EP4.75 何フィィィィィッシュ?
それからも川を縫うように移動し、二週間後には海に到達。そのまま海沿いを歩き続ける。
「遠回りしたぶん、かなり予定をオーバーしちゃったわね」
「食料は大丈夫ですか?」
「ん〜……実はかなり心許ないのよ」
予定では高原地帯を突っ切って、最短コースで東マージニアまで到達する予定だったのだ。まさかの乾季でここまで予定を狂わされるとは。
「ごめん、私の失策だわ。もう少しきちんと火星の気候を調べておくべきだった」
最初から乾季だとわかっていれば、当初から水辺を通るコースを選んでいただろう。
え? 飲み水くらいヴィーの聖術で何とかなるんじゃないかって? 流石に水浴びするほどの水を出してもらってては、ヴィーの負担もハンパなくなるのよ。攻撃用に水を出すのと水浴び用に継続的に出し続けるのじゃ、魔力の消費量が違いすぎる。
ええ? なら水浴び我慢しろって? 乙女にそれは禁句だよ。
「あ、謝らないでください! 誰もサーチを責めようとは思いませんよ!」
「そうですわ。それを言ってしまえば、サーチに任せっぱなしにしたワタクシ達にも責任はありますわ」
「サーチ姉に責任はないと思われ」
「そうだよ! 最初からボクに聞いてくれてればちゃんと教えたけどね!」
ぐふぅ!
「サ、サーチ!?」
「ナタさん! 貴女という人は……!」
「わざわざ人の傷に塩を塗り込むな」
「え、えええ!? 今のボクが悪いの!?」
ナタの悪気のない一言で傷口を抉られつつも、私は何とか食料問題について考える。
「……この量だとあと十日分。このまま海沿いを歩いていくと、東マージニアの一番西にある街まで二週間程度……」
もしものことも考えて二十日分は欲しい。そうなるとやっぱり足りないか。
「……ご飯を夕飯から削って、おかずになるモノを調達できれば……ナタ、海には食べられるヤツいるの?」
「い、いるに決まってるじゃない。火星の魚介類はまんま地球にいるヤツと同じだよ」
地球と同じ……ってことは、地球の魚をそのまま放したってわけね。
「ならいけるか…………みんな。釣りはしたこと、ある?」
「「「「つ、釣り?」」」」
適当な棒を拾ってきて、先に糸を結びつける。裁縫用の針を曲げて釣り針にし、適当な軽いモノを浮き代わりに付ければ……。
「はい、即席の釣竿完成!」
「「「「お〜!!」」」」
「……お〜、じゃなくて。あんた達もやるのよ」
「大丈夫です。私は聖術で捕まえます」
「ワタクシも月魔術の応用で」
「呪いで」
「銃でダダダダダーンと!」
「聖術や月魔術はともかく、呪いと銃は止めて」
とりあえず一旦解散し、各自で魚を捕まえることにした。私は岬の先に陣取り、エサになるゴカイを捕まえる。
「エサが豊富なのは助かるわ〜」
釣糸を垂らして五分も経たないうちに。
ぐいっ
「お、来た来た……ワンフィィィッシュ!」
……カサゴか。そこまで大きくない。
「ま、唐揚げなら食べられるでしょ」
その場で締めると、ヴィーに作ってもらった氷を詰め込んだ発泡スチロールの箱にカサゴを入れる。
「よしよし、次々♪」
再びゴカイをエサにしてチャレンジ。すると五分も経たないうちに。
ぐいいっ
「おぅふ。またまたかかったわね」
今回は引きが強い。だけどこれくらいなら……ふんぬっ!
ざばあ!
「お、メジナじゃん! ツーフィィィィィッシュ!!」
これはなかなかのサイズ。こいつは三枚に捌いて刺身ね。
「さあ、まだまだいくわよ♪」
今度はデカめのフナムシ。苦手は人が多いけど、エサには最適。
「おいでおいで、できればチヌがいいかな〜……って、底釣りじゃないからムリか」
ぐいいいいっ!
「うおっ!? こ、このガツンとくる手応えは……!」
こ、これは竿がもたないかも……!
ぐいいっぐいいいいっ!
「ヤ、ヤバい! 身体が持っていかれそうな引き!」
ぐいいっ!
「く、こうなったら賭けよ! どっせいいいいいいいいいっ!!」
竿がヤバいと感じた私は、折れる前に釣り上げようと力を入れる。
ざっばあああん!
ビチビチビチ……
「よ、よっしゃああああ! スリーフィィィィィッシュ!!」
デカいクロダイ、ゲットだぜぃ!
「これは調子いいわ♪ まだまだ釣り上げるわよ♪」
楽しくなってきた私は、さらに大きいフナムシをエサにして、釣竿を振り上げた。
「はああ……」
……全く捕まえる事ができませんでした。強烈な電撃で痺れさせようと思ったのですが、強力すぎて半分炭になってしまいました。
「……しかも警戒されてしまい、それからは近寄ってもこず……」
「あら、ヴィーさん?」
上から声がして見上げると、意気消沈したナイアが浮かんでいました。
「……ナイア……も、もしかして……」
「ヴィーさんもまさか……」
「「ボウズ?」」
お互いに変なところでハモり、お互いに深い溜め息をつきました。
「……難しいですね」
「……難しいですわね」
素直にサーチみたいに釣りをすれば良かったかもしれません……。
「あーーはっはっはっは! 大漁大漁♪」
するとリジーの笑い声が。砂浜を見てみると。
「え!?」
「す、凄い量……!」
渚でカースブリンガーを振り回して、次々と魚を砂浜にあげるリジーの姿が。
「あ、ヴィー姉にナイア姉。凄いでしょ。あーーはっはっはっは!」
うん、凄い。凄いけど……。
「全部食べられないですよ」
「へ!?」
「まあ……よくこれだけ不味い魚と毒のある魚を選って捕りましたね」
「ま、不味い魚はともかく、毒のある魚は毒を取れば……」
「どちらにしても、これだけ呪いまみれでは……」
口にした瞬間に死ねるレベルですね。
「あ、あぅぅ……」
「だから呪いは使うな、とサーチが言ったのですよ」
トボトボと帰る人員にリジーも加わり、サーチの元へ戻っていると。
ダダダダダダダダダダーン!
「クソクソクソクソクソオオオッ!」
……水面に向かってマシンガンを連射するナタの姿がありました。
「……ナタも駄目だったみたいですね……」
全員で深い深い溜め息をつきました。
「あ、おかえりー♪」
「サ、サーチ!? この刺身は!?」
「か、唐揚げも!?」
「き、切り身が丸ごと入った鍋まで!?」
「いやいや、大漁だったのよ。でもクロダイ二匹釣った時点で十分な量になったから、早々に切り上げて料理してた♪」
「「「「…………」」」」
「まさかあんな粗末な釣竿で、クロダイが二匹も釣れるなんて♪」
あ、そういう事ですか。サーチの≪道具上手≫は釣竿にも反映されるのですね……。
「ほらほら、早く手を洗ってらっしゃい。今日はごちそうよ♪」
「「「「は、はい……」」」」
……食料調達もサーチに任せた方が早いですね……。
計四フィッシュ。




