EP8 ていうか、私とマーシャン、演説。
『ささっ! お茶でもどうぞ!』
『うむ』
『ささっ! お茶うけもあります!』
『うむ』
マーシャンの素性が知られた瞬間、土木事務所はマーシャン宮殿と化した。うん、何だこれ。
「ちょっと、ちょっと」
『え、あ、はい』
通りかかったアンドロイドを捕まえて、質問してみる。
「あのさ、マーシャン……サーシャ・マーシャって、そんなに偉いアンドロイドだったの?」
『偉いって……当たり前じゃないですか』
「ごめん、私はアンドロイドじゃないからよくわかんないんだけど」
『……ああ、そうですね。普通の方にはわかりづらいかもしれませんね』
通りがかりのアンドロイドは、私に椅子を勧めてくれた。忙しそうなのにすみませんねぇ。
『陛下はアンドロイドになる前は、ある少数民族の長をされていたそうです』
少数民族?
「……尻尾のある戦闘民族とか?」
『は?』
あ、何でもないです。ごめんなさい。
『えーと、私が聞いた話では、サイキックを体系化した幻の民族だとか』
…………ははーん、要はハイエルフのことだな。
『その少数民族は流行り病によって絶滅してしまい、陛下も自らの命を機械に定着させる事で、どうにか生き延びたのだか』
どうやって機械に命を!?
『生き永らえた陛下は研究を続け、遂にアンドロイドの製造に成功したそうです』
「あ、だから『アンドロイドの祖』なのね」
『そうです。その後も研究を続け、陛下はついに「生命体のアンドロイド化」にも成功します』
「生命体の?」
『はい。それによって身体が生まれつき弱い者や、瀕死の重傷を負った者もアンドロイド化する事で生きられるようになったのです』
「なーるほどね、だから『陛下』って呼ばれて尊敬されてるのか」
『学校の教科書にも名前が出てるくらいです』
前の世界の名声をそのまま引き継ぎやがったのか。
『更に陛下は「アンドロイド三原則」の提唱者としても有名です』
ロボット三原則じゃね?
『一つ、アンドロイド化前の姿、かつ人間の姿から著しくかけ離れるべきではない』
……少し前まで船だった人もいますが。
『二つ、アンドロイド化は命を守る最後の砦であり、妄りに行うべきではない』
希望者殺到しそうだしね。
『三つ、アンドロイドは道具ではない。権利は尊重されるべきである』
あ、確かにそうね。
『この三原則のおかげで、アンドロイドの方向性が示されました。何もなければアンドロイドは戦闘兵器として活用されていたでしょうね』
でしょうねー。姿が自由化されてたら、気がついたら戦闘機!? もあり得るもんねー。
「って、アンドロイド化前の姿からかけ離れない? だったら性別もってこと?」
『はあ、一応は……但し例外はありますけど』
やっぱり? アンドロイドでもおネェはいるか。
『おい、何をしている! お茶を早くお持ちしろ!』
マーシャンの接待役から怒声が飛ぶ。ありゃりゃ、お茶汲みの途中だったか。
『あ、すみません! ……あのぅ』
「私はいいから、早く行って行って」
『す、すみません!』
……さて、マーシャンはどうしてるかな。部屋を覗いてみると。
『ささっ! 肩をお揉みしましょう!』
『うむ』
接待役のアンドロイドが一生懸命マッサージって…………ねえ、アンドロイドって、肩凝るの? ていうか、肩揉みって意味あるの?
「……ていうか、肩、鉄板だよね?」
マーシャンに対する接待が終了してから、私達はようやく本題に入ることができた。
『さて、皆に協力をしてもらいたい事がある』
『『『何なりと!』』』
『うむ。では妾に代わってサーチに話をさせる。この者は名高いキュアガーディアンズでな、〝闇撫〟の異名を持っておる』
『『『お〜〜』』』
……何かやりヅラいなあ……。
「えーっと、ただいまご紹介に与りました、サーチと申します。よろしくお願いします」
『わーわー!』
『やんややんや!』
『パチパチパチ!』
「ストップ! ストッープ! そこのあなた、あんた、お前! 口で『わーわー!』だの『やんややんや!』だの言うのは止めなさい!」
『はーい』『盛り上げようとしただけでーす』
やんややんや言われて盛り上がるか! ていうか、盛り上がる必要性なし!
「そして口で『パチパチパチ』言うんなら、ちゃんと拍手しなさいよ!」
『えー、だって、私達が実際に拍手すると』
がぎょんがぎょんがぎょん!
『……になるんだけど』
「……拍手はなしで」
鉄板と鉄板で叩けば金属音になるわな……。
「えー、おほん! では私達からの要望をお伝えします。まずは私達への支援ですが……」
『そこはご心配いただかなくても、組合の総力を結集して協力させていただきます。なあ、皆の衆!』
『『『いいですとも!』』』
ちょっと待て、何故それを知ってる。
『サーチ、気にせずに進めるがよい』
「…………つ、次に現政権の獣人に対する迫害について」
『それは妾からも頼みたい。人間達の獣人に対する態度は目に余るモノがある。はっきり言ってしまえば、不愉快極まりないの』
『陛下、我々とてそれは同じ。獣人の皆さんは、同じ現場で働く同志でございます』
『アンドロイドは獣人を迫害するような事は致しません!』
あれ? なら……。
「獣人を助けてくれるってこと? ていうか、獣人側についてくれるとか?」
私の言葉を聞いたとたん、さっきまで元気だったアンドロイド達は一気に静かになった。
『そ、それは……』
『流石に……』
『何じゃ、協力できぬと申すか?』
『そ、そういう訳ではございませんが……』
『我々にも生活が……』
「あ、人間が雇い主なのか……」
そうなると、全面的な支援は難しいか……。
『何を言うておる。困っておる時こそ、助け合うべきじゃろ』
『へ、陛下……』
『し、しかし……』
『よかろう。ならば妾が其方等を救済しようではないか』
『きゅ、救済?』
『まずはこの国のアンドロイド全員に一律で十万エニー給付しよう』
どよっ
『更に、休業中の給料も妾が負担しよう』
どよよっ
『更に更に、この国に居られなくなったとしても、新天地を用意しておこう』
わああああっ!
『更に更に更に、新天地での就職も世話しようではないか』
うおおおおおおおおおおおおっ!
『どうじゃ、これだけの条件を提示されて、まだ固辞するのかの?』
『女王陛下ばんざーい!』
『我々はどこまでも付いていきますぞ!』
『獣人との友好万歳! 人間なんかぶっ潰せー!』
あはは、単純ね。ていうか、これだけのことをする財源って……?
『では遣り繰りは頼むぞ、財源』
へ?
…………はああああああああああっ!?
「ちょっと、そんなお金どこに!」
『ん? 今更無理じゃと言えるかの?』
『わああああっ! 万歳、ばんざーい!』
『わっしょいわっしょいわっしょい!』
『人間なんかに従う必要ないぜー!』
『わっしょいわっしょいわっしょい!』
………………い、言えない。
財政破綻、確実……。
ニュースを見てたらつい。




