EP10 ていうか、脱線しちゃいます。
こ、このままだと……脱線する!
「マーシャン、向こうへ行って」
『へ?』
「いいから、早く!」
『う、うむ!』
どずぅん!
よし、傾いていた電車が戻った!
「よし、ナイア、先頭車両へ行くわよ!」
「わ、わかりましたわ……うぷっ」
うぷっ?
「お、お【ご想像にお任せ】ええ!」
うわ、汚な!
「……酔い止めの効果が切れたみたいですね」
あーもー! こんな肝心なときに!
「……仕方ない。ヴィー、この場を任せるわ。リジー、付いてきて!」
「うぃ!」
ギィィィ
「ま、また傾き……おげ【見せられないよ】え!」
「陛下、向こう側へ!」
『うむ!』
どずぅん!
「……よし、何とかなりそうです。サーチ、ご武運を!」
「ナイア、酔い止め飲めたら先頭車両に来てね!」
「わ、わかりま……うげ【閲覧注意】ええ!」
……ムリか。なら違う手を考えるか……。
車両のドアを蹴破る勢いで先頭車両を目指す。
「サーチ姉、何でナイア姉が必要だったの?」
「ナイアの月魔術で運転士を惑わせてほしかったのよ!」
「へ? 何で?」
「この電車を暴走させているのは、間違いなく運転士だわ。だとすると、運転士自身も殺し屋の可能性が高い」
「だったら運転士を恐喝して、電車を止めさせれば」
「絶対に止めないわ! いい? 電車を暴走させたとして、真っ先に命の危険が伴うのって誰だと思う?」
「それは……あ、運転士」
「そうよ! つまり、運転士自身が死ぬ覚悟がない限り、暴走させられないのよ!」
「で、でも、暴走するように仕向けて、自分は脱出するって手も……」
「それが一番好都合! そのまま運転席に行って、私達の手で止めればいい!」
「あ、そっか」
「だからね、十中八九運転士は残ってるわ!」
「な、ならどうするの!? 死ぬ覚悟ができてるヤツの説得なんて…………あ、それで」
「そう! ナイアの月魔術で惑わせて、運転士自身に止めさせようと思ったのよ!」
「…………サーチ姉、そこまでしなくても何とかなる」
「へ!?」
「私に考えがある。私に任せて」
「…………よくわからないけど任せた! でも失敗したら……!」
「わかってる。皆を死なせるような事は断固阻止」
リジーを信じるしかない! 頼んだわよ!
「…………あ、サーチ姉。この辺りでストップ」
「へ!?」
「いいからストップ」
言われた通りに止まる。ここは車両の連結部分だけど……?
「サーチ姉、ここを斬る」
は?
「カースブリンガー発動……斬」
ズバンッ!
「ちょっっ!? あ、あんた何を考えて……!」
「カースブリンガー伸びろ……刺」
今度は床に突き立てる!
ドスゥ!
ギギギギギギギギギギギギィィィィ!
「うわわわわわわわっ!?」
ギギギギギギギギギギギギ…………ギギィィィィ!
「……よし、止まった」
………………。
…………どずぅぅぅぅん!
「あ、先頭車両は脱線した模様」
…………な、何て荒業……。
「サーチ姉、無事に止まった。これで良かった?」
……車両を切り離して、ムリヤリ停車させるか……全く考えつかなかったわ。
「……うん、結果良ければ全て良し! リジー、ナーイス!」
「うぃ!」
ぱぁん!
私とリジーのハイタッチの音が、車両内に響いた。
ヴィー達と合流して外に降りてみると、そこは広大な荒野だった。
「……暑ぅ……平均気温が低いとはいえ、さすがに砂漠の真ん中じゃ暑いか」
『サーチ、ライフシステムをONにせい』
は?
『腕に巻いてあるじゃろ。それのスイッチを入れるがよい』
スイッチ……? あ、これか。
カチッ フィーーン
「お……あれ? 涼しくなった」
『ライフシステムという装置じゃ。特殊な結界を張っての、使用者の命に関わるような危険な気候変動から守ってくれるのじゃ』
「……つまり、暑ければ冷やし、寒ければ温めますのね?」
『ま、そういう事じゃ。おそらく元の世界の簡易護符の代替品じゃろ』
なるほど。魔石の入れ替えがないぶん、こっちのほうが楽かも。
「あ、でもエネルギー源は?」
「大気を漂っておるサイ・エネルギーじゃよ。元の世界でいう魔力じゃな」
「魔術関連は全てサイ・何々に置き換わってますわね」
「ていうかナイア、もう酔いは大丈夫なの?」
「降りてしまえば問題無いですわ」
もう少し早く回復してくれればなぁ……。そうすればこれからの苦労はなかったのに。
「それで、これからどうするんですの?」
「これからどうするって……やることは一つしかないじゃない」
「……何ですの?」
「歩く」
「は?」
「ひたすら歩く。次に到着する予定の駅まで、ひたすら歩く」
「あ、歩くって……」
「他に移動手段はあるかしら?」
「で、電車ですわ! 電車を止めて乗せてもらえば……」
「電車って言ってもね、高速鉄道よ? 止まれるわけないし、私達を見つけることすら不可能だわ」
ちなみに、普通の新幹線並みのスピードです。
「う……」
「当然だけど鉄道以外に移動手段はないから」
何度も言ってる通り、火星は未開発の土地が多い。そういう場所は有害物質が満載で、普通の人間なら一分ともたずに死ぬ。
「そんな危険地帯にわざわざ人を行かせるわけないでしょ。鉄道一本分の道を作るのにも多大な犠牲を払ったそうよ」
「つ、つまり鉄道以外の移動手段は……」
「何度も言ってるけど、ない。つまり歩くしかないのよ」
「えっと……次の駅は……」
「西マージニア国までの唯一の鉄道の中継地点。ここからだと……五時間くらい」
東京大阪間の往復くらいか。
「あ、歩くと……」
「ま、三〜四日はいるんじゃない?」
……ナイアはガックリと肩を落とした。
「ま、いいじゃない。元の世界なら歩きが普通だったでしょ? モンスターの心配もいらないくらいなんだから、基本的に楽に行けるわよ」
「……そうですね。食料は沢山買い込んでありますから、三〜四日なら問題ありませんね」
「たまにはのんびりと歩くのもいいと思われ」
『妾は疲れ知らずじゃから問題ないぞよ』
みんなの意見を聞いたナイアは苦笑いし。
「……わかりましたわ。歩きましょう」
……率先して歩き出した。
『あ、少し待つがよい』
「? 何ですの?」
『火星には確かにモンスターはおらぬがの』
ズズズッ メキュメキュメキュ!
『施設から逃げ出して火星に順応した元人工生物が繁殖しておる。気を付けるがよいぞ』
私達の目の前には、でっかい口がついた植物が迫ってきていた。
「は、早く言えええええええっ!!」
いろんな意味で脱線。




