EP21 ていうか、転んだ!
「探したわよ、ボーヤ・フラット…………って」
ナイアをヒドい目に遭わせたブラッド・マーズ・ファミリーの幹部は、ホントに子供だった。
「ちっさ! 同年代の中でもさらにちっさ! 背の順に並んだら、確実に一番前よね!」
……おお。幹部のガキはトマトみたいに顔を真っ赤にしてる。
「い、言ったなああああ! ボクが気にしてることを言ったなああああ!」
「気にしてるって、何を?」
「何をって……ぼ、坊やって言っただろ!」
「へ? ボーヤって名前でしょ?」
「サ、サーチ、ショーヤですわ! ショーヤ・ブラッド!」
「え、あ、ショーヤ? ごめんごめん、似てたもんだから、つい〜」
当たり前だけど、間違えるはずがない。単なる挑発である。
「っ〜〜〜! 絶対に殺してやる!」
あ、怒ってる。「流石お子様、単純で扱いやすいわ〜」
「サ、サーチ、声になってますわよ!」
「あらら、私としたことが、つい〜」
おお、地団駄を踏んで怒ってる。実際に地団駄って初めて見たわ。
「うぎいいいいい! おい、あいつらを撃ち殺せ!」
ボーヤの声に反応して、建物から黒服達が銃を構えて……っとなる前に。
ダダダダダダダダダダダダダダダダッ!
「「「ぐああああっ!」」」
船から黙って持ってきた小型マシンガンをブッ放し、全員蜂の巣にしてやる。
「……な、み、皆!?」
「あら、あんたにもちゃんと当てたはずだけど?」
「た、弾徐けの護符くらい持ってるさ!」
弾徐けの護符!? 何それ、私も欲しいわ。
「それより卑怯だぞ! マシンガンで撃ち殺すなんて、人道から外れてる!」
「大多数で集中砲火浴びせようとしたヤツには言われたくないわ!」
ボーヤはさらに地団駄を踏んだ。
「ああ言えばこう言う! 何で口答えするんだよ! お前なんか撃ち殺されてればよかったんだ!」
ヤだよ!
「ていうかさ、あんたのヒステリーにも飽きたからさ、さっさと決着つけましょ」
空想刃と手甲剣を煌めかせる。
「坊やだからって容赦しないわ。ナイアを傷つけた罪、命で償ってもらう」
「……サーチ……」
「……サーチ……」
嬉しそうな声と嫉妬の声が響いてきたけど気にしない。
「お、お前なんかすぐに捕まえてやるんだからな! 見てろ!」
そう言って後ろを向き。
「だーるーまーさーんがー…………ころ「はい、チェックメイト」んだあ!?」
背後から声がして振り向いた坊やは、己に突きつけられた刃に息を飲んだ。
「あれぐらいの距離、私なら一っ飛びなのよ。お生憎様だけど」
「そ、そんな! こ、こんなのルール違反だ! ボクは認めない!」
「認めないのはいいんだけどさ、さっさとサイキックを解除しなさい。じゃないと私が動いたとたんに麻痺って」
手甲剣がギラリと輝く。
「あんたの頭にこれがブッ刺さるから」
「うぐ…………い、一抜けた!」
私を包んでいた魔力の流れが霧散する。ホントに解除したみたいね。
「さーて、これで勝負になるかならないか、ハッキリしたでしょ。降伏するなら命くらいは助けてあげるわよ?」
「く……くそおおお! だるまさんが転んだ!」
一瞬目を逸らしてから叫ぶ。が。
「はい、遅い遅い」
今度は首筋に空想刃が当たる。
「あらら、ちょこっと斬れたかな。血が出てるわよ?」
「く…………」
そのとき、背後で崩れ落ちる音が……って、まさか。
「……あんた達ねぇ……」
「か、身体が……」
「動かな……」
ヴィーとナイア、動いたわね……。
「あ、あはは、あはははははは! これで形勢逆転だね!」
さっきまでの焦りは微塵も無くなり、余裕綽々で私に言い放った。
「さあ、あの二人の命が惜しければ観念しろ!」
