EP7 ていうか、アンドロイドに協力してもらう?
「炭鉱? なら西マージニア海の北の山だよ」
変装して町に食料を買いに行ったとき、ついでに炭鉱のことも聞いてみた。場所は知ってるから、他のことを教えてほしいんだけど。
「炭鉱に用でもあるのかい?」
『妾……いや、私の友達が働いているのでな、訪ねてみるつもりじゃ』
「あ、友達? ……まさか獣人じゃ……」
『私と同じアンドロイドじゃよ。炭鉱勤めは多かろう?』
「そうかいそうかい、ならいいけどさ……」
商店街の気のいいオバちゃんですらこの態度。この国での獣人差別はホントに深刻なようだ。
『本当に気分が悪いのう』
簡単な変装で誤魔化せる私と、アンドロイドなので不審に思われないマーシャンとで、買い物兼聞き込みをしているのだが……時折にじみ出る獣人への嫌悪感はヒドいモノだった。
「背中さえ隠せば大丈夫な私と違って、ヴィーとリジーは難しいなぁ」
ヴィーはサイ・テンタクルさえ外せば大丈夫なんだけど、何故か本人が頑として外すことを拒むのだ。理由はわかんないけど、無いととっても不安らしい。
で、頭に可愛らしいケモミミつけたリジーはもっと深刻。一応≪化かし騙し≫を使えば誤魔化せるけど、一応魔力か体力かを消耗するモノらしいので、そう長々とはできない。
少し前に私とリジーとで買い物に出かけたとき、途中でリジーが限界に達してしまった。とっさに私が帽子を被せて、そのときは事なきを得たんだけど、そのあとが……。
「ふはあ、ありがと、サーチ姉」
「別にいいけど、あまりムリはしないようにね」
そんな会話をしながら歩いていると。
「お客様、お客様!」
突然店員に呼び止められた。振り向くと剣呑な雰囲気を醸し出す客達が私達を見ていて、店員の手には警棒が握られていた。
「何?」
「そちらの女性の方、頭に獣の耳があった、と通報をいただきまして。すみませんが帽子を取っていただけますか?」
向こうにさっきすれ違ったオバサンがいる。何やらヒソヒソ話しているのを見ると、通報したのはあいつらか。
「帽子を? いいけど……リジー、いいわね?」
「仕方ないと思われ」
リジーが帽子を取る。すると。
ピョコン
見事なくらいの寝癖が広がった。
「どうしても寝癖が直らなくて、仕方なく帽子を被っていた」
「っ……! も、申し訳ありませんでした!」
店員さんは平謝り。リジーはそそくさと帽子を被り、一息つく。
「店員さん、別にいいですよ。謝らなきゃいけない人は他にいるでしょうし」
そう言って睨みつけてやる。するとオバさん達は視線を逸す。
「なあに、あれ」
「人のことを睨みつけて、最近の若い子は態度が悪いわね」
何かブツブツ言い出したので、オバさん達を指差して一言。
「店員さーん、あのオバさんのカバンの中、よーく調べてあげてー」
私の声に反応して、客が一斉に注目する。
「な……!」
「あのオバさん、さっきお酒コーナーでビールをカバンに詰め込んでたわよー」
「や、やってないわ! やってないわよ!」
「……お客様、事務所に来ていただけますか?」
「やってない! やってないって言ってるでしょ!」
ま、コッテリしぼられるといいわ。え? ホントに万引き現場見たのかって? んなもん見てないわよ。ただカートを押してる割に、デカいバッグを下げて歩いてるから、何となく言ってみただけ。
「うわ、スゴい量万引きしてるぞ!」
「警察呼べ警察!」
ありゃ、ホントに万引きしてたわ。
世間が妙に殺気立ってるから、みんなイライラしてるんだろうねぇ……。
『サーチや、その寝癖はどうやったのじゃ?』
「リジーがまた≪化かし騙し≫しただけ。五秒くらいなら何とかなるって言ってたから」
『成程。咄嗟の機転じゃな』
結構ヤバかったけどね。これがキッカケでリジーも待機組に加わることになった。
『待機組を代わったナイアはどうしておるのじゃ?』
「朝一で炭鉱の偵察に飛んでったわ」
ナイアもずっと待機組だったから鬱憤が溜まっていたのだろう。リジーと交代になったら、嬉々としてサイ・ハンマーを磨いてたわね。本来ならアンドロイドのマーシャンが偵察したほうが目立たないんだろうけど……って、思い出した。
「ねえマーシャン、アンドロイドに協力を要請したらどうかな?」
『む? アンドロイドにか?』
「ええ。人間の次に人口が多いから、協力してもらえれば私達も動きやすいわよ」
『むう……そうじゃな。一度アンドロイドの土木事務所に顔を出してみるかの』
「……ちょっと待って。何で土木事務所なのよ?」
『この国でのアンドロイドの役割は、炭鉱夫が殆どじゃよ。アンドロイドなら埋まろうが爆発しようが無問題じゃからの』
丈夫さは折り紙付きだから、危険な場所での作業はアンドロイドの専売特許らしい。
「わ、わかったわ。なら土木事務所へ行ってみましょ」
「な、何じゃこりゃ!」
土木事務所の前で、かなりビックリさせられた。
『労働環境改善!』
『アンドロイドにも休みを!』
『危険手当を求む!』
労働組合状態の貼り紙がびっしり。たぶん事務所内のアンドロイドは「初志貫徹」「勝利」とか書かれたハチマキしてるんだろうな。
「ご、ごめんくださーい……」
恐る恐る中に入ってみると。
『ハイハーイ、ようこそ土木事務所にお出で下さいましたー♪』
……バタン
「あ、あれ? 地球でお馴染みのボーカロイドがいたような……?」
『基本的にアンドロイドの外見は自由じゃからの』
……もう一度開ける。
『あのー、どうかなさいました?』
「ミ○?」
『は?』
あ、違うのか。
「失礼しました。あの、ちょっとお話がありまして……」
『はあ……どのような用件でしょう?』
うーむ、何て言ったらいいのか……。
『サーチ、代わるわい』
私を退かしてマーシャンが前に出る。
『あ、貴女は?』
『妾はアンドロイドの祖であるMKr128型プロトタイプ、サーシャ・マーシャじゃ』
『MKr128って…………まさか「女王」ですか!?』
な、何?
『しょ、少々々お待ち下さい!』
ドタドタドタ!
『々が一つ多いぞ……と、行ってしまったか』
「マ、マーシャン?」
『何じゃ』
「な、何その『MKr128型プロトタイプ』っての?」
『よくわからぬが、妾はこの世界で一番最初に作られたアンドロイド、となっておる』
「アンドロイドの祖!?」
『うむ。で、紆余曲折があったようでの、気付いたら船のメインプログラムになっておった』
紆余曲折すぎるでしょ!
バタバタバタ
大量にアンドロイドが来た。ていうか、アニメに出てきそうなロボット型ばっかなんだけど!
『ま、誠に陛下でございますか?』
『うむ、個体製造番号を告げるぞ。妾はMKr128-nK7Hqt1D288abK……』
それから十分間に渡り、マーシャンは数字とアルファベットを羅列した。
『……kkr767、個体名サーシャ・マーシャ……どうじゃ』
マーシャンの言葉を理解したらしいアンドロイド達は、涙? を流してひれ伏した。
『お、おおお! 間違いありません! お帰りをお待ちしておりました、女王陛下!』
……ホントに女王らしい。
女王様だった!




