですね?」
「私達が陽動で騒ぎを起こすって言ったでしょうが! ちゃんと話を聞かないヤツは、両頬限界まで引っ張って木に結びつけるわよ!?」
「ごめんなさいごめんなさい止めて!」
……たく。ちゃんと中身のある相づちをしてくれるヴィーって、やっぱ貴重な存在だったのね……。
「いい!? さっきも言ったけど、相手は国家なの! 私達だけではどう転んでも勝てる相手じゃないの! だから東マージニアが動くのを待って、国家の枠に入って戦う。それが一番ベストだと思うのよ」
「ほえ〜……サーチ姉、リピートぷりーづ。よくわからなかった」
イラッ。
「リジー、そんなに難しいことじゃないよ。相手が強大すぎるなら、それに見合った戦力を用意するのは当然なことさ」
をを!? 意外とナタが知性派の一面を!?
「要は東マージニアが西マージニアをけちょんけちょんに負かしてから介入するんだよね?」
ジャキッ
ダダダダダダダダダダッ!!
「「「うぎゃああああああああっ!!」」」
ちゃぷんっ
「たくっ! どいつもこいつもバカばっかなんだから!」
部屋の中を蜂の巣状態にしちゃったから、少し気を落ち着けるために近くの銭湯に来ている。
「っぁぁぁぁぁ!! 五臓六腑に染み渡るぅぅっ!!」
「へ!? 風呂の湯を飲んだの!?」
飲まねえよ! ていうか誰だよ、一人言につっこみ入れてきたのは!?
「流石に風呂の湯は汚いよ〜。飲むならお酒にしときなさいな♪」
あ、それには同意。
「つーわけだからさ、一杯飲まない?」
「へ? いいの?」
「いいのいいの。一人で飲んでたってつまんないだけだからさ」
そう言ってその女性は、浮かべたお盆に乗せていたとっくりとおちょこを手に取った。
「へえ〜、キュアガーディアンズのパーティのリーダーを」
「ええ。最近メンバーの入替があったんだけど、前のメンバーと比べるとバカばっかで……」
「あはは、それは疲れるねぇ……ま、一杯」
「あ、どもども……じゃあご返杯」
「あ、悪いねぇ…………まあね、世の中には馬鹿な部下に振り回されてるヤツってのは、いくらでも居るさ」
「そうよね、そうよね! こっちはマジメに話してるのに、理解してないどころか全く聞いてなかったりするんだから!」
「そうなんだよねえ! いやあ、あんたは話がわかるヤツみたいだ! ささ、飲みなさい飲みなさい。これは全部私の奢りだよ!」
「へ!? いいの?」
「若いヤツが遠慮なんてするもんじゃないよ! 私がいいって言ってんだ、酔い潰れるまで飲みまくりなさいっての」
いいの? リミッター外しちゃうよ?
「ならぐびぐびぐびぐび」
「おお!? 徳利から直飲みかい!」
「ぷはー……よーし、お酒の追加だ追加だ!」
「いいねえ♪ 番台のオバチャンに頼めば持ってきてくれるよ」
何て贅沢なサービスなんだ!
「おばちーゃん! 徳利二十本追加ねー!」
「に、二十本!? い、いいねえいいねえ。飲めるだけ飲みなさい。わははははは……」
……ちょっと顔色が悪くなったような気がしたけど……まあいいか。遠慮しなくていいって言ってるんだし。
「ちょっとぉ、ナバナはもうダウンなの?」
お酒を奢ってくれた女性――――ナバナは、完全にグロッキー状態で湯船の端に突っ伏していた。
「い、いやいや。私はこれでも酒豪で知られてるんだよ。それを相手に全く酔ってないあんたがおかしいんだよ!」
「そう? ぐびぐび」
「ま、まだ飲むのかい!?」
「えー、だってさー、いくらでも飲めって言ったしー」
「モノには限度があるんだよ! あ〜あ、もう徳利だらけで足の踏み場が……」
ていうかさ、なんで空になったとっくりを持っていかないのかねえ、あの番台のおばちゃん。
「ありがとうございました♪」
「お、お金が……今月の生活費が……」
めっちゃニッコニコのおばちゃんと、めっちゃドンヨリなナバナさん。たぶん私が原因だろう。
「ごちそうさまでした♪」
「お、お粗末様でした……」
「というわけで二件目行きましょう♪」
「はあああっ!? ま、まだ飲むのかい!?」
「安心してください、今度は割り勘でいいですから」
「あ、割り勘ね…………て、今度は奢りなさいよ!」
「あはは、いいですよ」
「……そういやあ、あんた、名は?」
「……へ?」
「あんた、飲んでばっかで自分の名前を名乗ってないんだよ?」
マ、マジっすか。それは失礼しました。
「ご、ごめんなさい。私はサーチ。キュアガーディアンズパーティ始まりの団のリーダーよ」
「……何? 始まりの団のリーダーだと? まさか……〝闇撫〟か?」
「……………………めっちゃ不本意なんだけど、そう呼ばれてるみたいね」
「そうか、まさか気晴らしで来た銭湯で〝闇撫〟と知己になろうとは……これも運命なのであろうか」
「な〜に〜よ〜ナバナさあん、急に偉い人みたいな雰囲気になって〜」
「いや、事実偉い人なんだが」
「へ?」
「私はナバナ。ナバナ・ディルナールだ」
ディ、ディルナールって……まさか。
「第一次火星内戦の救国の英雄、〝常勝〟のディルナール少将!?」
「今は大将。一応東マージニア軍最高司令官を拝命している」
マ、マジっすか……。
「……というわけで、ナバナさんことディルナール最高司令官閣下をお連れしました」
「はわわわわっ」
「エイミア姉、慌てないで水、水」
「水じゃなくてお茶だよ!」
「いやいや、慌てなくていいよ。今はプライベートだから、肩書きは関係ないから」
そりゃムチャだって。一旦あんたの肩書き知っちゃったら、同じ態度では接しられないよ。
「そ、それで軍の最高司令官が、私達に何か御用なのでしょうか?」
「ああ、そうだね。君達の事は大体理解している、と前提の上で仕事を依頼したいのだ」
「仕事? ナバナさんが私達に?」
「うむ。本来は軍を通して依頼すべきなのだが、手続きに時間がかかるのでね。私個人からという形で依頼する」
「軍を通してって……まさか、軍関係の仕事?」
「そうだよ。そのモノズバリ、西マージニア軍との戦いで先鋒になってもらいたい」
……………………はい?
新キャラ登場。




