EP8 ていうか、マーシャンがまさか!?
「ウソだ! ウソだあああ! うわあああん!」
「まだ粘りますのー? 青春ですわね」
事実を知ったナタは泣き叫んで走ってしまい、ナイアがあとを追っている。いまのところ会館の周りをぐるぐる回ってるだけなので、そのうちユルユルと背後を飛んでいるナイアに確保されるだろう。
「ふーん。それであんたが引っ張りだされてるのか」
「いきなり何事かと思ったわよ。火星のガーディアンズ支所から名指しで呼び出されたんだから」
そしてもう一人の被害者、紅美が私に愚痴っている。事務要員に乏しかったアンドロイド陣容を拡充しようと、火星のガーディアンズ支所を巻き込んで紅美を呼び出し、今まで散々コキ使われていたらしい。
「とにもかくにも組織としては安定してきたんでしょ? ならあんたの手柄じゃない」
「わかってくれる!? それをあの鉄屑共さ、全部マーシャンの手柄だなんて言い触らしやがって!」
「よしよし。ならその苦労に報いるために、私がお手製のスイーツを作ってあげよう」
「わーい!」
うむ、我が娘ながら可愛いのう。
「ちょっと、そこのアンドロイド!」
『は、はい? 私ですか?』
私のオリジナルプリンのレシピをメモに書いて、紅美の近くでダベっていたアンドロイドに渡す。
「今すぐにこれを買い揃えてきて。制限時間は十五分」
『は、はああ!? 何で私が!』
「行きなさい」
『いくら女王陛下のお知り合いとはいえ、そこまで私達がする必要は』
「行きなさい」
『わ、私だって忙しいんだ! そんなのはコーミに』
ざくんっ!
アンドロイドが座っていたソファが真っ二つに斬れる。小手から伸びた空想刃をアンドロイドの首筋へ。
「……それとも逝っちゃう?」
『い、いえ、買いに行かせていただきます』
そう言うとアンドロイドは背中のスラスターを全開させて、窓から飛び出していった。
「凄ーい。アンドロイドが冷や汗かいてるの初めて見たわ」
ていうか、アンドロイドも冷や汗かくのか。
「そ、そうなんだ。あれがハクミん……」
スイーツを堪能した紅美は若干機嫌が持ち直したので、いまだに会館の周りをぐるぐる走っているナタについて説明しておく。
「じゃあイタチ君達もどっかにいるのかな?」
「おそらくね」
紅美親衛隊でもあった烈風鼬達も、この宇宙のどこかにいるんだろうな……。
ゥィィィイイイン
『あねご!』
「ん? あぁ、どうかしたの?」
『おれたちはじょおうへいかよりも、あねごのしじにしたがいますぜ!』
「ありがとねー。じゃあ、私の机の上の書類を各部署に配ってくれるかなー?」
『がってんしょうち!』
ウイイイィィィ……
……何、今の。
「あ、今のロボット達? マーシャンがどっかから連れてきた作業用ロボットよ。何故か自我があるみたいだから、私が面倒見てるのよ。なつかれると何か可愛くって」
………………イタチ、あれじゃね?
紅美はまだ仕事があるから、ということで一旦別れる。ブラブラとしていると、ある部屋の前でヴィーに呼び止められた。
「コンピュータルーム……あんたらしいわ」
「? 何がですか?」
いえ、何でも。すっかりパソコンキャラが板についてきたわね。
「て、何か用?」
「あ、はい。あれから西マージニアの動向を探っていたのですが……これを見てください」
そう言われて画面を見てみると…………ん? このタヌミ面は……。
「西マージニアの総統?」
「ええ。それよりも下の文章を」
文章? ああ、新聞記事なのね。ナニナニ……。
「……総統は……偉大な西マージニア国に牙を剥いたアンドロイド達との決別を宣言?」
「今後は人間以外の種族とは交流を持たないそうです」
……めっちゃキナ臭くなってきたわね。
「このパターンだと『火星こそ人間の理想郷!』とかいうスローガンを打ち出して、東マージニアに宣戦布告、とか?」
「まさか……とも言えませんね。過去にはその類の国家が実在していましたし」
そんなことを言って苦笑いするヴィーと話していると。
ピコーン ピコーン
ん? パソコンからアラームが?
「これは緊急速報ですね…………あ、あららら」
「どうしたの?」
「噂をすれば……でしょうか。西マージニア国が火星統一を宣言。人間以外の種族は火星から退去するように勧告す……だそうです」
あーあ。ファーファが煽るもんだから。あーあ。
「それと裏情報ですが、どうやら今回の一件にはブラッド・マーズ・ファミリーも絡んでいるようです」
「ブラッド・マーズ・ファミリー!? とっくに潰したじゃん!」
「残党ですよ。前のボスが残っていた構成員を掻き集めて、再び組織化したようです」
まためんどくさいことを……!
「しまったわね、もっと徹底的に潰しておくべきだったわ」
「あれは成り行きでしたから、仕方ないですよ」
「…………ま、いいわ。私達が今回の件に絡まなければいいんだし」
「いいんですか? どう考えても私達が原因ですよ?」
「わかってるけどさ〜……また国家間の争いに巻き込まれるのは、ねぇ……」
暗黒大陸の統一戦争でもう十分です。
「ではマーシャン達は放っておくのですか?」
「それは…………そういうわけにはいかないわね」
「もしマーシャンが火星を離れない、と言ったら嫌でも巻き込まれますよ?」
「そのときはサクッと総統暗殺してくるわよ」
「結局手を貸すのですね?」
「ぐっ…………ま、まあ、マーシャンは仲間なんだし……」
「フフ……ありがとうございます。サーチでしたら陛下を見捨てるような事はしないと思ってました」
「……ま、付き合いも古いからね」
ピコーン ピコーン
ん? また?
「緊急速報が続きますね。西マージニアが侵攻を開始したのでしょうか」
それはないでしょ。正直言って、東と西とじゃ国力に差がありすぎる。広大な領土を持っていて多種多様な民族構成の東マージニアと、都市国家でしかも人間がほとんどの西マージニアでは勝負にならない。後衛向きの人間と前衛向きの獣人・アンドロイド間では、真正面からの戦闘での差は大きい。
「いや、違いますね。我々西マージニア国軍大本営は、ここに重大な発表をする」
重大な発表?
「我々は敵軍の重要人物を捕縛した……?」
重要人物?
「そ、それは、アンドロイドを率いて我々に楯突いた愚か者であり、この世界に不要な鉄屑を蔓延らせた張本人……?」
ま、まさか!?
「う、嘘……! 我々はアンドロイドの女王、サーシャ・マーシャを捕縛せり……!?」
マーシャンが捕まった!




