EP6 ていうか、検証します。
突然習得した謎のスキルは、日常生活で猛威を振るった。
トントントン
包丁を使って野菜を切っていると。
トントントン スパッ トントントン スパッ
「…………三、四回に一回くらい、一ヶ所余分に切れるんだけど……」
とか。
また、掃除の際に、掃除機を使っていると。
うぃぃぃぃん がーーっ
「マーシャン、掃除の邪魔だからどいてくんない?」
『妾は女王故に、安息を破る事は許されぬのじゃ』
「要はテレビ見てゴロゴロしてるだけでしょ!」
『あははははは!』
くそ……テレビに集中して、私を完全に無視してやがる……! 頭に来て、ノズルをマーシャンの背中に押しつけてやった。
ズズズズズズズズズズッ!
『うごおおおおおおおおおおおっ!?』
「ほらほら、早くどきなさいっての!」
ズズズズズズズズズズッ!
『あが! ぐお! ぐほお!』
……? 妙にマーシャンが苦しんでるような……?
ズズズズズズッ! キュポン!
『ぁ…………ぅ…………』
あ、あれ? 妙にマーシャンが干からびてるような……? 不安になったのでヴィーに診てもらうと。
「ま、魔力がほとんど吸われています!」
はあああああっ!?
「……? サ、サーチ、あり得ないくらいの魔力を感じますが、どうしたのですか……?」
…………ま、まさか掃除機でマーシャンの魔力を吸い取っちゃったわけ……?
とか。
何か道具を使って行動すると、何らかのボーナスを得るようになった。これが≪道具上手≫の効果か。
「日常生活には役に立つっちゃー立つわね」
使い方さえ把握すれば、効率的で非常によろしい。フライパンで何かを炒めるにも、時間は半分で済むのだ。慣れないうちは焦がしまくったもんだが。
「……サーチ姉、道具の括りってどれくらいなの?」
「ん? 何で?」
「冷蔵庫も道具に入るなら、冷却効果も倍増すると思われ」
「……それはないわね。だったらエアコンの効果も倍増しちゃうだろうし」
「あ、そっか。なら道具の中に機械は含まれない……と思われ」
「でも掃除機では効果あったから、手に持って使ってるかどうか、じゃないかな」
フライ返しで肉をひっくり返す。流石にこれくらいの動作ではボーナスはない……と思う。
「よーし、焼けたわ。リジー、お皿並べて」
「うい」
リジーが用意してくれた皿の上に肉を盛る。フライ返しで移動させていると。
つるっ
「わっ!?」
肉が滑って落ちそうになり、思わずフライ返しで弾く。
すると。
バシッ ひゅー……ぽてっ
「ウ、ウソ……さ、皿にジャストミートした……」
思わず弾いてしまった肉は、万有引力の法則を一切無視した軌道を描き、皿に盛りつけられた。
「こ、こういうボーナスもありなのか……」
昼に、このスキルの検証を行うことにした。
その一、武器の使用。
「まずは手甲剣で大根を……」
トントントントントントン
……あれ?
トントントントントントントン
「何も……起きない?」
試しに包丁で切ってみる。
トントントン スパッ
あ、追加効果出た。
「……ナイフは」
トントントントントン
……効果無し。試しに果物ナイフ。
トントントン スパッ
「……どうも戦闘で使うモノには効果は無いみたいね……」
包丁がOKでナイフがNGな理由が微妙だけど。
その二、洗剤や消臭剤など、液体の類。
「これは効果あるはずだわ。コンロの掃除のとき、信じられないくらい洗剤で油浮いたから」
「わからない。タワシや布巾に効果が出たのかも」
「……あ、それはあり得るか」
ならば実験。寝ているマーシャンの背中に洗剤を吹き掛けてみる。
『くぅー……』
「さーて、どうかしら?」
「サーチ姉、何故実験対象がマーシャン?」
「いいのよ、それくらいの扱いで」
五分ほど待って、洗剤を着けた場所を見てみると。
「……あ、塗装が落ちてる」
「あ、本当だ。ならば洗剤にも効果はあると思われ」
洗剤でOKなのなら……。
「リジー、ごめん」
ナイフで腕をサクッと。
「いたあああああい! な、何するの、サーチ姉!?」
「実験実験」
傷薬を一滴だけ垂らす。
パアアア……!
「う、嘘。たった一滴で傷が塞がった!?」
「まだ痛い?」
「ぜ、全然」
やっぱり。回復アイテムにも効果ありか。
その三、ボウガンや銃みたいな、間接的な道具。
ピシュン!
ズドッ!
「……別に威力にも命中率も変化ないわね」
「なら銃で」
リジーが渡してくれた銃にサイレンサーを着ける。流石に昼間っからドキュンズキュンはマズい。
プシュ プシュ
「……これも変わんないわね。いつも通りだわ」
「間接的道具、というより武器だから効果無し?」
「……あ、そうか。洗剤なんかも間接的道具になるわね」
あくまで戦闘用かどうか、なのか。
「……じゃあ火炎放射器には効果無くて、バーナーには効果有り?」
……そうなるのかな。
後日、実験してみたら、その通りになった。
「つまり、戦闘用の道具か否か、という事で補正がかかっているのですね」
「そうみたい。銃にも補正がかかるんなら、めちゃくちゃ便利だったんだけどね」
おやつを食べながら休憩。ずっとネットで情報を集めてくれてるヴィーの肩を揉んであげる。
「ふはぁ、気持ち良いです……」
人を殺す技を習い続けた私は、自然と人体の構造についても詳しくなった。だからマッサージはお手のモノだ。
「……サーチ姉、道具に補正がかかるんなら、手でマッサージするよりマッサージ機使った方がいいと思われ」
…………あ、そうね。
「ヴィー、マッサージ機借りるわよ」
「あ、はい」
肩凝りのヴィーご愛用のマッサージ機を使ってみる。
ぶいいいいいいんん
「ああああああああ…………」
ウットリするヴィー。さっきまでのマッサージより気持ち良さげなのが腹立つ。
ぶいいいいいいんん
「あぅあぅあぅあぅあぅ…………なぁにぃをぉしぃてぇるぅのぉでぇすぅかぁ」
いえ、ちょっと声にも振動を与えてみただけ。
「あ、サーチ姉、それ面白い」
「おぉもぉしぃろぉくぅあぁりぃまぁせぇん」
「あはははははは!」
「あれ? ヴィー、私もうマッサージ機切ってるわよ?」
「えぇ? だぁけぇどぉこぉえぇがぁ」
あらら、マッサージ機だとこういう補正になるのか。
「あっははははは!」
「クスクスクス」
『ヴィーや、なかなか面白いぞよ』
「わぁらぁわぁなぁいぃでぇくぅだぁさぁいぃ! さぁあぁちぃ、なぁんとぉかぁしぃてぇくぅだぁさぁいぃ!」
何とかしろって言われても……。
結局、私がポーションを飲ませてあげたら治った。これも補正?
アイテム補正でした。




