EP12 ていうか、餃子を作ります。
どうやら火星では植物系の実験生物が多かったらしく、私達に襲いかかってくるのは植物系ばかりだった。
「何ですの、この袋は?」
「ウ、ウツボカズラ!? ナイア、それは食虫植物の捕虫袋だから、中には消化液が!」
ジュウウ……
「きゃああああ! 服が、服があああ!」
……とか。
「ま、また巨大植物ですの!?」
「あ、あの植物は……!」
「今度こそワタクシが片付けてさしあげますわ!」
「あ、ダメ! それはオジギソウだから、触ると……!」
ペコリ ばしぃぃぃん!
「ひいあああああぁぁぁぁぁ…………」
「あ、ブッ飛ばされた」
……とか。挙げ句の果てには。
ダダダダダダダダダダダダ!!
「なななな何なんですの、あれは!?」
「知らないわよ! ヒマワリが花から種を打ち出すなんて、聞いたことないわよ!」
……とか。でもナイアの華々しい活躍によって無事に乗り越えていけるのだった。
「な、何故ワタクシばかりが被害に会いますの!?」
「仕方ないじゃない、止める前に向かっちゃうんだから」
野菜スープをかき混ぜながら、ナイアの愚痴に応じる。結局相次いだ植物系モンスターの襲撃によって、私達の日程は大幅に狂うことになった。
「何故サーチは植物系モンスターに精通しているのですか?」
「いや、精通してるっていうか、全部地球にいた植物ばっかなだけ」
たぶん火星に適応できる植物を研究する……とかいう名目で、あの植物系モンスターは生み出されたんじゃないかな。で、手に負えなくなった研究者が野に放ち、その結果として繁殖してしまったのだろう。
「でも食べられるヤツもいたからいいじゃん。おかげでこの野菜スープができたんだから」
「そうですわね! タマネギの催涙ガスとか、ニンニクの悪臭攻撃とか、ピーマンの苦々攻撃とか!」
全部ナイアが的になってくれたので、私達は落ち着いて対処できたのだ。
「それにしても、ニンニクが手に入ったのは幸運だったわ。死んで以来かな?」
地球で食べようとは思ってたんだけど、何だかんだバタバタしちゃって機会を逃していたのだ。これで餃子が作れる♪
「サーチ、あの悪臭が平気なんですの!?」
「悪臭言わないでよ。メチャクチャ食欲を刺激されるじゃないの」
「えええ!? この匂いでですの?」
ナイアはどうもニンニクの匂いが苦手らしい。
「そうですか? 私はとてもいい香りだと思いますが」
おお、ヴィーは同志だったか!
「クンクン……とってもいい匂いと思われ」
リジーも!
『妾も嫌いではないの。たまには珍味も無いとな』
ついでにマーシャンも!
「だ、駄目なのはワタクシだけですの!?」
「気にしない気にしない。私の前世でもニンニク苦手な人って結構いたから」
「そ、そうなんですの? なら良かったですわ」
「だけど現状ではニンニク苦手派は少数派だから、今夜はニンニクをたっぷり使った餃子にさせてもらいます」
「ええええええっ!?」
餃子が何なのかわからないヴィー達は、ニンニクを使った料理としか理解できない。だけど香ばしい匂いは想像できたらしく、みんなツバを飲み込んでいた。
ぐっちゃぐっちゃぐっちゃ
はい、次の日は餃子作りのために早めに野営。ニンニクとキャベツと長ネギ、肉はずっと冷凍保存されていたオーク肉を使用。全部みじん切りにして、こねくり回す。
「ハンバーグを作る要領なのですね」
「そうそう。ハンバーグはキャベツじゃなくてタマネギだけどね」
小麦粉と片栗粉を混ぜながら、ヴィーは私が作る餃子の中身を見ている。ヴィーは餃子の皮担当。え、何で小麦粉と片栗粉を持ってるんだって? 別にいいじゃん、深く考えるな。
「あとは棒状にして、一個ずつ千切って……」
「麺棒で伸ばして形を作るのですね。わかりました」
おお、流石はヴィー。応用が利く。
「さて、私も仕上げに入りますか……ショウガと醤油を少々、あとは塩……」
完成した具を皮で包む作業は全員で。
「…………」
意外や意外、一番苦手そうに思えたリジーが一番上手かった。普段からチマチマと呪われアイテムを磨いているから、こういう作業は苦にならないのかもしれない。
「あ、あああ! また潰れて……」
そしてさらに意外なことに、一番苦手だったのはヴィーだった。元の世界では≪怪力≫に振り回されて器用なことは何もできなかったから、こういう細かい作業はしたことがなかったのだろう。
「…………」
『…………』
私とマーシャンは普通。ていうか、ロボットのマーシャンが意外と器用で驚き。
『ロボットではない! アンドロイドじゃ!』
はいはい、スマホね。
『ち・が・う!』
ジュウウウウ!!
