EXTRA ていうかさ、何か忘れてない?
「では毎度のパターンだけど……ブラッド・マーズ・ファミリー壊滅を祝して…………かんぱーい!」
「「「かんぱーい!」」」
毎度のことだけど、勝利の美酒はやっぱり美味しい。私達はちょっと高いけど警備が万全なホテルに宿泊し、部屋飲みで一杯飲むことにした。ブラッド・マーズ・ファミリーが事実上壊滅したとはいえ、まだ残党が残っている可能性は大。市内の酒場で飲むのは危険だろう……との判断で、キュアガーディアンズ御用達のこのホテルに泊まることにしたのだった。
「まさかサーチ一人で、犯罪組織一つ壊滅させるとは思いませんでした……」
「流石と言うべきか、少し迷いますわね……正直に言うと『何を考えてるんだ』とも言いたい気分ですし」
「サーチ姉は何も考えてない。ただ、ムカついただけと思われ」
「「それそれ」」
「ちょっと、人を破壊神みたいに言わないでもらえるかな?」
「え、破壊神より怖いと思われ「……kill?」何でもありませんごめんなさい許してください」
喉元に伸びてきた空想刃をフォークで押し留めつつ、リジーは平謝りしてきた。
「別にサーチを破壊神扱いしてるわけではありませんわ。ただこれほど考え無しの突撃馬鹿とは「……Death?」申し訳ございませんでしたワタクシが悪うございました」
喉元に伸びてきた空想刃を箸で押し留めつつ、ナイアは平謝りしてきた。
「サーチ、killとかDeathは流石に止めた方が良いのでは?」
「だぁ〜って、あいつらがぁ……うるうる」
「はいはい。二人とも、サーチはたっぷりお灸を据えられた後なんですから、追い討ちするような事を言っちゃいけません」
「「……はぁ〜い」」
「ていうか、おしおき」
がぼっ
「ぶがっ!?」
どっぷどっぷどっぷ ごくんごくんごくんごくん
「がぼげぼごぼ! ごはっ! げへげへげへぇ!」
ごっくんごっくんごっくんごっくん
「ご、ごへ! ふはぁ! はあ、はあ、はあ………………ひっく」
どだああん!
あ、ナイア倒れた。
「サ、サーチ姉、一升ビン空にしちゃったの!?」
「うん。次はあんた」
「へ!? ちょっがぼっ!?」
どっぷどっぷどっぷどっぷ ごきゅごきゅごきゅ
「うぐぐぐぐ……ごぶぶぶぶ」
あら、意外とがんばるわね。
どっぷどっぷどっぷどっぷどっぷどっぷ ごきゅごきゅごきゅごっくん
「ぐぶぶぶぶぶ……ぶっはあ! はあ、はあ……」
「お、おおお?」
「の、飲み切ったどおおおおお!!」
スゴいスゴい、一升ビンちゃんと飲み切ったわ。
「なら次は1/4の量ね。ブランデーだけど」
「ぶぼ!?」
どっぷどっぷどっぷ ごくんごくんごくん
「がぼごぼごぼ! ぶびぶびぶび!」
たぶん「無理無理無理!」って言ってるけど、気にしない気にしない。
どっぷどっぷどっぷ ごくんごくんごくん
「ごぶぶぶぶ! ぶはあ! はあ、はあ、はあ、はあ…………ふへぇ」
ばたあああん!
あ、リジーも撃沈。
「あらあら、二人そろって情けない」
「サーチ、自分と同じレベルで酒の強さを考えると、ほとんどの人は下戸になってしまいますよ?」
「あ、そうね」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………ヴィー、何を待ち構えているかは知らないけど、私はヴィーにはそういうことする気ないから」
「あ、そうですか………………チッ」
「舌打ちした! ヴィーが舌打ちした!」
「サ、サーチ、まるで私が毎回酔ってサーチを押し倒しているような言い方をしないでください!」
「毎回押し倒してるでしょうが! 次の日結構腰にくるんだからね、マジで大概にしてよ!」
「へ? あ、コホン……こ、この話はまたそのうちに」
逃げた! 逃げやがった!
「それよりサーチ、これからどうするんですか?」
「どうするんですかって……まずはこの西マージニア国からの脱出じゃない?」
脱出なんて言うと物騒に聞こえるけど、実際に私達はヘラス市内では指名手配に近い状態にあるだろう。西マージニア国政府とブラッド・マーズ・ファミリーの間に繋がりがあるのは公然の秘密だから、仕方ないと言えば仕方ないんだけど。
「キュアガーディアンズに応援を頼めば、何とか脱出できません?」
「それが一番手っ取り早いんだけどさ、お金がかかるからねぇ……」
当分の資金は大丈夫だと思うけど、やっぱり無駄遣いは慎まないと。
「でしたら……東マージニア共和国に逃げますか?」
「ま、ここにいるよりは百倍マシよね。とりあえずはその線でいってみましょうか」
「ただ、船を押さえられてる可能性も……」
「シャロンの判断に任せるしかないでしょ。大丈夫、空港から脱出するくらいはしてくれるわよ」
「……そうですね」
ヴィーはそう言いながらお酒を……って。
「飲んじゃダメ」
「ぶふっ。な、何故ですか!?」
「また押し倒すつもりでしょ! 私との会話に紛れて飲むつもりでしょうけど、そうはいかないわよ!」
「そ、そんなつもりは…………チッ」
また舌打ちした!
「あああ、昔の純真なヴィーがどんどん穢れていく……」
「穢れ……そ、それはあまりにも失礼じゃありませんか!」
「あああ、純真なヴィーが肉欲にまみれて……」
「サ、サーチ、そこまで言わなくても!」
げ、サイ・テンタクルがユラユラしだした!
「ご、ごめんごめん、冗談だからね?」
「冗談? 流石にそこまで言われては冗談として流せませんよ!」
「ま、まあいいじゃない。マーシャンと比べたらマシよ…………ん?」
「陛下と比べられるなんて、流石に我慢できな…………ん?」
何か……忘れてる気が…………あっ!
「マーシャン!」
「陛下!」
私達は着の身着のままでホテルを飛び出し、ブラッド・マーズ・ファミリーの本部ビルの倒壊現場へ向かう。
「マーシャン! マーシャンいる!?」
「陛下ー! 陛下はご無事ですか!?」
あちこちガレキを退かして探すけど、返事はない。
「も、もしかして押し潰された?」
「陛下に限ってそれは有り得ません! 何せ生命力は【私は苦手】並みの方ですから!」
ヴィ、ヴィー、それは間違いなく侮辱罪になっちゃうわよ?
「陛下! 陛下ー!」
「マーシャン! 【みんな苦手】並みの生命力のマーシャン!?」
そのとき。
『だ、誰が【黒いアレ】じゃあ!』
へ? 今の声は?
「マ、マーシャン!?」
「陛下! どこですか!?」
『此処じゃ、此処じゃよ!』
あ、足元……?
「ま、まさかこの丸いの?」
『そうじゃ、妾じゃー!』
『ふーい、助かったわい』
「な、何で丸くなってるの?」
『防御形態じゃ。ナイアと捕まってから、ずっとこうしておったのじゃよ』
便利ねー、ロボットって。
「ていうかさ、もう元に戻ってもいいのよ?」
『……ふ……防御形態になってしまうとの、一ヶ月は元に戻れんのじゃ』
さいですか。つまり一ヶ月は役立たずってことね。
マーシャン無事でした。
新章は明日からです、ごめんなさい。