「……一応聞くけどさ、あの二人をどうやって捕らえるつもり?」
「あ? そんなの部下を使ってに」
「全員撃ち殺したけど?」
「っ! ちぃ、ならボクが!」
「あら、鬼のあんたが動いていいの?」
「……え?」
「だるまさんが転んだのルール、知ってるわよね? 鬼が動いていいのは、あくまで誰かにタッチされ、逃げた人質を一人だけ捕まえるときのみ。そうでしょ?」
「あ、ああ。そうだよ」
「鬼であるあんた自身がそれを破ったら、どうなるんでしょうね?」
「…………」
「あんたのサイキックはゲームのルールを忠実に再現するのよね? だったらルールを破った者にも、当然ペナルティが発生する」
つまり……坊や自身もゲームのルールを破れば、身体の自由を奪われる。
「……く……」
「その覚悟があるんなら、あの二人を捕らえてみなさいよ」
「…………っ」
坊やは悔しそうに動くのを止めた。
「さーて、ゲームの続きを始めましょうか?」
「…………」
坊やは歯ぎしりしながら後ろを振り向く。
「だるまさんが……」
はい、タッチ。一瞬で飛び退く。
「ストップ!」
「二人とも、そのまま動いちゃダメよ」
倒れてる二人、そして飛び退いた私。どう考えても坊やが届く距離じゃない。
「で、歩いていい歩数はいくつなの?」
「じゅ、十歩……」
「ならがんばってここまでおいで♪」
当然ながら届くはずもなく、必死に足を伸ばすものの、私達はまだ先だった。
「で? 届かなかった場合、あんたはどうなるの?」
「……またボクが鬼になる」
「そ。なら、がんばってね♪」
何度も何度も挑戦するんだけど、遠い位置から一切動かないヴィーとナイア、一瞬でタッチして一瞬で離れる私を捕まえることは叶わず。
「うぐぐ……」
坊やには限界が近づきつつあった。
「……はい。またあんたが鬼ね」
「ううう……お、お願いだから捕まってよおおおお!」
「イヤよ」
「う、う、う……漏れる……漏れちゃうよおお!」
よっし、きたきた。
「あらー? 漏れるって何がー?」
「お、おしっこが! お願いだからトイレに行かせてよおお!」
「行けばいいじゃん。動けるんならさ」
「うぐ……! う、動けない! 動けないんだよおお!」
「だったら負けを認めてサイキックを解除するのね。そうすればトイレに行けるわよ?」
「い、嫌だああ! 負けたくないい!」
坊やは再び地団駄を踏む。
「あ、動いた♪」
「あ…………ああああああああああ!」
坊やはその場に崩れ落ちる。で。
「あ、ああ……」
下半身を湿られながら。
「ぶっ、くくく……その歳でお漏らし、クスクスクス」
「わ、笑うなああああ!」
「さーて、あんたの情けない姿、部下の皆さんに見ていただこうかしらね」
「え!?」
「私が撃ったのは麻痺弾。で、ヴィーに頼んで身体の内部のみ石化してもらってただけ」
ヴィーに合図して、≪石化魔眼≫を解除してもらう。
「う……あ、ああ?」
「か、身体が動く?」
次々と起き上がる部下達。で。
「あ、坊っちゃん、無事ですか!?」
「だ、ダメだ! 見るな! 見るなあああああ!」
「ぼ、坊っちゃん?」
「も、もしかして……お漏らしを?」
これが止めだった。
「あ、う、あ……………………」
坊やはガクリと顔を落とす。その目にはもう抵抗する気力は無かった。
ジャキッ
「はいはーい、全員武器を捨てて。跪いて手は頭の後ろね。今度は実弾だから、ホントに蜂の巣になるわよー」
部下さん達は私の言われた通りにする。
「はい、勝負あり。ね、ヴィー、ナイア、楽勝だったでしょ?」
こういうヤツにはね、徹底的に恥をかかせてやるのが、一番効果的なのよ。
サーチ、容赦ない。




