EP5 ていうか、潜伏中に大掃除。
隠れ家に潜伏して一日目。とりあえず今日はジッとしておく。
「ていうか、まずは大掃除! ところどころ汚くなってるから、徹底的にね!」
「なら私はサイ・テンタクルを活かして、高所の蜘蛛の巣取りをします」
「ワタクシは飛行して外側の窓を拭きますわ。リジー、内側の窓拭きしながら、ワタクシを見えないようにしていただけます?」
「うい。目立たないようにする」
『妾は女王故、何もせずテレビでもぐごぁ!?』
「マーシャンは風の魔術でホコリを集めなさい! 私はキッチンとお風呂をやるわ」
魔術やスキルを普段の生活に活かせるのっていいよね。≪偽物≫があったとしても、せいぜい金属製の道具を作り出すのが関の山だったしなぁ。
「今はひたすら磨くのみ、と。まさか百均で買った道具がここまで役に立つとは」
地球にいたときに買い漁った百均の掃除道具を取り出し、まずは流し台の掃除を始める。
「一見キレイに見えるけど、やっぱり汚いのよね……」
ゴシゴシゴシゴシ
「あ、この辺りはこれの方がいいか」
ガシュガシュガシュガシュ
「あ、ここはこれね」
ザスザスザスザス
「仕上げはこれか」
キュッキュッキュッキュッ
「……よし、こんなもんかな。次はコンロか……うわ、油汚れがヒドいじゃないのよ、もう」
シューッ
「油を浮かせるスプレーをまんべんなく……」
しばらく待ち時間があるから、他の場所も磨きますか。
ゴシゴシゴシゴシ
ガシュガシュガシュガシュ
ザスザスザスザス
キュッキュッキュッキュッ
「……よし、油が浮いたわね。残った油を洗い流して……」
ジャーッ ゴシゴシゴシゴシ
「……よーく拭き取って……」
キュッキュッキュッキュッ
「……よし、こんな感じかな」
次はお風呂を……って、マーシャン?
「あんたは何を余裕綽々にしてるのかしら?」
マーシャンはソファに寝っ転がって、おもいっきり寛いでいた。
『ちゃんと掃除しておるぞい、ほれ』
指差す先を見ると、小さな竜巻みたいなのがあちこちで発生し、ホコリやゴミを吸い込んでいた。
『魔術に集中するには、ジッとしていなくてはならんのじゃ。好きで寛いでおるのではない』
「……ジュース飲んでお菓子食べてテレビ見てる人が言うセリフじゃないけど」
『言われた事はやっておる。サーチも妾にケチをつけておる暇があったら、身体を動かしたらどうじゃ…………あ、あああ! 妾のポテチをを!?』
腹いせに大量のポテチを強奪し、お風呂へ向かった。
「……普通に掃除はしてあるけど……細かい場所のカビは残ってるわねぇ」
角のカビとかは落ちにくい。こういう場合は。
「カビの表面を、水をつけない状態で擦るっと」
ガッシュガッシュガッシュ
「それからカビ専用の洗剤を吹きかけて……」
シューッ シューッ
「再び放置……今のうちに湯船を磨こうかしら」
ゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシ
ジャーッ
ガッシュガッシュガッシュ
ジャーッ
「……っと、カビは落ちたかな……よし、カンペキ」
あとは水で流して、窓を開けて換気をしておく。
「最後にトイレか」
お風呂掃除が終わったので、トイレ掃除に向かう。
「あ、サーチ。蜘蛛の巣取りは終わりましたので、今は拭き掃除をしています」
ヴィー自身は廊下の雑巾掛け。それと同時進行でサイ・テンタクルがあちこち伸びて拭き掃除をしている。
「……ていうか、よく全部制御できるわね」
「頭の蛇を使うのに比べたら、楽ですよ」
まあ……反抗されることはないからね。
「あれ、マーシャンは?」
「リジーに連れていかれて、草刈りの手伝いをされていますよ」
外を見てみると、カースブリンガーで刈った草を、風を操って集めているマーシャンの姿が見えた。何かブツブツ言ってるけど放置。
「ナイアは?」
「木の剪定をしています」
もう一回外を見てみると、飛びながら枝を切っているナイアが見えた。
「……いいわねぇ、特技があるって」
おっといけない、トイレ掃除トイレ掃除、と。
「天パ風爺さん!」
「漂流出っ歯!」
「玄米霊地っ!」
意味不明な掛け声をあげながら磨きまくり、トイレ掃除も終了。
「ふー、やれやれ。ヴィー、終わった?」
「はい、中は全て終了しました」
「サーチ、剪定した枝はどうしますの?」
「マーシャンに燃やしてもらって。あ、でも煙が出るとマズいか」
「ならワタクシが何とかしますわ」
「あ、≪ゴミ箱≫?」
「だからゴミ箱ではありませんわ! いい加減に正式名称を覚えてくださいまし!」
……正式名称、忘れた。
『ほほう、空間の扉を利用しておるのじゃな。なかなか器用じゃの』
「陛下、集めたゴミや草を持ってきてくださいませ。一緒に捨てますわ」
『うむ』
後片づけも終わり、これで大掃除完了。
「な、何これええええええええええええ!?」
……と思ったら、リジーの悲鳴に近い叫びが響き渡った。
「な、何よ一体!?」
驚いてキッチンに行ってみると、中で呆然としてるリジーを見つけた。
「リ、リジー? 何かあったの?」
「サ、サーチ姉、あれ……」
あれ? コンロと流し台が何か?
「し、新品に替えたの!?」
……は?
「新品じゃないわよ、もともと設置してあったヤツよ」
「う、嘘だあ! 新品同様と思われ!」
そ、そうかな!
「へ!? お、お風呂が改装されてますよ!?」
「トイレもですわ! 一体何時の間に!?」
……みんな、何を言ってんのよ……。
結論。
「私の掃除が見事だったってこと?」
「「「『恐れ入りました』」」」
頭を下げるみんなに引きつつ、私はキツネにつままれたような気分だった。
「おっかしいな〜……普通に掃除しただけなのに」
「あ、あれで『普通に掃除』!? 有り得ませんわ!」
「……もしかして、道具が良かったとか?」
「道具? 全部百均のよ」
実際に使いすぎて、全部ボロボロになっちゃったモノを見せる。
「…………な゛…………」
「だとすれば、サーチの掃除が上手かった、としか言い様がありませんね……」
『いや、これは「上手かった」程度の話ではないぞ』
そう言われてもなあ…………ん?
「あれ? 何かアイコンが……?」
視界の端にお知らせアイコンがついているのに気づく。久々にステータスを広げてみると……。
「あれ? 何かスキルが増えてる」
スキル獲得のお知らせアイコンだったのか。
「えっと……≪道具上手≫? 何じゃそりゃ?」
ダブルクリックして説明文を展開すると。
『アイテムの使用効果が倍増する』
……と出てきた。
「あ、これだ」
百均の道具でプロ顔負けの成果を出せちゃうわけだ。
結構使えるスキルを獲得した。ばんざーい。
サーチ、新たなスキル獲得。




