EP12 ていうか、後悔と進歩
「狸々々々々々々々あいたっ!?」
「うっさいわよ! そんなにタヌキが好きなのなら、緑から赤に宗旨替えしなさい!」
「い、意味がわからない!」
朝ご飯の席で、後頭部を私に叩かれたリジーは、ブー垂れながらもご飯を食べ始めた。
「……リジー、そんなに狸が嫌いなんですの?」
「嫌い」
「……Gとどっちが嫌い?」
「迷う」
そこまで!?
「狐獣人と狸獣人の不仲振りは、私達の間でも有名でしたからね」
私達って……ヴィーの仲間ってことよね。
「モンスターの間でも?」
「ええ。秘密の村も何度か戦火に巻き込まれ、やむを得ず戦った事があります。そんな中で、村の近くに狐と狸の国ができた事がありまして」
「……赤い国と緑の国が?」
「はい?」
何でもありません。
「……えっとですね、例えばですが、私達と狸が戦闘になっていた場合、狐達は狸達の背後に回り、挟み打ちにします」
「卑怯ね〜」
「た、狸達を成敗する為にはやむを得ない!」
「逆に私達と逆が戦っていた場合は、狸達は狐達の背後に回り、挟み打ちにします」
「卑怯ね〜」
「卑怯だ卑怯だ! 獣人の恥だ!」
あんたらも同じことしてたんでしょうが!
「……ま、不仲なのはよーくわかったわ。でも今回タヌキと遭遇したのはたまたまでしょ? そこまで気にする必要は……」
「いーや、気にした方がいい。狸獣人達は獣人全体から嫌われている手前、結束が強い。だから狸獣人の村がある可能性が大」
「…………で? 嫌いなタヌキ達の村を見つけて、根絶やしにでもするつもり?」
「!? さ、流石にそこまでは……」
「ま、嫌うのは人それぞれだけど、その考えを周りに押しつけるのは止めなさい。タヌキ獣人側からしたら、逆もしかりってことよ?」
「うぐ…………わ、わかった」
「なら結構」
……このときにもっと踏み込んだ対応をしなかったことを、私が悔やむ事態に陥るのは、その次の日だった。
私達は炭鉱ダンジョンのさらに奥に進んでいた。ガードロボット達の抵抗も激しさを増し、結構ギリギリの戦闘が頻発していたとき。
「……伏せて!」
それは起きた。
チュイーン! チュイーン!
「また銃撃!」
タヌキ獣人か! 今対処できるのは、位置的にも私か。
「タヌキ達は私が何とかするから、ヴィー達はそのまま戦線の維持を」
「私が倒す!」
「ちょ、リジー!?」
ナイアの隣で戦っていたリジーが急に走り始めた!
「リジー、勝手に動かないでくださいまし!」
バギィ! ガシャアン!
ナイアはリジーを追おうとした飛行型ロボットを叩き落とす。
が、それによって隙が!
「ナイア、後ろ!」
「えっ!?」
ドスッ!
「うぐっ……!」
ナイアの背中に突き立つ刃。そのまま身体を貫こうとする。
全てがスローモーションだった。
「やああああめええええろおおおおっ!」
ズガシャアアン!!
最高速で駆けつけて、ナイアを斬りつけた歩行型を蹴り飛ばす。そのまま壁に激突し、ロボットは動かなくなった。
「ナイア! ナイア、しっかり!」
状況を察知したヴィーがすぐに駆けつける。
「ナイア! こ、これは……!」
「リジー、あとは任せる!」
私はリジーとナイアの前に立ち、敵と相対する。
「絶対に、ここを抜かせない!」
手甲剣と空想刃を駆使し、ロボットの刃を弾き返し、自爆を狙う飛行型を斬り落とす。
ザクッ
「ぐっ…………があああああっ!」
肩に深い傷をつけられるが、痛みを無視してロボットを蹴る。
グシャッ!
ロボットは関節付近を潰され、動けなくなる。
ザンッ!
そこへ空想刃が一閃し、ロボットが完全に沈黙した。
「っ!? ナ、ナイア姉!! サーチ姉!!」
リジーがようやく戻ってくる。
「つぅ……! い、一旦引き上げるわ! リジーは殿軍をお願い!」
「わ、わかった!」
リジーが防いでくれてる間に、ナイアを担ぐ。
「サーチ、肩の傷は……!」
「戻ってからでいいわ! リジー、伏せて!」
ブン…………ズガアアアアアン!!
ガラガラガラ……
強力な炸裂弾で天井を破壊して崩し、ロボット達が来れないようにしておく。その隙に来た道を戻り、無事にダンジョンを脱出した。それからロボットに遭遇することは、ホントに幸運だった。
ナイアは致命傷だった。ヴィーが必死に聖術をかけてくれたので助かったが、あのままだったら一日も持たなかっただろう。
「サーチ、しっかり」
「ごめん、不覚だったわ……うっ」
「あの数を防いでくれただけで十分です」
ナイアの治療に魔力を使い果たしてしまったため、私は傷を縫合するしかなかった。薬草やポーションで治すには、少し傷が深い。疲れた身体にムチ打ち、ヴィーが私の傷の治療をしてくれる。
「元来サーチは動き回って敵を倒すタイプですから、防衛戦は苦手ですものね……はい、終わりました」
包帯を巻いてくれたヴィーが、私の背中をポンッと叩く。
「ありがと」
「どういたしまして」
そう言ってからヴィーは立ち上がり、居心地悪そうにしていたリジーに近づき。
ぱあんっ!
リジーの頬を叩いた。
「……っ」
「リジー、何故あの場を離れたのですか!」
「…………」
「狸獣人がいたからですか!? だからサーチの指示を無視して、ナイアに致命的な隙を作らせたのですか!?」
「…………」
「あの時自由に動けたのは、遊撃に徹していたサーチだけでしたでしょう! 少し考えればわかる事でしょう!」
「……っ」
「あなたの勝手な判断が、ナイアに瀕死の重傷を負わせたのです! その事をよくよく考えなさい!」
そう言うとリジーはナイアの寝ている部屋に向かった。
「…………ぅ……ぐす……ひっく……」
静かに泣き始めたリジーの近くにいき、私は頭に手を置く。
「……バカリジー。ナイアが回復したら、ちゃんと謝りなさいよ?」
「ぅ………ぅあああああああああん! ごめ゛ん゛な゛ざい゛〜!! わあああああああああ!」
……リジーは一晩中泣き続けた。
一旦西マージニア国まで戻り、ナイアを入院させるしかない……と思っていた。
が。
「おはようございます。昨日は申し訳ありませんでしたわ」
「「「………………は?」」」
元気に朝ご飯を作るナイアの姿があった。
「ヴィ、ヴィー!? 確か致命傷だったわよね?」
「え、ええ。ま、間違いないです」
「あそこまで傷を塞いでいただければ、自然回復で何とかなります」
「「うっそだああああ!」」
……ナイアの話だと、月の魔女や人狼といった月の血族は、自然治癒力が特に優れているらしい。
「だ、だからって一晩で致命傷が治るって……」
「ですから、ヴィーの治療のおかげですわ。あのままでしたら、流石にワタクシでも危なかったですわ」
そんなナイアに近づいたリジーは、勢いよく頭を下げる。
「ナイア姉、ごめんなさい」
「はい、今度から気を付けてくださいまし」
……結局ナイアがリジーを責めることはなかった。
これ以降、リジーが暴走することは無くなった。
リジー、少しだけ成長。




