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EP9 ていうか、札束いっぱい。

「……しまった、あのまま寝ちゃったのか……」


 テーブルに突っ伏して寝ていた私は、身体を起こして痛む関節を伸ばす。


「ふぁあぁ……朝ご飯作らないと…………ん?」


 ヒラヒラッ


 どこからともなく落ちてきたメモを拾う。


「ナニナニ…………『リジーちゃんにお土産を渡しておきました。有効にご活用ください』……? 誰よ、この可愛らしい丸文字?」


 さっぱり意味のわからない状態で一階に降りていくと、キッチンから明かりが洩れている。誰か起きてるのかな?


「おはよ〜……うおっ!?」


 私の視界に飛び込んできたのは。


「あ〜、ありがたや〜ありがたや〜」

「「『〝嘆きの竜〟(ローレライ)様〜、〝嘆きの竜〟(ローレライ)様〜』」」


 ……怪しい宗教団体と化した、ヴィー達だった。な、何でみんなで紙袋にひれ伏してるわけ……?



「はあああああっ!? 〝嘆きの竜〟(ローレライ)がウチに直接届けにきたあ!?」


「そうなのです、ありがたや〜ありがたや〜」


「ヴィー、それ止めなさい」


「あ、はい」


 ……ていうか、これホントに〝嘆きの竜〟(ローレライ)の牙なの? 手に取ってみると……。



 ゾクリッ



「ひうっ!?」


 な、何? 持った瞬間に死ぬような、圧倒的な力を感じた。


「こ、これ、間違いないわ。とんでもなくヤバいシロモノだわ……!」


「はい。で、それをこの金額で買い取っていただけると……」


「へ? 依頼の紙じゃない…………って、マジで?」


「マジです」


 これは……とんでもない塩漬け依頼があったもんだ。今から五十年前の、か。


「? あまり驚かないのですね、サーチ」


「ん……ま、まあね。これぐらいのモノなら、地球の現代社会が入り雑じったこの世界でも、この金額は納得いくからさ」


 例えるなら……何でも願いが叶う七つの球がオークションに出品されたら、これくらいの値段にまではね上がるだろう。


「……ていうかさ、この現状で換金なんてしてもらえるのかな?」


「「「『……あ』」」」



「あの……ファーファさん……」


『何だよ、こんな朝っぱらから。何かあったのかい?』


 不機嫌そうにテレフォンに出たファーファさんに、詳しいことを説明する。


『既に依頼料が支払われているなら、報酬は何時でも出せるよ。何なら今から支所へ行って手続きしてやろうか?』


「いいんですか?」


『ああ、軍資金が必要なんだろ? ならそれぐらいの手間、どうって事ないさ』


「あ、ありがとうございます! ただ……気持ちを強く持って挑んでくださいね?」


『はあ?』



 キュアガーディアンズ支所でファーファさんに例のブツを見せたところ、現実逃避するかのように失神した。まあ、気持ちはわかる。



 支所の倉庫の奥に仕舞ってあった現金を魔法の袋(アイテムバッグ)に収納し終わるころには、すっかり辺りは暗くなっていた。


「……お金もこれだけあると、金銭感覚がだんだんとマヒしてくるわね……」


「最初は素直に『凄い』という反応でしたが、最後には『重いだけ』になってましたからね……」


 国家予算規模の札束って、単なる山だったわ……。


「あ〜、良かった。これで倉庫がようやく広くなったわ」


 そうねー。この倉庫、3/4は札束に占拠されてたからねー。


「ていうかさ、これだけの札束が入っちゃうバッグ、何とも思わないの?」


「ああ、アイテムバッグでしょ? 稀にだけど持ってる人は見てるから、別に何とも思わないさ」


 ありゃ、持ってるのは私だけじゃないのか。


「……どういう事でしょうか。私達の袋は全て使えなくなっているのに……」


「ま、だいたいのヤツは〝知識の創成〟(アカデミア)印だったから、それ以外のヤツが残ったんじゃない?」


「成程。そういえば魔法の袋(アイテムバッグ)の技術は〝知識の創成〟(アカデミア)によってもたらされたのでしたね」


 私達が雑談していると、アンドロイドへの対応に奔走していたマーシャンが戻ってきた。


『ようやく体制作りの目処が立ったわい。給付も三日くらいで始められそうじゃ』


「オッケー。お金はどうしておけばいい?」


『妾のアイテムポケットに入れておけば良かろう。後で入れ換えるとしようかの』


「りょーかい」


 …………ん?


「ちょっと待って。アイテムポケットって?」


『む、アイテムポケットも知らんのか? アイテムポケット社が扱っている荷物預かりサービスじゃ』


 何それ?


『要は荷物をワープさせて、地球にあるアイテムポケット社の倉庫に預かってもらうんじゃ』


「ワ、ワープ!?」


『何じゃ、知らんのか。人や大型のモノはまだ無理じゃが、宅配便で送れるモノくらいならとっくに実用化されとる』


 な、何ですとおおおおっ!?


「……ヴィー、知ってたの?」


「あ、はい。しかし私達にはサーチの魔法の袋(アイテムバッグ)がありましたから、必要ないと思いまして」


「た、確かに必要はないけど……知識としては知っておきたかった……」


「すみません、常識だと思って(・・・・・・・)ましたので(・・・・・)


 ぐさあ!


「ナ、ナイアやリジーも?」


「はい、かなり前から(・・・・・・)


 うぐぅ!


知らないのが(・・・・・・)不思議に思われ(・・・・・・・)


 ぐふっ!


「う、うう……ヴィ、ヴィー……か、回復を……ライフが危険水域……」


「……サーチ、一般常識を身に付ける事でしか、回復する手段はありません」


 …………はい。



 マーシャンによるアンドロイド達の引き締めが強まるにつれ、様々な影響が西マージニア国に起こり始めた。

 まずは西マージニア国とアンドロイドとの決裂。獣人への待遇改善をアンドロイド側が要求したところ、西マージニア国が全面的に拒否してきたのだ。政府の意向によって炭鉱の運営会社が雇用面で揺さぶってきたものの、マーシャンによる迅速な援助の給付によって空振りに終わった。結局このことが要因でアンドロイド達も西マージニア国を見限り、次々と東マージニア共和国に移っていくこととなる。働き手を失った炭鉱は一ヶ月後には事実上閉鎖状態となり、好景気に賑わっていた炭鉱の町は閑散とすることになった。



 で、私達は。


「ようやく炭鉱の調査に入れるわけだ」


 ファーファさん達やマーシャン達も東マージニア共和国に移り、残っているのは私とヴィーとナイア、そしてリジー。


「マーシャンは結局来れなかったわね」


「アンドロイド自治区の運営で忙しいみたいですから」


 大量の移民を東マージニア共和国は歓迎し、炭鉱に近い土地を無償で提供してくれた。そこにアンドロイドと獣人が自治区を作って開拓を始めている。マーシャンはその自治区の代表になっているのだ。


「仕方ありませんわ。ワタクシ達でサーシャさんを見つけ出しましょう」


 さあ、久々のダンジョンだ♪

明日からダンジョン攻略。

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