EP17 ていうか、大脱出?
「あんたがカイト?」
マーシャンから預かっていたサーシャさんの似顔絵を出して見せる。
「これじゃないの?」
「……誰、これ?」
「この人がカイトじゃないの?」
「はい? カイトはボクだよ?」
こ、これは……。
「……私達は火星に人探しにやってきたの。で、この似顔絵を頼りに探し回っていたら、この炭鉱で行方不明になった獣人のリーダーに似てるって情報を得た」
「その方のお名前がカイトでしたの」
「……すいません、最近何があったかまでは……」
まあ洗脳解けて間がないんだから仕方ないけどね。
「でも、その情報源って……もしかしたらファーファでは?」
「そうだけど?」
「ははぁ……それは騙されたんじゃないかな?」
「「「……はい?」」」
「たぶん自分が無事に脱出するために、あなた達の目を逸らしたんだ」
「つ、つまり、このカイト情報は……」
「全くのデタラメ。ボクの名前を出した真意はわからないけど、ついでだから始末する気だったんだろうね」
……や、やられた……。
「……もしかしてですが……ファーファは私達を始末つもりだったんですよね? なら、ダンジョンそのモノを爆破してしまう可能性も……」
「ああ、それは無いわ。だってダンジョン内には、カイトを始めとしたタヌキ獣人達が配置されてるのよ? 自分の懐刀を犠牲にしてまで、私達を葬り去ろうとは思わないわよ」
「んん? ボク達が懐刀? ないない、それは」
「へ?」
「ボク達以上に暗殺に向いた連中もいたし、ボク達以上に強いヤツもザラにいた。そこまで重宝されることはないね」
…………ってことは。
「……みんな」
「「「「はい?」」」」
「……緊急脱出」
そう言ってから駆け出した。
「ど、どういうことですの!?」
「ヴィーのイヤな予感が当たりそうだってこと!」
ザンッ!
脇道から飛び出してきた飛行型を両断する。
「ちぃ、急いでるときに……!」
ワラワラと飛行型が湧いてくる。こいつら、どんだけいるのよ……!
「ボクに任せて!」
ガガガガガガガガガガッ!
右腕をマシンガンに変えたカイトが前に出て、飛行型を殲滅する。
「あ、ありがたいんだけどさ、血は大丈夫なの!?」
「大丈夫だよ……補充させてもらえれば」
ぅひ!?
「わ、私はパス! 一回吸われたからね!」
ヴィー達に振るが……みんな明後日の方向を向く。こらああ!
「まあ誰でもいいからさ……じゅるり」
「ああああんたね! 吸血行為自体に抵抗はないの!?」
「うーん、最初は抵抗あったけど…………まあいいやって思って♪」
気軽だな! ていうか、吸われる側のことも考えろよ!
「あんまり撃たないでよね?」
「大丈夫大丈夫。あと一時間は撃ち続けられるよ♪」
……緊急事態だから……仕方ないか。
「……次はリジーかな……」
私がボソッと言ったのが聞こえたのか、リジーはビクッと反応した。
ガガガガガガガガガガッ!
「左側から歩行型!」
「ワタクシが!」
サイ・ハンマーが唸りをあげ、歩行型の足を砕く。動けなくなったところにヴィーの電撃が見舞われ、完全に沈黙する。
「あのサイ・ハンマーの人、戦い慣れてるね。大振りの武器なのにちゃんと使いこなしてる」
……いつまでも武器に振り回されてたエイミアに、爪の垢を煎じて飲ませたいわ。
「それ以上にあなたはスゴいね」
「私?」
「ブレードをそこまで使いこなしてる人、ボクは見たことがないよ」
「これって、そんなに使いにくいかな?」
炸裂弾を出して投げる。
どかあん!
固定型の砲身にジャストミートし、粉々になる。
「こんな感じでさ、両手が自由になって便利なもんよ」
「…………炸裂弾を持ちながら斬るって、危ないと思うんです……」
「大丈夫大丈夫。私は消費アイテムの使用には補正がかかってるから」
「あうっ!?」
「リジー大丈夫!?」
手傷を負ったリジーに一番安いポーションをぶっかける。
「冷た……あ、あれ? 怪我が治ってる??」
「……ていう感じで」
「まさか……≪道具上手≫?」
「そうそう。よく知ってるわね」
「ファイターのエクストラスキルじゃないか! よく習得できたね!」
……エクストラスキル?
「職業レベルに加えて、特定のスキルレベルを最高値まで上げないと覚えられないスキル……だそうです」
瞬時に検索してくれてありがと、ヴィー。
「エクストラスキルの中でも一番微妙なスキルなのに、習得条件もハードなんだよ」
微妙なスキルで悪かったな。
「サイキッカーなら≪威力倍増≫とか≪術式倍速≫とか有用なスキルがあるし」
……確かに有用ね。
「フライヤーも≪光速飛行≫や≪飛行無敵≫があって」
めっちゃ有用だな。
「バーサーカーには≪多呪連斬≫っていう最強スキルがあるし」
最強かよっ!
「ていうか、ファイターには有用なスキルはないわけ!?」
「う〜〜〜ん…………アイテムが安く買える≪買物上手≫とか、モンスターとのエンカウント率を下げる≪逃足上手≫とか」
ファイターは便利屋かよっ!
「って、ちょっと待って。≪買物上手≫は何にでも有効なの?」
「へ? え、ええ。買えるモノなら何でも」
ゲームにこのスキルが存在してたら、スゴいチートスキルだわ……ていうか、実際にあってもチートスキルだけど。
「カイト、そのスキルの習得方法、今度教えて」
「いいよ……て、もう呼び捨て?」
「呼び捨て基本……ていうか、私は名乗ってなかったわね。私はサーチ。一応このパーティのリーダーよ」
「え、サーチ? パーティリーダー? まさか〝闇撫〟!?」
「……よく知ってるわね」
「暗殺者の間じゃ有名だったよ……左!」
ダダダン!
左側から出てきた飛行型のプロペラに、撃った弾がヒットする。
「ちぃ、話してるわけにもいかないか……この続きは無事に脱出してからね」
「そうだね……って、ボクは何で巻き込まれてるのかな?」
「あんたが責任とれって言ったからでしょ。だったらパーティに入ってもらうしかないじゃない」
「ボクの意志は!?」
「ないっ!」
パクパクと口を動かすカイト。
「諦めなさいな、カイトさん。サーチに巻き込まれたら最後、逃げる事は叶いません」
「サーチ姉はああいう性格だから、一度捕まえた奴隷は逃がさない……と思われ」
呆気にとられるカイトに最後に声をかけたのは。
「……ですが、サーチは渡しませんよ?」
「へ?」
やっぱりヴィーだった。ていうか、どういう意味かな?
カイト、仲間決定。




