EP19 ていうか、行動開始と救出
一時間ほど休んでから、まずはテレフォンの連発。もしかしたらナイアの結界によって電波が届かなかった可能性を考えたのだが。
「……出ないわね。となるとやっぱりナイアに何かあったと見るべきか」
「マーシャンも出ない」
二人とも……か。
「ヴィー、現在地確認は?」
端末で二人の電波を追っていたヴィーは、私の問いに首を横に振って答える。
「電波が追えない以上、二人は捕まったモノと判断します。あの二人が捕まるほどの相手だから、敵は相当手強いはず。気を引き締めてことに当たってください」
「わかったと思われ。サーチ姉、二人は誰に捕まったと思う?」
「第一候補は当然ブラッディーロアね。〝飛剣〟や〝刃先〟を擁してる以上、宇宙最強の戦力と言えるし、二人を捕らえる理由もある」
ブラッド・マーズ・ファミリーが手に負えないと判断したら、話が上にあがってる可能性はあるし。
「次は警察。ま、これが一番現実的でしょうね」
警察にだって手練れがいる可能性がある。捕まったのが警察なら電波が追えない理由も簡単、牢屋内でテレフォンができるわけがない。
「ただこの場合も裏でブラッディーロアが暗躍している可能性がある」
「でしょうね。ブラッド・マーズ・ファミリーの構成員は、大体は不起訴になって釈放されるのが慣例みたいです」
ネットからの情報。ズブズブだな!
「露骨すぎてイヤんなるわね」
「サーチ姉、その他の可能性は?」
「それは今は考えなくていいわ。とりあえずはブラッディーロアと警察の二つの可能性をメインに追っていくわ。まずはリジー」
「うい」
「キュアガーディアンズ支所に行って、ガーディアンズカードから追跡してもらって。カードから出てる微弱な電波は、キュアガーディアンズしかキャッチできないはずだから」
「了解。さっそく行ってみる」
「何かあったらヴィーに連絡しなさいね」
リジーが出ていってから、私も立ち上がる。
「ヴィーは引き続きネットで情報収集をお願い。私も何かあったら連絡するから、情報の取りまとめもお願いね」
「わかりました。サーチはどうするのですか?」
「私は警察関係に探りを入れてみるわ。あの裏口、忍び込んでくださいってくらいに無警戒だったから」
「……なんて言ったけど、ホントに何もないわね」
裏口に見張りも監視カメラもないのは確認済み。堂々と侵入して天井裏に潜り込んだけど、これが警察と名乗っていいのか、ってくらいの無防備っぷりだった。
「建物は三階建てで地下が留置場か。まずはそこから行ってみるか」
ヴィーがネットで見つけ出してくれた警察署内の見取り図を参考に進む。建設会社から建物の設計図を引っ張り出したらしい。
「一旦下に降りて……」
階段を慎重に進む。どこの世界でもエレベーターが人気らしく、人の気配はない。
「おっと、監視カメラ」
死角になりそうな場所は……ないか。太もものベルトに差してあるナイフを投げる。
ガチャン!
レンズに命中、これで無力化。ナイフを抜いて、傍目からは壊れてるのがわからないように細工する。
「やっぱり監視カメラはあるか……ん?」
違和感を感じ、階段の途中でスプレーを噴射。そこに赤い光が浮かび上がる。
「赤外線? こんな場所に?」
もう一度空中に警察署の見取り図を展開する。
「……ここをこう行って……あ、あれ? この留置場、もう一つ入口が?」
しかも正規の入口からは入れない構造になってる。で、私が使ってる階段がまさにその留置場への道。
「これはビンゴっぽいわね♪」
適当に階段を選んだつもりだったんだけど、この階段自体が裏口からしか行けない構造だ。つまりあの裏口、やはり後ろめたいモノだったのだ。
「だから赤外線か。監視カメラに気を取られてると、足元がお留守に……ってわけね」
赤外線を警戒しながら慎重に慎重に進む。二階分くらい降りたところで、鈍い音が響いてきた。
ばしぃん!
「ああああああっ!」
びしぃ!
「うああああっ!」
あの声は……ナイア!? 頭に血が昇り、一気に駆け出す。
『前々からサーチは仲間の事になると暴走する悪癖がありましたから』
……のを止める。不意にナイアの言葉が頭を過り、冷静さを取り戻す。
「ふう……危ない危ない」
静かに階段を降りていく。留置場に着くと、一つだけ明かりが見える部屋が見えたので、こっそり覗き窓から様子を窺う。
「おらあっ!」
ばしぃ!
「あぐぅ!」
「うりゃあ!」
びしぃん!
「うぐぅぅぅ!」
中では腕を括りつけられたナイアが、二人の男からムチで責め立てられていた。
「はあはあ、口の硬い女だな」
「おい、喋る気になったか?」
「…………」
ナイアは押し黙ったまま。この態度に血が昇った男達は、再びムチを振り上げる。
びしぃ! ばしぃ! びしびしばしばしぃ!
「あくぅぅぅぅ……!!」
あ、あいつらぁぁぁ! 八つ裂きにしてやるからね! 怒りを必死に抑え込み、カギに針金を差し込む。
カチャ……カチャ!
「おらおらぁ!」
「吐けやコラァ!」
ばしばしぃ! どがっ!
「げふぅ!」
ナ、ナイアの鳩尾を……!
「チッ、気を失いやがった」
「……おい、こいつはどうせ殺すんだよな?」
「あ? ……へっへっへ、何をニヤついてるんだ、お前はよ?」
「お前もわかってんだろ? どうせこいつは死ぬんだしさ、ちょっと楽しませてもらってもいいよな?」
「今日はチーフもいねぇしな……」
こいつら……!
ビリ! ビリビリ!
私がナイアのいる部屋の扉のカギを開けたころには、ちょうど剥かれ始めているころだった。
ばんっ!
「なっ!?」
「だ、誰だ!」
「闇に撫でられ狂い死ねええええええええええっ!!」
形容しがたい音が響き渡り、男達は砕けて倒れた。
「ナイア、ナイア! 大丈夫!?」
……って、あれ? 思った以上にケガしてないような……?
「う、ううん…………あ、あら? サーチ?」
「た、助けにきたんだけど……あれ? ケガは?」
「……ああ、そういう事ですの」
ナイアは私の後ろの残骸を見て事態を把握したらしく、苦笑いした。
「捕まったのは本当ですわ。ただ拷問を受けている間は部分的に結界を張って凌いでましたの」
……は?
「要は鞭が当たる瞬間に結界を張って、ただ痛い振りしていただけですわ」
「じゃ、じゃあ気絶してたのは!?」
「鳩尾は油断でしたわね。しっかり入ってしまいましたわ……イタタ」
私は無言でナイアのヒモを斬ると。
「良かった、無事で」
「サ、サーチ?」
無言で抱きしめた。
めきっ めきめきめきっ
「イタタタタ!? サーチ、痛いんですけど!」
「結界の借りを返せる!!!」
めきめきっ ごきん
「あぎゃああああああああああああ!」
ナイア、鞭より酷い目に。




