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EP5 ていうか、ルルイエ関係?

 ずーーーっと海沿いを歩き続け、そろそろ海の幸放題に飽きてきたころ。


「サーチ、街です、街ですわ!」


 空を飛んで偵察していたナイアが、スゴい朗報を持ち帰ってくれた。


「ま、街!? マジで!?」

「ま、待ってください! そんな街、ナビには出ていませんよ!」


 東マージニアの最西の街までは、あと三日はかかるはずなのだ。


「でもサーチ姉、いいんじゃない? 街は街であって、街以外の何モノでもないと思われ」


 当たり前だよ。何を名言っぽく言ってんだよ。


「サーチ姉、一ヶ月振りのベッド」


 うっ。


「一ヶ月振りの魚以外の料理」


 ううっ。


「一ヶ月振りのお風呂かシャワー」


 うううっ。


「あわよくば温泉が」「さあ行こう今すぐ行こうとにかく行こう」


「サ、サーチ! こういう場合は慎重に「……同じ部屋で」さあ行きましょう今すぐ行きましょうとにかく行きましょう」


 こうして私達は正体不明の街に行くことになった。


「そ、その街って……まさか……」


 背後でナタが顔色を変えていたことに気づかないまま。



 ヒュウウ……

 ギィ……ギィ……


「「「「…………」」」」


 人……いるかな?


「これって……いわゆる廃墟ってヤツよね……?」


 入ってすぐの家は完全に崩れてたし、どの家も「よく崩れないな……」というつっこみが入るくらいの傾きっぷり。


「………………ナイア、人はいるか確認した?」


「…………」


 視線を逸らすナイア。見てなかったわね。


「…………まあ、いいわ。どちらにしても、屋根の下で寝ることはできそうだしね」


「あ、そうですね。屋根の下で眠れるだけでも、随分と違いますね」


「……もしもお風呂が残っていたら、使用するのもありと思われ」


「あ、いいわね。ヴィーお願いできる?」


「喜んで」


 ヴィーに聖術で温水を出してもらっての入浴は、過酷な旅の中での数少ない楽しみなのだ。


「ずーーーっと砂漠みたいなもんだったから、露天風呂なんてムリだったからねぇ……」


 地面を固めまくっても、乾季の地面はイヤになるくらい水を吸う。二度三度と挑戦して、ついに泣く泣く諦めたのは記憶に新しい。ていうか、三日前だし。


「やっぱり持ち運びできる湯船を作って、魔法の袋(アイテムバッグ)に常備しておくべきよね」


 全員がウンウンと頷く……って、あれ?


「ナタ、どうしたの?」


「へ!? な、何?」


「あんたさっきから様子がおかしいのよ。何かあった?」


「ななな何もないよ! ここが気になるなんてことは…………あ」


「気になるって? 何を知ってるのかしら?」


「ここここがインスマスだなんで知ってるわけが…………あ」


 わかりやすいゲロっぷり、ありがとう。


「インスマス? この街の名前ですの?」


 インスマスって……何か聞いたことがあるような?


「……はあ。火星じゃ有名な街なんだよ。曰く付きの人達が集まってる街だって」


 曰く付き?


「全員特徴的な顔をしてて、周りからは『インスマス面』って言われててさ」


 インスマス面…………ああ、思い出した!


「それってもしかして、怪しい神様拝んだりしてない?」


「詳しくは知らないけど、あまりいい噂は聞かないね」


 うーん……まさかこんなのまで現実になってたら、シャレになんないわね……。



 インスマスというのは、とある有名な異形系神様のホラーに出てくる、その筋の人達には有名な港町だ。獣人が存在しない地球の現代社会で、魚類との混血……半魚人みたいなのが暮らす排他的な街である。

 当然ながら、好奇心剥き出しで侵入したりすれば…………お決まりのパターン。



「や、止めてくださいよ」


「うふふ、ヴィー姉、おそらく夜になると、頭に懐中電灯巻いたオジさんが、『祟りじゃ〜』とか叫んで刀と銃で」

「いやああああああっ!!」


 ヴィー、怖がりすぎ。それにリジー、それ違うヤツだから。


「大丈夫大丈夫。だいたい人っ子一人もいないじゃない…………っ!?」


 外に走り出す。すると。


 ガタッ バキッ!


「誰かいるわ! ナイア、向こう側へ回って!」

「わかりましたわ!」


 唯一私に付いてこれたナイアが反対側に回り込む。そのまま人影を追う。


 タタタタタ……ズザッ!


「見つけたわよっ!」

「ひ、ひぃぃ!」


 女性のような悲鳴をあげて、私から逃げていく人影。けどそこには。


「お待ちなさいな!」

「ひぃああああああああああああっ!」


 ナイアが立ち塞がる。そして。


「あ……っ……」


 ばたっ


 ……あ、あれ?


「き、気絶して……しまいましたわね……」


 うつ伏せに倒れた女性を抱き起こす。すると。


「サ、サーチ、耳!」


 わかってる。指の間にある水掻きに、肌のところどころにあるウロコ。それに耳の代わりについているヒレ。


「どう考えても、半魚人じゃないの……」


 だけど顔は普通に人間だった。結構可愛いな、おい。



 仕方ないので女の子を連れて元の場所に戻る。


「あ、ナイア……その娘は?」


「わからないのです。私達を見て、何故か逃げ出しましたのよ」


「ねえ、ナタ。この娘って半魚人?」


「うーん……半魚人なような、そうじゃないような……」


 首を傾げるナタ。


「ボクの知ってる半魚人って、もっとこう……魚っぽいんだよね」


 魚っぽい……ね。この娘も魚っぽいけど、人間の特徴のほうが強いわよね。


「……とりあえず回復しましょうか?」


 物陰に隠れていたヴィーが顔を出す。


「……何で隠れてるのよ?」


「い、いいじゃないですか!」


 要は怖いのか。都市伝説の読みすぎなのよ。


「そうね、回復をお願いできる?」


「わ、わかりました」


 ヴィーが恐る恐る出てきて、≪回復≫(リカバリー)をかける。


 ざばあん! ばしゃばしゃ!


「!?」


 すると、海から何か飛び出してくる音が聞こえてきた。


「ヴィーとナイアはここで待機! リジー、ナタ、行くわよ!」

「わかった!」

「うい!」


 治療中の女の子をヴィー達に任せ、私とリジーとナタとで海に向かう。


 ばしゃばしゃ! ざばあん!


 その間にも海から音が響いてくる。気配が増えていってるわね。


「……百近くはいるわね」


「うっふふふ。ボクの右腕が火を吹くよ」

「今宵のカースブリンガーも血を欲す」


「いきなり好戦的にならないの!」


 血気盛んな二人を抑えつつ、浜辺まで来てみると。


「……ん?」

「ギョギョ?」


 たくさんの半魚人達が上陸している最中だった。ギョギョ。

クトゥルーさん?

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