EP16 ていうか、変装大作戦?
思わぬ形で西マージニア国のお偉いさんと会ってしまった。いや、お偉いさんどころじゃなくトップとなんだけど。
「ヤバいかなー、顔覚えられたかな?」
「総統本人は覚えてないでしょうけど、周りの取り巻きには覚えられた可能性があります」
「そうですわね。記憶力の優れた者を常に連れ歩いていると思いますわ」
そういえばアンドロイドっぽいのがいたっけ。
「マーシャン、アンドロイドって記憶力スゴい?」
『そうじゃな、普通のアンドロイドなら人間と変わりないの。じゃが記憶力に特化したアンドロイドは製造可能じゃぞ』
独裁国家だからねー、そういう極端な性能持ったヤツを量産してる可能性はあるか。
「陛下、アンドロイドとは人間をベースにしているのてはないのですか?」
『アンドロイドは妾のように人間をベースにしている場合もあれば、完全に「無」の状態から作られる場合もある。一応区別して前者をアンドロイドと、後者をロボットと呼んでいるのぅ』
なーるほど、だからマーシャンはロボット呼ばわりされると怒るのか。
「ならその定義を採用するとして……あのロボットに顔を見られた以上、私達は顔を見られていると思うべきですね」
しまったなぁ。一気に動きにくくなった。
「えへん」
しまったなぁ。
「えへん」
どうしようかなぁ。
「えへん」
「……ていうか、リジーは何で胸を張ってるわけ?」
「んふふー、褒めて褒めて」
何をよ!?
「髭を生やした狸みたいなおっさんは≪化かし騙し≫で誤魔化した」
へ!?
「ヒゲタヌキには私達は女子高生に見えていた」
ヒゲタヌキって……総統か。
「マーシャン、アンドロイドにも≪化かし騙し≫って通用するの?」
『妾には効果があったの。先程までサーチがセーラー服姿に見えておった』
おお! これはリジーのナイスプレイ!?
『じゃが、あのロボットに通用したかはわからぬぞ』
……へ?
『其方等が言っていた通りに記憶力を強化したロボットじゃとしたら、当然視力も強化されておるじゃろ』
た、確かに。
『ならば≪化かし騙し≫を見破るくらい容易じゃろうよ。逆に突然姿を変えるような相手じゃから、要注意人物としてリストアップされた可能性大じゃな』
うあ、逆に目立ちまくりってこと!?
「あのー、サーチ姉?」
「……リジー、褒めるどころか腹パンモノだわね」
「そ、そんなぁ」
……こうなったら、物理的に姿を変えるしかないわね。
街の中心部に戻ると、監視カメラの死角に沿って移動し、誰の目も届かない場所を探す。
『サーチ、あの地下駐車場じゃ。あそこの監視カメラは故障中じゃ』
ナーイス!
「よし、リジー、周りから見えないようにして」
「うむ。≪化かし騙し≫」
…………見えないように……なったのよね?
『うむ、認識不可能になっておるぞ』
マーシャンがそう言うならいいか。
「よし、まずは私……」
火星のファッションは地球の影響をもろに受けているから、地球にいたころの服を流用。
「よし、こんな感じかな」
「駄目です」
え? ヴィー?
「火星は比較的露出の少ない服装が流行りです。その中をサーチのような格好で歩かれては、目立って仕方ありません」
え? 腰でヘソ出しキャミとショーパンなら普通じゃない?
「おまけにサーチ、ノーブラですね?」
「あ、うん、してないけど」
「……却下です。最初からやり直し」
そう言ってヴィーは自分の服を取り出し、アレコレと選び始めた。それにナイアとマーシャンが加わり。キャイキャイと騒ぎ出す。
「声、漏れちゃうんじゃない?」
「声はナイア姉が遮音結界を張ってるから大丈夫」
「ていうか、リジーはあれに参加しないの?」
「私はファッションに疎いから」
というより、リジーは完全に独自路線だ。露出を極度に嫌うため、夏でも長袖を着るくらい。
「もったいないわよね〜。せっかくスタイルいいのに、全部隠しちゃうなんて」
「別に誰かに見てもらいたい訳じゃない。だから露出は無意味」
「無意味っていうか、恥ずかしい?」
「こういう言い方はサーチ姉に失礼だけど、普段からビキニアーマーを着る意味がわからない」
「あら、周りに見せるために決まってるじゃない」
「はい?」
「だからさ、周りに自分の身体を見せることで、自分自身を鼓舞するのよ」
「…………」
「自分がキレイなんだって思えれば、自分に自信が持てる。自信が持てるから、いろんなことにチャレンジできる。これって重要なのよね」
「……自信……」
「そ。例えばだけどさ、私はこの世界になったとたん、ずっと愛用してきた羽扇と≪偽物≫を失った。代わりに与えられたのが、これ」
ブレードに魔力を送り、空想刃を伸ばしてみせる。
「使うには現実的ではない、何とも微妙な武器。正直に言うと『何で!?』とは思ったわ。だけど私は『何とかできる』とも思えた。何故か自信があったのよね」
近くに落ちていた空き缶を放り投げ、空想刃を振りかざす。
スパパパパッ
キレイに四等分になって落ちてきた空き缶を手に取り、リジーを見て笑う。
「ね? 自信さえあれば案外身体がちゃんと動いてくれるもんでさ。今じゃ、もう手足の延長みたいなもんよ」
「…………」
リジーはあ然としている。
「別にあんたに露出を強要するつもりはないわ。ただ私にとっては、露出することが自信の源であり、強さの根元なのよね」
「……源……」
リジーが何かを考え込む。そんなとき、ヴィーが私に声を掛けてきた。
「サーチ、決まりました。これでどうですか?」
……うーん、やっぱブラはしなきゃダメか。それにシャツにジーンズに…………マジで普通だわね。
「……仕方ないか。じゃ」
「ちょっ!? サーチ、ここで着替えるのですか!?」
「他にどこで着替えるのよ? 周りから見えないんだからいいでしょ」
ビキニアーマーを脱いで下着を着けて……んしょ、んしょ。
「よし、完了! どうよ!」
「「「『…………』」」」
「な、何よ、変?」
「い、いえ……反則ですね」
「反則ですわね」
『サーチ、それは反則じゃぞ』
何が!?
「普通に服着ても際立つスタイルって……どれだけ括れてるのですか!?」
「サーチにはダボッとした服じゃないと、逆に目立ちますわ!」
『サーチ、目立たない為じゃ。サイズが大きいモノに交換じゃな』
何でよ!?
結局着れる服が限られるので、寒くもないのに上着を着せられた。
「ていうか、リジーがキャミにショーパン!?」
リジー、弾ける?




