EP2 ていうか、脱出方法考。
「「ただいま〜」うごほっ!?」
新隠れ家に戻ってドアを閉めると同時に、カイト改めナタの後頭部にハイキックを極める。
「……よし、気絶したわね」
「サ、サーチ? 何事ですか?」
「全員集まって、今すぐ!」
「……はあ?」
「で、ではカイトがドナタだと?」
「上に二人の姉がいて、名前がソナタとカナタだってのも確認したわ」
私の話を聞いたヴィーとナイアはまじまじとカイト……じゃなくてナタを覗き込む。
「……面影は全くありませんわね」
「ネズミ系の獣人も混ざってるぽいんだけど、タヌキがメインみたい」
「……どうすれば狸が混ざるのでしょうか。前の世界で何も繋がりはなかったはずですが」
「こればっかりは調査のしようがないわね。ま、わかったところでどうにもなんないけど」
説明も終わったことだし、そろそろ起こすか……。
「っと、忘れてた。今の私達の状況をまだ飲み込めてないみたいだから、私が転生者だってのは秘密ね」
「わかりました。現状、混乱するだけですからね」
「了解ですわ。これ以上面倒な事は御免ですし」
「全面的同意案件」
よし、ならナタを起こしますか。
「ナタ、起きなさい、ナタ」
「…………ぅ、ぅぅ……ぁぅ」
やべ。ちょっと強く蹴りすぎたか。
「ちょっと、起きなさい」
ゆさゆさ
「…………ゎぉゎぉゎぉゎぉ」
「……絶対に地震か何かと勘違いしてますわね」
うーん、もう少し強引にいった方がいいか。
「起きろっての、ほら!」
ばしばしばしばしっ
「ぅぁぅ、ぅぉぅ、ゎぉ」
「……効果ないですね」
……仕方ない。
きゅっ
「はああああああん! って、何すんのさ!?」
おお、先っぽ摘まんだら一発で起きた。
「……って、あれ?」
「おはよー、ナタ」
「え? ナタ? …………あ、そうか、ボクはナタナタナタ……いい加減慣れないと」
「それよりも、頭は痛くない?」
「へ? 頭? 全然痛くないけど?」
マジか。結構強く蹴ったつもりなんだけど。
「ならいいわ。でも念のためにヴィーに診てもらって」
「診てもらえって……何があったの?」
「気のせい気のせい。ほら、早く早く」
視線を向けると、ヴィーは苦笑しながら頷いた。
「疲れているのかもしれませんしね。はい、座ってください」
「わ、わかったよぅ」
結果、とくに異常はなかった。サイボーグはかなり丈夫らしい。
休憩でお茶を飲みながら、街からの脱出方法について話し合う。
「買い物がてら探りを入れてきたんだけど、街の主要な出入口は封鎖されてるわ」
「西マージニア国は完全にファーファに乗せられていますね」
「たぶんだけど、実質的にはブラッディーロアの隠れ蓑的な国だと思う」
住民は気づいてないだろうけど。
「但し、それが事実だとすれば……何処で監視されているか、わかりませんわね」
「まーね。だから方法は三つ。まずはプランその一。リジーにがんばってもらう」
「≪化かし騙し≫ですか」
最近の定番、リジーの種族スキルで誤魔化す。定番だけあって、かなり安定した手段だ。
「私への負担を考えてほしい……と思われ」
リジーの苦労を考えなければ、だが。これは最終手段かな。
「ならプランその二。夜の闇に紛れて脱出。これも定番だけど、危険は伴うわね」
「いいんじゃないですか。ワタクシは空を飛んでいけば済みますわ」
「ボクは≪気配遮断≫があるから問題ないよ」
「それは私も同じく。ただ、問題は……」
「……私は苦手ですね、そういうの……」
「以下同文」
この二人か。
「…………サーチ、もう一つプランがあるのですよね。それは?」
「ん〜……できれば使いたくない手」
「……何です?」
「プランその三、地下を潜行」
「ち、地下?」
「そ。つまりは下水道」
「却下だね」
「却下ですね」
「却下ですわ」
「却下と思われ」
だと思ってたよ。誰も悪臭ネズミGワールドには行きたくないし。
「ならプランその二を煮詰めるしかないわね。各個で脱出するしかないか」
「サーチ、もし良ければ一人でしたら乗せられますわよ」
ナイアの申し出、とってもありがたい。
「ならリジー、ナイアと飛行ルートで。飛びながら≪化かし騙し≫ならカンペキでしょ」
「わかった。ナイア姉、よろしくお願いいたす」
「ええ、こちらこそ。但し風が強い場合は揺れますわよ」
「か、覚悟する」
よし、この二人はOK。問題は……。
「……わ、私はサーチ達と陸路ですね」
ヴィーは聖術師……サイキッカーだから、身体を動かすことが本業ではない。でも冒険者として過ごしてきた以上、常人よりはるかに運動能力は優れている。
が。
「いい、ヴィー。こう、こう」
ス……ス……
「こ、こうですか?」
ズリリ ズリリ
「ダメダメ! ヴィー、それじゃ足をズラしてるだけよ!」
「あうう……」
やっぱり本職からみれば、稚拙な面が多いわけで……。
「いい? 足を持っていくんじゃないの。置きにいくの」
「……?」
「サーチ、そんな抽象的な教え方じゃダメだよ。ボクに任せて」
「そ、そう?」
「えーっと、いいかな。足をササーッと動かすとズザザーッってなっちゃうんだ。だからビシッと動かしてスパーンと置くの」
お前はどっかの永世名誉監督か!
「え、ズビシッとシャキーンですか?」
ヴィーまで!?
「そう、バキャッとズババーンと!」
通じてる!?
ズザザッ! ズザザッ!
「こ、こうですね!?」
「悪化してるわよ! ズババーンとかドッパーンとか言ってる暇があったら、地道に練習しなさい!」
「「は、はい……」」
それから小一時間、忍び足の練習をしたんだけど……。
ザ……ザ……
「うーん、かなりマシになったんだけどね」
「まだまだだね」
「そ、そんな短期間で出来る訳ないじゃないですか!」
まあ、確かに。
「でもやらないと見つかっちゃうよ!? 何とかしないと大変だよむぎゅっ」
「変に煽らないの……ていうかさ、ヴィーはサイキッカーじゃん」
「はい」
「それで何とかならないの?」
「へ?」
「サイキックで音を消すとか、周りから目立ちにくくするとか」
「えっと……目立ちにくくなら、こんな感じで?」
ヴィーが術を発動させる……って!
「何でモザイク!? 逆に目立つじゃん!」
「あのさ、目立ちにくくするとかより、音が鳴る元を断てばいいんじゃない?」
「も、元を断つ?」
「飛べとは言わないけど、浮くことはできないの?」
「「……あ」」
一分も経たないうちにこの案件は解決した。
これで脱出可能に。




