EP1 ていうか、急転直下?
ダダダダダダ! バアン!
『サーチ! 逃げるのじゃ!』
わ、ビックリした。
「おはよう、マーシャン。朝っぱらからどうしたの?」
「は、早く逃げるのじゃ! このホテルはすっかり囲まれておる?」
………………はい?
「……何に?」
『民衆に?』
「……誰が?」
『妾逹が!』
「……いつ?」
『今じゃ!』
「……どこで?」
『此処じゃ!』
「……何で?」
『妾が知りたい!』
「……何か?」
『い、いい加減にせんか!』
「ああ、ごめんごめん……そっか、民衆が……」
てことは、総統サマが私達を炙り出しにかかってきたわね。
「脱出ルートは?」
『すでに塞がれておるわ!』
……ふむ……。
ガラッ
ポイ ポポポイ
ピシャッ
『サ、サーチ? 今何を?』
「ん? 手榴弾を十個ほど、窓から捨てました」
……ズズゥン! ズン! ズズゥン!
うわぁぁぁ!
ぎゃぁぁぁぁ!
ガラッ
下を覗くと……集まっていた人逹がてんでバラバラに逃げていくのがわかる。
「マーシャン、この騒ぎに乗じて脱出。私はヴィーを起こすから、マーシャンはリジーとナイアを」
『もう起こしてあるわい。廊下に集まっておる』
あらら、寝坊助は私だったか。そりゃ失敬。
こんな感じで始まった怒涛の脱出劇は、ホテルを囲んだ一般市民を蹴散らすことが最初の難関となった。
『この四人のテロリストを断じて許してはならぬ。正義の鉄槌を下すのだ!』
非常階段を駆け降りる途中で、ホテルに乱入した一般市民の皆様と鉢合わせ。マシンガンをブッ放して脅してから、一旦近くの部屋に籠城した。
「あーあ、総統閣下がテレビで演説してくれてたのかー」
「サーチ、今ネットで調べてみたのですが、この総統、かなりの人気ですよ」
半分笑いながらヴィーが見せてくれた……って、支持率100%っておかしいでしょ!
「高い確率で、民衆にコスプレした秘密警察が煽ってるわね」
見分けるのは不可能だから、やっぱ脱出するしかないか。
「そういう状態なら、民衆に手榴弾はマズかったと思われ」
「心配ご無用。手榴弾ってのは安全ピンを抜くと時間経過で爆発する仕組みだから、地上には届いてないわ。単なる脅しよ」
「あ、そうなの」
とはいえ、そう何回も脅しには使えないわね。
ドンドンドン!
うわ、ヤバい!
『おい、開けろ! 開けやがれ!』
マ、マズいわね。あんな扉、すぐに蹴破られるわ。
「……仕方ない。リジー、≪化かし騙し≫でみんなと隠れてて!」
「サ、サーチ姉はどうするの!?」
「こういうときこそ、使う武器があるのよ」
私は大急ぎでビキニアーマーを外し、シャワールームに駆け込んだ。
「開けろ! ぶち破るぞ!」
『ちょ、ちょっと待ってよ!』
「もう待てるか!」
ドン! ドン!
『わ、ちょっ!』
ばぁん!
「きゃああああ! チカンヘンタイゴーカンマーー!」
「うおっ!? す、すまん、入浴中だったのか!」
「だ、だから待ってっていったのよ! あっち向いてて!」
男逹がまわれ右したのを確認して、バスタオルを巻く。ついでに変装用のメガネ。
「な、何なのよ、一体!」
「お前、テレビを見てないのか!」
「はあ!? 今起きたばっかなんだけど!!」
「このホテルにな、国家転覆を企むテロリストが潜伏してるんだよ!」
「…………マ、マジで?」
急いでテレビを点ける。すると。
『……この女逹が凶悪なテロリストです! 皆さんの力で、国を守ろうではありませんか!』
私達の似顔絵が放送されてる。あんまり似てなくてラッキー。
「ホ、ホントだ……」
「早く逃げた方がいいぞ!」
「ははははい! そうします!」
そう言って下着を手にする…………。
「……ちょっと、出てってくんない?」
「あ、え、あ、悪い悪い。イヤな、お前の身辺警護をしてやろうかと」
「きゃああああ! チカンヘンタイゴーカンマーー! ぎゃああああ! チカンヘンタイゴーカンマーー!」
「わ、わかった! 出てく! 出てくよ!」
男逹は這々の体で逃げていった。完全に気配を感じなくなるのを待ってから。
「……もういいわよ、リジー」
リジーがスキルを解除し、再びみんなが姿を現す。
「よ、よく襲われませんでしたね」
まあね。チカンヘンタイゴーカンマは男性にとっては致命傷になりうるからさ。
非常階段じゃムリっぽいので。
「スリー、ツー、ワン、ゼロ、爆破!」
どがああああん!
がらがらがらがらがら…………ずずずずぅん!
エレベーターを落とし。
「んしょ、んしょ」
その穴を下っていくことにした。
「何階ありますか?」
「あと十階くらいかな」
「でしたら私が聖術で着地をフォローしますので、飛び降りませんか?」
と、飛び降りるの?
「大丈夫です。着地する前に上昇気流を起こして、落下速度を殺しますので」
そ、そういうことなら……。
「ナイアはそのままゆっくり降りてきて。マーシャンは……」
ゴオオオッ!
足からジェット噴射しながら、マーシャンは得意気に。
『妾も飛べるから無問題じゃ!』
……マジで便利ねえ、ロボット……じゃなくてアンドロイドって。
「ま、まあいいわ。リジー、ヴィー、いくわよ! スリー、ツー、ワン、ゼロ! ヒモは無いけどバンジィィィィィィ!!」
ヒュウウウ……
う、うお、結構早い……!
「ヴィ、ヴィー!」
「≪聖風弾≫!」
びゅごおおおっ!
うわ、スゴい風圧!
びゅううううう…………すたっ
「よし、無事に着地」
「わ、私も」
「はい、全員大丈夫ですね」
そのあとにナイアが降りてきて。
ゴオオオッ!
「あっつ! 熱いっての!」
「マーシャン、早くジェット噴射を切ってください!」
『す、済まぬ済まぬ』
ごずぅん!
最後にマーシャンが降り立った。ていうか、静かに降りてこい!
『おい、何か降りてきたみたいだぞ!』
『テロリストかもしれん! 引き摺りだせえ!』
ほらあああ! 見つかっちゃったじゃないのおおお!
「……仕方ありません。実力行使しますか?」
ヴィーがサイ・テンタクルを起動させ、ナイアとリジーが武器を構える。
「待って待って。もっと平和的で、血を見ない方法があるから……リジー!」
「何?」
「もう一回、≪化かし騙し≫よ」
「テロリストを殺せ!」
「西マージニア国を守るんだ!」
ガササッ
「ん? 何か黒いモノが?」
カサカサカサカサカサカサカサカサカサ!
「う……うわああああああああ!」
「ゴ、ゴ、【人類の敵】だああああっ!」
「うぎゃああ!」「逃げろおおお!」「うああ!」「きゃああああ!」
……十五分後。
「お、誰もいなくなったわね。リジー、解除してもいいわよ」
「ほ、本当だ」
「いつの時代でも絶大ですねぇ、あの嫌われ方は」
「ほらほら、そんな事言ってる間に、さっさと脱出しますわよ」
こうして私達は無事にホテルを脱出した。ていうか、例え宇宙に進出したとしても、人類にGは憑きモノらしい。
突然の脱出劇。




