EP13 ていうか、ターニングポイント?
「ト、トレードって……」
「元々三人だった私達のパーティにマーシャンとナタが加入したわ。それだけでもかなりの差なのに、今回徹底的に思い知らされた差があるのよ」
「差……とは?」
「考える人の不在」
「…………あ〜……」
そう言われて納得しかけた様子のヴィーだったけど、急に頭をブンブン振って否定する。
「いえいえ、リルは頭脳派と言えますよ」
「あのすっとぼけ猫娘が? 戦術面では有能だけど、戦略面はからっきしじゃない」
「……た、確かに……」
リルは状況判断に優れているため、いざというときはとても心強い。近距離と長距離を格闘術と弓矢でカバーできるのも大きい。
ただし、その傾向が強いせいか、長い目で先を見るのが苦手だ。事実、リルのパーティは何度か経済的に破綻しかかったらしいし。
「サーチ、ならばエカテルは? 冷静な判断もできますし、知識も豊富ですわよ?」
「そうね、私もエカテルのバックアップがあればリルも大丈夫だと思ってたんだけど……」
「けど……ということは、何か?」
「……よくよく考えたら、気弱なエカテルがリルに意見できるわけないのよね……」
「「……あ〜……」」
そういうわけで、リルの「直感」という名の思いつきで行動するパーティとなってしまい……。
「今は第四コロニーのホテルで清掃をしていたそうよ」
「何でっっ!?」
「私が聞きたいわよ! エイミアに聞くまで夢にも思わなかったんだから!」
「エイミアに聞くまでって……?」
「ちょっと前にエイミアから連絡があったわ。宿泊費がないからその分働いて返すことになったから、少し遅れるって」
「はいいっ!?」
「すぐに送金しておいたけどさ……あのままだとホントに破綻しかねないわ」
「………………はあ。仕方ありませんね。私がトレードしましょう」
「ヴィー……いいの?」
「あの人員ですと、私が一番適任ですから。何だかんだ言って、リルとエイミアとも付き合いが長いですからね」
「そう……ね。ヴィーになら安心して任せられる」
「はい、信頼していただきありがとうございます」
「それに政治家志望なんだから、パーティ一くらいシメてもらわないとね」
「…………いろいろありすぎて政治家目指していたことを忘れていました」
忘れるなよっ!
「……一度目は異世界への転移、二度目は新世界への改変。これだけの大事を経験すれば、将来への展望を見失いますよ……」
………………確かに。
こうしてヴィーが私達のパーティから離脱することが決まった。で、次の日、正式にそのことを話すため、リル達とテレビ会議を行った。
『ヴィ、ヴィーがこっちにか……』
「何か不満ある? リルがもっとしっかりしてたら、こんなことにはならなかったのよ?」
『大変申し訳ない』
「エイミアとエカテルも異論ないわね?」
『ありません』
『わ、私の意見を汲み取ってくれる人がくるなら、私は大歓迎です!』
……エカテルはいろいろ溜め込んでるみたいね。
『っ……わ、わかったよ。確かに私の不手際だからな、今回のことは』
『『今回の事は!?』』
『な、何だよ』
『月での乱闘騒ぎはリルが原因でしたね?』
『コロニーでの借金はリルの見積りが甘かったからですよ?』
『船の定期メンテナンス、忘れてたのもリルでしたね?』
『その請求額を飲み代に回しちゃったのもリルです』
「…………リル」
『わ、悪かったよ!』
「ていうかさ、エイミアもエカテルも止めなきゃダメじゃないの」
『……ごめんなさい』
『……言うと怒るんです、リル……』
やっぱトレードしないとダメだわ。
「それで、私がリル達と合流する代わりに」
「ん?」
「エイミアをこちらのパーティに加えてほしいのですが」
「エイミアを? 何で?」
「サーチも気付いているとは思いますが、私が抜ける事によって戦力に偏りがおきます」
偏りか……前衛のリジーとナイア、後衛のナタ。中間がいなくなるのよね。
「ナタの加入で絶対的後衛はできました。ですが前衛と後衛の間を埋めることができるのは、エイミアか私じゃないと難しいと思います」
「……そうねぇ……ナイアの月魔術はあくまでバックアップがメインだから、どうしても前衛にならざるを得ないし……」
ヴィーは聖術とサイ・テンタクルで中長距離で戦える。一方のエイミアも、≪蓄電池≫で中長距離をカバーできる。おまけに釘こん棒を振り回せば、近距離までいける。
「……うん、エイミアがいいなら願ったり叶ったりなんだけど、いいかな?」
『わ、私がサーチ達と!? いいんですか!?』
『……ま、ヴィーがくるなら反対する必要はないな』
『エイミア様の心のままに』
『うん! ならサーチ、また一緒のパーティだね!』
うっわ、メチャクチャ嬉しそうだな。
「そういえば久々に同じパーティね。よろしくね」
『こちらこそ!』
こうして、私はホントに久しぶりにエイミアとパーティを組むことになった。
「ちょっとお待ちなさいな」
うん? ナイア?
「このままですと、リルさん達は再び三人パーティですわよ?」
あ。
「オマケに前衛はリルさんのみ、エカテルは完全援護役。そこにヴィーさんが加わっても、バランスが非常に悪いですわ」
た、確かに。
「しまった……どうしようかな」
「はあ……サーチも人の事が言えない程度に、抜けてますわよ」
悪かったな!
「そういうわけですから、ワタクシもヴィーさんと一緒に行きますわ」
…………へ?
「ナ、ナイアが?」
「ええ。ヴィーさんもワタクシが居た方がやり易いでしょう?」
「そうですね。前衛のナイアが来てくれれば心強いですし」
……確かにそれがベストか。リル達も戦力的には十分だし、私達も前衛のリジー、前衛兼中長距離もできるエイミア、後衛のナタ。それを私がオールラウンドにカバーすれは……。
「……一番、理想的かも」
「そうですね」
「そうですわね」
そう言ってから、画面越しにリルを見る二人。
『ニャ!?』
「勿論、リーダーはリルで構いません」
「但し、ワタクシとヴィーさんとで厳しく監視させていただきますわ」
『ニャ、ニャアア……』
『よ、よろしくお願いします、お二人共!』
「ええ、エカテルも」
「言いたい事があれば、バンバン言ってくださいな」
『は、はい!』
あーあ、リルは追い込まれるな……。
こうして、私達のパーティからヴィーとナイアが離脱し、代わりにエイミアが加入することになった。
『サーチ! 私も! 私もニャアアアっ!』
「あんたはパーティリーダーでしょうが!」
ヴィー、ナイアさよなら。そして、エイミア復活。




