EP4 ていうか、リル、恨むわよ……。
「で、リ……獣人はどこに!?」
「えっと、もういないよ」
逃げやがった!
「結構な騒ぎになっちゃったから、キュアガーディアンズ支所で保護して早々に退去してもらったよ」
「あ……そ、そうなの」
ご面倒をおかけしました。仲間です、とはとても言えない状況だけど。
「でもスッキリしたわ〜。今まで散々に虐げられてきたけどさ、あの一件で人間達の態度がコロッと変わったもの。獣人の皆も感謝してるさ」
あ、そ、そうなの? ならいいけど。
「それでもね、やっぱり偉大なる総統閣下はお怒りでね、私達に対する迫害がエスカレートしてくのを抑えるどころか、逆に煽るようになっちゃってさ」
マジですんません。
「あたい達の手引きで徐々に東マージニア共和国に亡命させているのさ」
「亡命?」
「元々獣人達は地球から出稼ぎに来てただけだからね。西マージニア国には未練はないよ」
ていうか、そこまでされてまで「私はここがいいのっ!」って人は少ないか。
「昨日の段階で九割の獣人は脱出したから……」
「ちょっと待て。九割?」
「そう、九割」
「よ、よく気づかれないわね」
「気付かれないわけがないじゃない」
だよね!
「ただその事を喜ぶ人間はいても、惜しむヤツはいないさ」
「誰も?」
「そう、誰も…………この国の人間は、そこまで腐り切っちゃったのさ……」
そう呟いたファーファさんの視線は、とても悲しげだった。
しばらく沈黙が続いてから、ファーファさんが立ち上がる。
「あんた達もこの国から逃げるんだろ? だったらあたいと来な」
「へ?」
「あと一週間で残りの一割も脱出する手筈は整ってる。あたいはそれを見届ける為に残っててさ、あんた達を逃がすくらいの余裕はあるよ」
「…………一週間以内に脱出しないと……マズい?」
「政府内で動きがある。もしかしたら近々獣人の一斉取締りがあるかもしれない」
「一斉取締りって……まさか粛清が!?」
「そうなってもおかしくない状況なのさ」
…………リル、恨むわよ……。
「……ごめんなさい。私達も用事があって来てるからさ」
「用事? こんな辺鄙な国にかい?」
「ちょっと探しモノっていうか、何て言うか……」
私は荷物の中から、マーシャンが書いた似顔絵を取り出す。
「この人を探してるのよ。心当たりない?」
「ああ、それだったらキュアガーディアンズ繋がりで、ウチの支所にも回ってきたよ」
そうなの!? 意外と横の繋がりが太いな、キュアガーディアンズ!
「回答は出しといたんだけどさ、それってカイトさんだわ」
……………………は?
「な、何だって?」
「だから、カイトさんだわ」
え、えええ!! 意外と簡単に第一知り合い発見!
『何処じゃ! 何処におるんじゃ!』
スゴい勢いで迫ってくるマーシャンに若干引きつつも、ファーファさんはちゃんと答えてくれた。
「カ、カイトさんはあたい達の協力者でね、この国の獣人達のリーダー的な存在だったんだ」
「リーダー的な存在だったんですの?」
その言葉に全員ハッとなる。
「……生きてる。生きてるとは思う……んだけどね」
『……どうなった……のじゃ?』
「……炭鉱で落盤事故に巻き込まれて……行方不明になったって」
行方……不明……。
「……折角……手掛かりが見つかったのですが……」
『……そんな……行方不明じゃと……?』
……ちょっと待って。
「ねえ、行方不明になったのはいつ?」
「え? あ、落盤事故か? 一週間前だよ」
「……獣人の乱闘騒ぎは?」
「……先月の中頃くらいだけど……?」
「獣人達の亡命の手引きって、かなり前から行われていた?」
「そ、そうだね。亡命の斡旋を始めたのは……一年前くらいだな」
だったら。
「ごめん、なおのこと私達は残らないといけない」
「な、何で!?」
「たぶんだけど……そのカイトさんって人、生きてる可能性が高い」
ファーファさんから「あたいがこの国にいる間は、全面的にバックアップする」とのありがたいお言葉をいただいた。なので隠れ家と市内の地図を提供してもらった。
「…………ていうか、ここ!?」
その地図に書かれた隠れ家を訪ねてみると、そこの道の反対側には。
「ま、まさか、警察署の真ん前ですか」
ヴィーが驚くのもムリはない。あれだけの大乱闘を演じた警察署の真ん前に、獣人達の亡命組織……ていうか、ほぼキュアガーディアンズだけど……の隠れ家があったのだ。
「……灯台下暗しとは言うけど、ここまでくると大胆とも言いにくいわね……」
ていうか、よくバレなかったものだ。
「まあいいじゃない。とりあえずお邪魔します」
ここまでずっと≪化かし騙し≫をかけっ放しだったリジーがドアを開ける。
ギイ……バタン
そして閉める。
「…………」
「ど、どうしたのよ? 開けないの?」
「…………」
リジーはパクパクと口を動かしながら、中を指差す。
「……?」
様子がおかしいリジーに変わって、ドアを開ける。すると、そこには。
「………………………………ぅぁ」
異世界が広がっていた。
「な、何ですの、この大量の写真は!?」
「……おそらくですが、地球で言うところの『偶像』かと」
英語でいえ。アイドルだよ。
ていうか、玄関に入ってすぐに等身大パネル。廊下には、奥までずっとポスター、ポスター、ポスター。
「サーチ姉、このガラス棚に飾ってある人形、なんで薄着ばかり?」
見ちゃいけません。
『と言うより、サーチに近い格好の者達ばかりじゃのう』
ていうか、火星にもアイドルやフィギュアはあるのね……まあ、当たり前っちゃー当たり前だけど。
「サーチ、本当に此処で間違いないんですの?」
「……ヴィー? どうなの?」
「間違いないですよ。私も三回ナビを見直しましたから」
道案内役のヴィーが言うなら間違いないか。
「……お邪魔しま〜す」
このままじゃ埒が明かないので、とりあえず入ってみる。
「まずはキッチン…………普通ね」
普通というより、不自然なくらい片づいている。誰も使ってないのがバレバレ。
「次はリビング……」
「流石にリビングは怖いですね」
「ポスターだらけかもしれませんわね」
「等身大パネルの列があると思われ」
『あの小さい人形で埋め尽くされておるやもしれんのう』
……ガチャ!
あれ? 普通のリビングだ。
「もしかしたら……」
ダダダダダ! ガチャ!
ダダダダダ! ガチャ!
ダダダダダ! ガチャ!
「……全部普通ね」
二階の屋根裏まで調べたけど、至って普通の一軒家だった。
「……サーチ、もしかして玄関のは……無用な人物を追い帰す為の罠では?」
もっとまともな罠にしようよ!
変な拠点獲得。




