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第五話 ていうか、人魚の任侠なんてあるの?

「おろろろろ〜」


 何の音かって? 人魚が泣いてるのよ。


「おろろろろ〜」


「マーシャン……どうすんのよこれ……」


 地味にうっとおしいし。


「ワシに言われてもてものう……」


 あんたが原因でしょうが!


「はうっ!? ……かは……」


 人魚さんが首を抑えてパクパクし始めた。今度は何よ!? するとズリズリと這っていき。


 ドボォン!


 海に飛び込み。


「あやつ! 逃げおった!」


 別にいいけど。ていうか、これでおろろ〜も終わったか……なんて思っていると。


 ばしゃん! ぼとっ!


 ……戻ってきた!?


「はあはあはあ……あー苦しかった……」


 あ、そっか……えら呼吸なのね……。



「今回は助けてもらって……ぶくぶく……ぷはあ! 本当にありがとーございました……ぶくぶく……ぷはあ! あっしはこの辺りの人魚を仕切ってやした……ぶくぶく……ぷはあ! 紅鯱のオシャチと言うケチな元締で……ぶくぶく……ぷはあ! 以後、お見知り置きを」


 ヤクザか! しかも「ぶくぶくぷはあ!」が多いわ!

 呼吸用のバケツを持ってきたエイミアも呆れ顔だ。


「うう……あっしはそこの姐さんに純潔を奪われ……心をも奪われやした……ぶくぶく……ぷはあ! あっしら桜人魚会は姐さんに一生ついて行きやす!」


「え、えぇ〜……」


 マーシャンが心底イヤそうな顔をしてる。誰彼構わず手を出すからよ。


「それにしても『助けてもらった』って? てっきりあなたが親玉かと……」


「それがあっしにもさっぱりでして……ぶくぶく……ぷはあ! 成り行きを説明しやす……ぶくぶく……ぷはあ!」


 …………。


「それはあっしらが……ぶくぶく……ぷはあ! 隣のシマの連中と……ぶくぶく……ぷはあ! 抗争をしていた時でした……ぶくぶく……ぷはあ!」


 ………………命に関わることだから仕方ないんだけど……非常にうっとおしいので私がかいつまんで説明します。

 オシャチさんが元締を務める桜人魚会と、お隣の縄張りを支配する黒鮫組とでシマを巡って抗争をしていました。ところが、泥沼の抗争の最中に突然人魚の巣が突っ込んできた。

 さすがに抗争どころではないと一時休戦して、人魚の巣から一斉に逃げ出した。すると人魚の巣は何故か女王人魚であるオシャチさんだけを執拗に追っかけて……人魚の巣から出てきた人魚に拘束され、中に連れ込まれ……。


「ぶくぶく……ぷはあ! ここまでしか覚えていやせん……気がついたら……姐さんがあっしの上にのしかかっていて……あっしの純潔を……おろろろろろ〜」


 「ぶくぶく……ぷはあ!」と「おろろろろ〜」がマジウザい。


「マーシャン……流石にこれは……」

「お前……ろくでもないな……」


 あらら。エイミアとリルは完全にオシャチさん派だわ。


「し、仕方なかろう! このような可憐な人魚、襲わぬほうが失礼じゃろうぼぎょ!」


 まっったく同情の余地のないマーシャンの頭に、エイミアの新生釘こん棒が炸裂した。エイミア、あんた≪撲殺≫スキルも発動したわね……。


「オシャチさん。マーシャンにはきっっちりと責任とらせますので!」


「はあ……ありがとうございやす……しかし、いいんすかねえ……」


 ……何が?


こん棒の一撃(いま)ので……姐さん船底まで貫通しちまいやしたが」


 ……え?


 ギィィィ


 そして。

 大きく船が傾いた。



「エ・イ・ミ・ア……あんたって子は〜〜!!」


「いひゃい! いひゃい! いひゃい! ひょへんひゃひゃいー!」


 ……あれから一時間もしないうちに船は沈没し。


「てめえら! 無事に姐さん達を岸までお連れするんだぞ!」

「「「へいっ!」」」


 オシャチさんはじめ桜人魚会の皆さんの好意と善意によって、船の乗員乗客、全員救助されました。

 で、海岸でエイミアにお仕置き中です。 ←今ここ。


 がしっ


 何かごっつい手に肩を掴まれる。恐る恐る後ろを振り向くと。


「お客さん。あんたらもきっっちりと責任とってもらおうかね?」


 ……般若と化した船長さんがいた。

 結局いつぞやのドラゴンの素材を全部没収された……。

 たぶん……船を新しく作って、他のお客さんへの賠償をして、しばらく仕事ができないことへの補償をして等々を差し引いても……船があと三隻建造できるくらい余るとは思うけど…………文句なんて言えない。

 船長さんは事後処理等もすべて引き受けてくれた。ホクホク顔で(・・・・・・)



「さーて……どうしようか」


 一応、懐以外は無事な私。

 頬っぺたを腫らして泣くエイミア。

 泳げないらしく、たっぷりと水を飲んで人魚さん達に介抱されてるリル。

 頭にでっかいたんこぶを作って白目を剥いてるマーシャン。

 そして。


「姐さん、大丈夫ですかい!? 死ぬときは一緒ですぜ……ぶくぶく……ぷはあ!」


 ……なぜかついてきたオシャチさん。



 この状況、どないせえって言うのよ!?



 ……とりあえず、はやく解決することからしましょう。深呼吸して自分を落ち着かせてからエイミアとリルの様子を見に行く。

 エイミアは……。


「ザーヂぃ……ごめんなざい……」


 ……さすがに可哀想かな……やっぱ私もエイミアには甘いわ。


「もういいわよ……全員無事だったんだし……ね?」


「サ、サーチぃ……びえええ」


 エイミアは私の胸に飛び込んで泣き始めた。


「わかった、わかったから……こら! 私の谷間で鼻かむな!」


 エイミアに拳骨を落としてからハンカチで胸を拭く。

 ……汚いね、もう。


「リルは……目が覚めたみたいね」


「水も全部吐き出させやした! もう大丈夫っす!」


「あ、ありがとう……リル、わかる?」


「げほげほ! ……ああ……エイミアがまたやってくれたな……」


 大丈夫そうね。良かった。


「リル! リル! 大丈夫だったんですね! びえええ」


「わ、なんだよエイミア! 気にしてないから泣くな……げっ! 私の服で鼻をかむなー!」


 ……似たようなことを始めたエイミアは放置して。


「マーシャン? 生きてる? マーシャン?」


「……姐さんはもう大丈夫です」


 応急で用意した金魚鉢を頭に被ったオシャチさんが喋った。


「そう……でもあなたこれからどうするの? 呼吸もできない歩くこともできないじゃ……」


「あ、それは心配無用っす。あっそれ!」


 急に跳ねて空中で一回転。すると。


「ふう……久々に≪人化≫スキルを使いましたが……こんなモンだな」


 先程までの愛くるしい人魚姫が。

 綺麗に夜桜模様の着物を着込んだ和風美女に変わった。



和風美女も需要はあるのか?

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