ハンバーーーグ! ではない。
フライパンで餃子焼きながら、水を足した音だ。けど食欲をそそる音なのは間違いない。某美食家さんが「料理は五感で感じるモノだ」って言ってたけど、こういうときは頷ける。普段なら「ムチャいうな!」って感じだけど。
「さーて、焼けた焼けた。みんな各自で取って食べてね」
「「『いただきまーす!』」」
「…………」
サクッ カリッ
「! 美味しい!」
「中から溢れ出る肉汁が何とも……」
『ニンニクとオーク肉がよくマッチしておるの。妾も初めての味じゃが、とても美味じゃ』
ハイエルフの女王のお墨付き! 三ツ星いただきました!
「…………」
一人寂しく野菜炒めをつつくナイアに、別で作った餃子を渡す。
「サ、サーチ、ワタクシはニンニクが」
「わかってる。ニンニクを入れずに作ったヤツだから」
「サ、サーチ……!」
ナイアは貪りつくように餃子を平らげる。
「美味しい! 美味しいですわ!」
良かった良かった。やっぱり美味しいって言ってもらえるのが、一番作り甲斐があるってモノよ。
次の日。
「く、くっさ〜いですわ」
ニンニクを食べてないナイアだけが匂いに敏感だ。
「え、臭いんですか?」
「食べた人は臭いと感じないからね」
「ならナイア姉だけが?」
「うん。我慢してもらうしかないかな」
そんな会話をしながら歩いていると、マーシャンが不意に後方を見た。
『……羽音…………ま、まさか虫?』
え、虫?
…………ゥゥゥゥン…………
……確かに羽音というか、空気の振動を感じる。
「……マーシャン、そのまさかみたい。向こうに見える霧みたいなの、たぶん虫の群れだわ」
これはマズいかも。毒虫なら防ぎようがない!
「マーシャン、ヴィー、すぐに結界を! ナイアは上空に飛んで、偵察をお願い!」
「「『了解!』」」
ナイアが素早く飛び上がり、マーシャンとヴィーが詠唱を始める。
が。
「サーチ姉! 群れが高速移動を!」
な!? マ、マズい!
「結界は!?」
「ま、まだ時間が……」
『間に合わぬ!』
もう目の前に虫の群れが!
その瞬間!
「げぇーっぷ」
リジーがゲップをした。すると。
ブワッ ブワワワワン!
「あ、あれ? 虫が避けていく……?」
私達を避けて飛び始めた虫達は、一気に上空に昇っていく。
「ど、どうして?」
「私のゲップで?」
…………あ、そうか。
「ニンニクの匂いって、虫には猛毒なんだったわ」
「え? という事は、ニンニクを食べてないナイアは……」
遥か上空で、けたたましい悲鳴があがったのは……気のせいではない。
ニンニクが劇的に虫に効くわけじゃありません。あくまでフィクションです。




