EP6 ていうか、大団円。
「まずは先手必勝! はあああっ!」
ごげっ!
「ギョエ!?」
走ってきた勢いのままに、先頭の半魚人を蹴りあげる。
「手甲剣乱れ斬り!」
ばがががががっ!
「ギョ!」「ギョ!」「ギョエ!」
かなりの人数を海に叩き込んだところで、ナタに視線を向ける。
ダダダダダダダダダ!
「ほらほらほらほら! 下がれ下がれ下がれええええっ!」
「「「ギョギョギョギョギョギョギョギョ!?」」」
ナタはマシンガンを足元に連射し、次々に海へ追い返している。ようし、この調子♪
「うりゃ! そりゃ! どりゃ!」
ばきょ! どかっ! ぱかん!
「ギョ!」「ギョ!」「ギョエ!」
「ていうか、こいつら弱いわね! たあああっ!」
どごむっ!
「ギョエエエッ!」
ざっぱあああん!
ドロップキックがまともに顔面に決まり、最後の一匹も海に落ちる。
「リジー! 何か適当な呪いであいつらを追い払っちゃいなさーい!」
「うい! 海に直接≪呪われ斬≫」
ばちゃあん!
リジーが海にカースブリンガーを振り下ろす。すると。
ぬぬぬぬぬっ
『ぬおおおおおおおんっ』
何やら水でできたスライムみたいなのが浮上する。
「ギョ…………!」
「「「ギョエエエエエエエエエエエエエッ!?」」」
それを見た半魚人達は一斉に逃げ始める。
「リジー、徹底的に追って!」
「うい!」
『ぬおおおおおおおんっ』
「「「ギョギョギョギョギョギョ!?」」」
死にモノ狂いで逃げまくる半魚人のあとを、付かず離れずでしばらく追いかけ回す。
「よーし、そのまま沖のほうへ追いたてて、海坊主はここで待機で」
「うい。それより海坊主って?」
「へ? 今のヤツ」
「あれはカーススライム。呪いが形作られたモノであって、海坊主ではない」
「あーはいはい。なら名前が海坊主で」
「……サーチ姉、話聞いてた? まあ、海坊主って名前でもいいけど」
「そう? なら海坊主で。しばらく半魚人が上がってこないように見張らせて」
「わかった……海坊主、ここでステイ」
『ぬおおおおおおおんっ』
しばらく見守ってたけど、海坊主はきちんと半魚人を追い払っていたので、私達は安心してヴィー達の元へ戻ることができた。
それから夜になるまで半魚人の女の子は目を覚ますことはなかった。
「ヴィー、どんな状態なの?」
火に薪をくべながら、女の子の様子を見ているヴィーに尋ねる。
「身体に異常はありません。保護したときも怪我等は見当たりませんでした。ただ……」
「……ただ?」
「ずっと呼吸が乱れているのです。たまに本当に息苦しそうに」
息苦しそう?
「精神的ショックかしら?」
「その可能性もありますが、それ以上に」
『ぬおおおおおおおんっ!!』
……ん? 今の声は?
『ぬお、ぬおおおおおおおんっ!』
「リジー、あれ海坊主よね?」
「うい」
何かあったのかな。
「もしかしたら半魚人達が何か仕掛けてきてるとか?」
ならマズいな。
「リジー、ナタ、私と一緒に海坊主の後詰めにいくわよ。ヴィーとナイアはここで待機でお願い」
「わかりましたわ」
「女の子に何かありましたら連絡します」
「お願いね」
そう言って真っ先に駆け出した。
「ギョギョーギョギョ!」
「「「ギョギョーギョギョ!」」」
何やら海が騒がしい。真っ暗だから何してるかわかんないけど。
「一体何があったの?」
『ぬおおおおおおおんっ』
わかんねえよ。
「ずっと近寄ってこずに、ああやって騒ぎ続けている……って言ってる」
「わかるの!?」
「呪いの波動がリンクしている」
……ようわからんけど、通訳できるのね。
「なら半魚人はどんな行動をしてるのか聞いて」
「わかった。ぬおおんっ」
『ぬおおおおおおおんっ』
ぬおおんって言葉なの!?
「……えっとね、半魚人達は何か書かれた板を持ってるって」
板?
「で、先頭の人が声をあげると、後から皆が唱和するって」
………………抗議活動でよくやるヤツ? つまり何か言いたいことがあるわけ?
「……半魚人って何語?」
「まんまだけど、半魚人語だよ」
「誰か半魚人語わかる人いる?」
「サ、サーチ姉、無茶振りにも程がある」
そ、そうね。確かにムチャクチャだったわね。
「ボクわかるよー」
「「わかるのっ!?」」
「も、元同僚が半魚人だったから、教えてもらった」
なら話は早い!
「ナタ、半魚人達に『要求は何だ』って言って!」
「要求ならわかるよ。さっきから『女の子を返せー』って言ってるから」
「女の子を返せって? つまりは海坊主が怖くて近寄れないから、ああやってシュプレヒコールあげてるわけね」
ならほっといていいか。
『サーチ、大変ですわ!』
ホッとしたのもつかの間、緊急のテレフォンがナイアから入る。
「ど、どうしたの!?」
『お、女の子が……!』
「!! ナタ、リジー、ここはお願い!」
暗闇の中を駆け出した。
「どうしたの!?」
「サーチ! 女の子が急に……!」
女の子は喉元を掻きむしるような仕草をし、全身汗をかいている。
「顔が紫色って……」
「サーチ、もしかして……呼吸困難では?」
呼吸困難!? こんだけ空気があるのに、呼吸困難になるはずが……。
「サーチ、よくよく考えれば、女の子は半魚人ですわよね?」
「そうね、半魚…………あ、えら呼吸か!」
私はすぐに女の子を抱き上げて、海に向かった。
「ぶはあ、はあ、はあ、し、死ぬかと思いました……」
「申し訳ない。そういう事情だったのね」
何てことはない、私達の盛大な誤解だったのだ。女の子は好奇心のまま私達を見ていて、急に追っかけられて気絶。そのまま呼吸困難で苦しんでいただけ。それで、あまりに帰りが遅い女の子を心配した男達が海から上がって探そうとしてたところに、私達が鉢合わせした……ということらしい。
「いやいや、こちらも申し訳わかった。まさか我が一族を保護してくれていたとは」
人間の言葉がわかる半魚人が代表になって私達に頭を下げた。
「いえいえ、お互いに誤解だったんですから……ちなみに、この寂れた街は一体?」
「私達が外貨を獲得する為に、朝市を行っていたのです。その会場跡ですな」
「……もしかして、インスマス面って……」
「私達です。というより、半魚人ですから魚みたいな顔で当たり前ですな」
「……怪しげな宗教って……」
「私達は海の神を崇拝しておりますから、その事ではないかと」
つまり。半魚人の朝市→インスマス面の怪しげな宗教活動、という風に変換されたのか。
「その噂のせいで、朝市にもお客様が全く来なくなってしまい……今は外貨の獲得ができずに困っているのです」
「……何だったら東マージニアの魚屋さん紹介してあげよっか?」
「そ、それはありがたい! 是非とも!」
その後、マーシャン傘下のアンドロイド魚屋さんを通じて魚介類を売れるようになり、半魚人達は大喜びだったそうな。
「ていうか、海坊主どうするの?」
「……どうしよう」
「おいおい」
結局、半魚人に飼われることになりました。番犬としては有能そうだしね。
めでたしめでたし。




