EP1 ていうか、あんたは……!?
議題、どうやって脱出するか。
一、飛行機。
「火星は気流が乱れている場所が多く、空路は難しいそうですわ。第一に、西マージニアには空港がありません」
二、高速電車
「これが一番現実的ですが、駅は完全にマークされています。相当長い期間、リジーに≪化かし騙し≫を頑張ってもらえば別ですが」
「無理」
「……だそうですわ」
三、その他の交通機関
「ありませんわ」
「車は?」
「燃料が足りませんわよ」
「サイキックで動くサイ・カーとかないの?」
「ありますけど、全員のサイキックを合わせても一、日分にもなりませんわ」
「なら電気自動車で、ヴィーの電撃で充電」
「モンスターに襲われても大丈夫な電気自動車があると思います?」
「……ないっすね」
四、歩く
「これしかありませんわね」
「歩く……か。結構な距離よね」
「一ヶ月はかかりますわ」
「一ヶ月!? そんなに歩くの!?」
「まあ昔は歩くのが基本でしたし」
「無問題」
「無問題」
「え!? え!? 歩くので決定なの!?」
……最終的に挙手による多数決で決めることになり、四対一で第四案が可決。結論。陸路で、移動手段は……歩く。
「まずは食料ね。すぐに調達しましょう」
そう言って着替え始める。いくら何でも目立つ格好で行くつもりはない。
「て、うわ! ちょっとサーチ!」
「何よ」
「みんないるんだよ!」
「だから何よ」
「ま、周りの目がある中で、気軽に服を脱がないでよ」
「ちょっと。服じゃなくてビキニアーマーよ」
「そこはこだわらなくていいから! ていうより、みんなは気にならないの!?」
「なりませんわ」
「いつもの事と思われ」
「慣れましたし。というより、眼福げふんげふん」
ヴィーの一言が気になるけど、とりあえず着替えちゃお。
「ちょっ、サーチ、ダ、ダメだって! きゃああ、し、下まで!?」
「うっさいわね。気になるなら向こう向いてなさいよ」
何て言ってる間に着替え終わる。
「ていうか、あんたもさっさと着替えなさいよ」
「……へ? ボ、ボクも?」
「いくら数年分の記憶がないからって、街のことは一番あんたが詳しいでしょ?」
「そ、それは、まあ……」
「だったらさっさと着替える。私服くらい持ってるでしょ?」
「い、一応持ってますけどね……」
「ならさっさと着替える! 早くしないと剥くわよ!」
「わ、わかりました! わかったんです……」
カイトはしぶしぶシャワールームに向かった。
「ここで着替えりゃいいじゃん」
「ボクはサーチと違って良識があるんだよっ」
さいですか。ていうか、リジー、あんたが頷くな。
「うわあ、懐かしいなぁ……」
二人で街に出ると、カイトは懐かしそうに呟く。
「……ていうかさ、あんたは本名は何なの?」
「へ?」
「カイト・サーシャって名乗ってたじゃん。カイトだと男性名だし、サーシャは名字っぽくないでしょ。コードネームなのかなって」
「あ、そういうことね。ボクは本名知らないんだ」
「へ?」
「お察しの通り、カイト・サーシャってのはコードネームだよ。だけどボクは赤ちゃんのときに拾われたんです……」
「……あんたも、か」
「え? じゃあサーチも?」
「私も捨てられて、孤児院にいたわ」
「そう……だったんだ……」
「だいたいサーチって名前も正式じゃないし。私はシャアが名前だったはずなんだけど、シャアちゃんがさーちゃんに変わって、さらにエイミアにサーチに変えられて。それが定着しちゃったかな」
「エイミア?」
「私の親友……かな。今は別のパーティにいるけど」
「……親友か。いいな〜」
あら、もしかしてボッチ系?
「と、友達くらいいるよ! それにボクは二人姉がいるんだ!」
「二人?」
「……別の任務で行方不明なんです……」
……そっか。そういう商売だし、あり得るわよね。
「でさ、コードネームで呼び合うなんてイヤだったからさ、三人で名前付けあって、その名前を本名にしようって決めてたんだ」
「あら、いいじゃない」
「うん。サーチの話を聞いてたら、それを本名だって名乗っても問題ないんだって思えたよ」
そうね。だいたいシャアも殺っていう前世のコードネームが由来だし。
「で、何て名前なの?」
「ん。ボクはドナタ」
「…………………………………………は?」
「だから、ドナタって呼ばれてた」
「……………………………………はい?」
「だ、だから……」
「まさか……あんたのお姉さんって……カナタとソナタ?」
「な、何で知ってるの!?」
「っていうことは……あんたはハクミん!?」
「ハクミんって……何でボクのラジオネームを!?」
ハクミんはラジオネームなのかよ!
で、詳しく聞いてみると、火星の住民には暗黒大陸関連の人達が多いことがわかってきた。チラホラと知った名前が出てくる。
「……まさかとは思うけど、あんた達三人姉妹って、ネズミの血も混ざってる?」
「確か父方の遺伝子はネズミだって言ってたかな」
確定。何でタヌキが混じったかは謎だけど、どうやら前の世界のハクミんらしい。
「そっか〜……じゃあドナタって呼んだ方がいい?」
「…………それは止めてくれないかな。やっぱりカナタとソナタから言われたいし」
「そっか。ならハクミんで?」
「それはもっとイヤだ」
「…………ならカイトがいいの?」
「それは違う意味で問題あるよ。結構知れ渡ってるみたいだし」
なら何がいいのよー。
「…………サーチ、キミが付けてよ、新しい名前を」
「へ!? 私が!?」
「ボクはもう暗殺者じゃなくなったんだ。つまり、新しい人生のスタート。だから新しい名前を名乗る」
「ていうか、何で私が名付け親になるのよ!?」
「責任取ってくれるんでしょ?」
うぐっ。サイボーグの腕をチラチラされると、何も言えない。
「そ、そうね……なら……ドナタの一部を少し使ってもいい?」
「いいよ」
「……ドナタドナタドナタドナタ……よし、タを抜いてドナ」
「安直だね」
「な、なら……二つ並べてドナドナ」
「どっか連れてかれそうでイヤだよ!」
確かに。
「なら……ドナを文字ってドーナッツ?」
「食べられるの!? 穴空いてるの!? 甘いの!?」
「よ、よし、ドナを変化させてドーナ」
「ッツが取れただけじゃん!」
「な、ならドーナを変化させてドーラ」
「海賊の親分!?」
何故知ってる。
「まずはドナから離れようよ!」
「ドナから離れるって……ならナタ?」
……ん? ナタ?
「……ナタ。ナタにしよう」
「へ? ナタ?」
「ええ。ある国の神様の名前よ。いいんじゃない?」
「へえ、ナタかぁ……神様の名前って恐れ多い気もするけど、いいかも」
「よし、決まり。今日からあんたはナタよ!」
こうして。
カイト・サーシャことドナタことハクミんは、ナタとなった。
しつこくドナタ登場。




