EP3 ていうか、ファーファさん口悪い。
ファーファさんを無事に誘拐……いや、拉致……もとい連れ出すことに成功した私達は、とりあえず近くの廃屋へ逃げ込んだ。
「……誰かが追ってくる様子はないわ。どうやら撒いたみたいね」
「はあ……疲れました〜……」
ヴィーがヘタり込む。ホテルから怒涛の展開だからねえ。
「この辺り……廃屋だらけだったけど、スラム街かな?」
「スラム街だとしても、人が居なさ過ぎますわね」
確かに。例の行進に参加して、お留守なのかな?
「……違うよ。ここはスラム街じゃない。獣人の強制居住区さ」
「あ、そうなの…………ん?」
あれ、誰の声?
「イタタタタタ……おもいっきり殴ってくれたな」
お、おお。いつの間にかファーファさんが目を覚ましていた。
「大丈夫?」
「逆に聞くけどよ、自宅のドアを吹っ飛ばされて、しかも鉄拳食らって気絶させられて、大丈夫なんて答えるバカいる?」
……いないわね。
「たく、あの鉄屑女はどこ行ったんだよ!」
あ、鉄屑言っちゃった。
『鉄屑女は後ろに居るのぅ』
がしぃ!
「はぎゃ!」
『誰が鉄屑女なのじゃ! 誰が鉄屑女なのじゃ! 誰が鉄屑女なのじゃーー!』
「は、離せ! 離せってんだよ、この鉄屑女ー!」
頭を掴まれて振り回されるのも何のその、その勢いを利用してマーシャンをガンガン蹴りまくる。まあ相手は鉄屑だから、蹴って痛いのは自分だろうけど。
「ちっくしょおおお! 離せ痛い離せ痛い離せ痛い離せ痛いいい!」
「……マーシャン、もういいんじゃない?」
『うむ、もう気は済んだのじゃが、なかなか面白くてのぅ』
「離せええええ!」
……ジタバタするファーファさんの近くにいった私も悪かったんだけど。
ばきっ!
「あぎゃ!」
振り回していた足が、私の後頭部に炸裂した。
「………………」
『サ、サーチ?』
「……マーシャン」
『ははははい!』
「そのまま持ってて」
私は静かに息を吸い込むと。
「……奥義、おしおキックスペクタクルぅぅぅ!!」
ばきょ! ばきょ! ばきょ! ばきょ!
「げふっ! ぐふぇ! ぐふぉ! がはっ!」
ばきょ! ばきょ! ばきょ! ばきょ!
「がぶぅ! ごふぇ! だ、誰か! 誰か助けてええええっ!」
疲れて止めるまで、誰一人として行動を起こすことはなかった。
「ヒ、ヒドい! ヒドすぎる!」
ヴィーに≪回復≫をしてもらいながらも、ファーファさんは喚いてます。意外と丈夫っぽい。
「回復してあげてるのですから、それくらい我慢してください」
「それくらいって! あんなの違法行為じゃない!」
「訴えたければどうぞ。ですがその場合は、サーチに高確率で闇に葬られますよ」
「闇にって……〝闇撫〟じゃないんだから」
「正真正銘、本物の〝闇撫〟ですよ」
「………………へ?」
「……闇に撫でられ、狂い死にたい?」
「あ、そんな恥ずかしい事を言うのは本物だ……ぃひゃああああ!」
「サーチ! 刃物は不味いです、刃物は!」
手甲剣があと3㎝まで迫ったところで、ヴィーのサイ・テンタクルに止められた。チッ。
「あ、危なかった……」
「ファーファさんでしたね。もう少し口の利き方を考えてください」
「悪い悪い。支所長にもよく怒られてたんだけどよ」
ていうか、よくそれでキュアガーディアンズ支所に採用されたわね。
「で、あたいに何の用なんだい?」
「……Xの値」
「あ゛あ゛!? 何か言ったか!?」
何でもありません。
「私達が聞きたいのは、西マージニア国内での獣人の動向です」
「……獣人の動向、ねぇ……」
「支所務めのあんたなら、何か話を聞いてないかと思って」
「……つーかさ、まずはしなきゃいけない事があるんじゃないの?」
しなきゃいけないこと?
「あたいさぁ、ドアを壊された上に、突然殴られて拉致されたんだよねぇ」
ああ、なるほど。
「好きなように仕返しして」
『優しくしてほしいのぅ』
「そんな鉄の塊、仕返ししようがないだろ!」
じゃあどうしろってのよ。
「謝れって言ってんだよ!」
ああ、それか。
「マーシャン、ほら」
『妾は女王じゃ。人に下げる頭は持ち合わせておらぬ』
「……寝てる間に関節部分に塩水を振りかけようか」
『大変遺憾であります』
「遺憾じゃねえよ! ちゃんと謝れよ!」
『妾は女王じゃぞ。何故にそこまで譲歩せねばならぬ』
「えっと、金属腐食液はっと」
『申し訳なかった』
「…………ふん、まあいいか。あと弁償はしてよ」
「わかったわかった。で、獣人はどうしてるの?」
「大体は大人しくしてるよ。ただでさえ普段から押さえつけられてるんだ、こんな状況でノコノコ表に出るヤツなんかいない」
……ま、それが賢明ね。
「あたいの部屋の前にいっぱい貼り紙があったろ。あれも自衛策さ」
「自衛策って……まさかあの貼り紙、自分で貼ったの!?」
「あそこまでされてると、流石に近所の人間達も同情的でさ」
……恥ずかしくないのかな……。
「それより、この辺りは獣人の強制居住区ですのよね?」
「そうだよ」
「その割には誰もいませんわね」
「……つーかさ、人間が何で獣人探してるんだよ。まだ何かする気かよ?」
へ?
「私達が人間って言いたいの?」
「そうだよ! 鉄屑と狐以外は人間だろ!?」
私は背中を見せた。
「な、何だよ……って、翼の痕!? あんた、ダチョウの獣人か!」
ダチョウ言うな。
「私は……蛇の獣人が混じっています」
「あ、そうだな。サイ・テンタクルは蛇の専売特許だからな」
「ワタクシは月の魔女ですわ」
「月の魔女?」
「ええっと……人狼の変異種です」
「変異種? まあいいけどよ、要は人間じゃないんだな?」
「ええ。違うわ」
「……証明できるのか?」
全員ガーディアンズカードを見せる。その種族欄を確認し、ファーファさんはようやく納得した。
「ガーディアンズカードに偽造した痕跡は無かったからな、間違いない」
「種族も無問題なら、今度こそ教えてくれるのよね?」
「ああ。もう知ってるとは思うけど、西マージニア国では獣人への差別が国策として行われている」
「ええ、知ってる」
「ただ最近は政府の歯止めが効かないくらいにエスカレートしててな、人間達から危害を加えられる獣人が増えているんだ」
「……何も抵抗せずに?」
「抵抗しちゃったからエスカレートしたんだ」
なるほど。
「通りすがりで唾を吐きかけられた獣人がな……」
それは抵抗しても仕方ない。
「相手に全治一年の重傷を負わせて」
抵抗の域を超えてるでしょ!
「……で、色々と大変な事になってるんだ……」
「……誰なのよ、そのバカ獣人は」
「ああ、猫獣人でな、一応キュアガーディアンズだ」
……猫。
「子連れだったよ」
……おい、まさか。
「確か……リルとか言ったような……」
リルかよっ!
リルかよっ!




